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研究成果・プレスリリース

心筋症病態が男性でより重症となるメカニズムを解明

Medical Research Institute Tokyo Medical and Dental University

木村教授らの難治疾患共同研究拠点における共同研究の成果がヨーロッパ心臓病学会誌(Cardiovascular Research)にオンライン速報版で発表されました。


心筋症病態が男性でより重症となるメカニズムを解明

木村彰方 教授、有村卓朗 准教授(東京医科歯科大学難治疾患研究所分子病態分野)、斎藤能彦 教授、尾上健児 博士(奈良医科大学医学部循環器内科)、久場敬司 准教授、今井由美子 教授(秋田大学医学部実験治療学)、桑原正貴 教授(東京大学大学院農学生命科学研究科比較病態生理学)、山根義久 名誉教授、町田登 教授、田中綾 准教授(東京農工大学農学研究院動物生命科学)、瀬藤光利 教授(浜松医科大学分子イメージング先端研究センター分子解剖学)、重信秀治 特任准教授(基礎生物学研究所生物機能解析センター生物機能情報分析室)、Anne T. Bertrand博士、Gisele Bonne博士(パリ第6大学ピチエ・サルペトリエ病院)他

Arimura T, Onoue K, Takahashi-Tanaka Y, Ishikawa T, Kuwahara M, Setou M, Shigenbu S, Yamaguchi K, Bertrand AT, Machida N, Takayama K, Fukusato M, Tanaka R, Somekawa T, Nakano T, Yamane Y, Kuba K, Imai Y, Saito N, Bonne G, Kimura A: Nuclear accumulation of androgen receptor in gender difference of dilated cardiomyopathy due to lamin A/C mutations. Cardiovasc Res (doi: 10.1093/cvr/cvt106) On-line publication on April 30, 2013

成果のポイント

病態予後に性差(女性患者に比べて、男性患者は予後不良)が認められる拡張型心筋症の多発家系の全エクソーム解析によって、病因となるラミンA/C遺伝子変異(R225X)を同定しました。
ラミンA/C遺伝子変異(H222P)のノックインマウス(ラミン変異マウス)では、雄で拡張型心筋症の病理所見が重症で予後不良であることが報告されていますが、骨格筋病理所見には性差がありませんでした。
予後に性差がある変異(R225X、H222P)をもつラミンA/C遺伝子を導入したラット心筋細胞では、男性ホルモン非存在下で、通常は細胞質内に存在する男性ホルモン受容体(AR)が多く核内に移行していました。
多発家系内患者(男性)およびラミン変異マウス(雄)の心筋組織において、ARの核内移行の亢進が観察されました。このような所見は、ラミン変異マウス(雄)の骨格筋には観察されませんでした。
ラミン変異マウスでは、雄で去勢もしくはAR阻害剤を投与によって予後が改善する一方、雌で男性ホルモンを投与すると予後が不良となりました。この予後の変化は、心臓におけるリモデリング関連遺伝子の発現および心臓線維化における変化と一致していました。
心筋細胞におけるARの核内移行亢進は、心筋特異的に発現するFHL2を仲立ちとして、転写因子SRFの核内移行を亢進し、結果として心筋リモデリング関連遺伝子群の発現を亢進しました。

研究の背景

拡張型心筋症(DCM)は、特に誘因なく心筋収縮機能が低下し、重症の心不全、不整脈や突然死を来す疾患で、厚生労働省の特定疾患に指定されています。DCM患者の20-30%には、常染色体性優性遺伝形式に従う家族歴が認められ、そのような患者では遺伝子変異が原因となることが分かっています。これまでの研究で多くの原因遺伝子が明らかになっていますが、その一つである核膜の構成要素であるラミンA/Cの遺伝子は、フランスのGisele Bonne博士らが発見した原因遺伝子(Bonne G, et al: Nature Genet 11(4):438-40,1995)であり、これまでに最も多くの変異が報告されています。一方、DCMでは男性患者が多いこと(男女比:2.6)や、男性の方が重症ですが、その原因はよく分かっていませんでした。最近、ラミンA/C遺伝子異常に起因するDCM患者の大規模研究によって、男性も女性もともに遺伝子異常を受け継ぐが、男性の方が早く発症し、重症であり、生命予後が不良であることが明らかにされています。これとは別に、分子病態分野の有村卓朗准教授は、BONNE博士の研究室に留学中に、ラミンA/C遺伝子異常(H222P変異)をノックインしたマウス(ラミン変異マウス)を樹立し、このマウスが重症心不全、不整脈、突然死などを呈し、心筋のリモデリングや線維化が生じること、また、ラミン変異マウスは、雄の方が早く発症し、心不全の進行も早く、生命予後が不良であるなど、病態・予後に明らかな性差を認めるDCM動物モデルであること(Arimura T, et al: Hum Mol Genet 14(1):155-169,2005.)を報告しています。分子病態分野では、ラミン変異マウスを用いた病態研究を行い、カルシウム増感剤の投与でDCMの発症遅延が可能であることを報告(Arimura T, et al: J Am Coll Cardiol 55(14):1503-1505,2010「カルシウム増感剤による拡張型心筋症の発症予防」 )していますが、この発症遅延効果には性差がありませんでした。

本研究の成果

家族性に拡張型心筋症を発症する大家系で、男性患者は30~40歳代で心不全を発症し、生命予後が不良であるのに対し、女性患者は50~60歳代まで心機能が保たれていることを見出しました。この家系の原因を究明するために全エクソーム解析を行ったところ、ラミンA/C遺伝子に終止変異(R225X)が発見されました。家系解析の結果、H225X変異と拡張型心筋症の連鎖が確認されましたので、この変異が病因であると考えられました。
本疾患の性差において、男性ホルモンが予後悪化因子であるまたは女性ホルモンが予後良好因子であると考えられるため、ラミンA/C変異(R225XおよびH222P)遺伝子をラット初代培養細胞に遺伝子導入し、男性ホルモンレセプター(アンドロゲンレセプター:AR)および女性ホルモンレセプター(エストロゲンレセプター:ERαおよびERβ)の細胞内分布を検討したところ、変異ラミンA/C遺伝子を導入した場合に特異的にARの核内移行の亢進が観察されました。また、性差を示さないラミンA/C変異(delK32)ではこのような変化は観察されませんので、特定のラミンA/C変異がもたらす機能異常であると考えられました(図1)。
ARの核内移行亢進が実際にラミンA/C変異を有する患者の心臓組織やラミン変異マウスの心臓組織に生じているか否かを病理標本で調べたところ、核内にARが集積している心筋細胞が患者(図2)、マウス(図3)ともに多数確認されました。また、ARによる転写活性化の補因子であるFHL2およびSRF(serum response factor)の細胞内分布を調べたところ、同様に核内移行が亢進していました。このような変化は、ラミンA/C遺伝子に変異のない別の患者の心筋やdelE32変異ノックインマウスおよび心肥大モデルマウス(GC-Aノックアウトマウスおよび胸部大動脈結紮マウス)の心臓では観察されないため、性差を示す拡張型心筋症病態に特異的な現象と考えられました。さらに、ラット初代心筋培養細胞を用いた実験から、AR-FHL2-SRFの核内移行は、主に心臓に強く発現するFHL2を抑制すると生じないことから、FHL2が仲介する現象であることが判明しました。このことは、FHL2がわずかしか発現しない骨格筋の病理像には性差が観察されないことと一致した所見です。また、SRFは心不全時に活性化する心臓リモデリング遺伝子群の転写制御因子であることから、これらの知見は男性ホルモンが拡張型心筋症の悪化因子であることを強く示唆します。
男性ホルモン(アンドロゲン)が病態悪化因子であることを直接示すために、ラミン変異マウスで性腺除去(雄:去勢、雌:卵巣摘出)を行ったところ、未処置群(平均生存期間は雄で8.09月、雌で10.10月)に比較して、雄では著明に延長(平均生存期間:10.25月)し、雌でもやや延長(平均生存期間:11.07月)しました(図4)。また、生存期間の延長効果に一致して、ラミン変異マウスの心機能および心臓の病理所見は性腺摘出によって改善しました。アンドロゲンは雌の卵巣でも作られることから、この生存期間の延長・病理所見の改善は、アンドロゲンによる直接効果であることを示すために、雄マウスにアンドロゲンレセプター阻害剤(フルタミド)を投与したところ、同様に心機能および心臓病理所見の改善効果を認めました。一方、雌マウスや去勢した雄マウスにアンドロゲン(テストステロン)を投与すると、心機能および心臓病理所見の悪化が観察されました(図5)。さらに、これらの病理所見の改善・悪化に一致して、心臓リモデリング関連遺伝子の発現亢進および心筋線維化の改善・悪化が確認されました。
これらのことから、ラミンA/C変異による拡張型心筋症の病態発現の性差は、男性ホルモンによってもたらされていることが解明されました。また、心筋細胞におけるARの発現性が病態の性差と密接に関連することが明らかになり、このような所見を呈する患者では、アンドロゲンレセプター阻害剤によって拡張型心筋症の病態進行を抑制する可能性が示されました。最近、低用量アンドロゲン投与が心不全に有効であるとの報告が出されていますが、アンドロゲン治療が逆効果となる場合があることを示す警鐘となります。

謝辞

本研究は、文部科学省科学研究費補助金、東京医科歯科大学学長裁量経費(フォローアップ研究費)および難治疾患共同研究拠点共同研究経費(共同研究者:秋田大学・医学部・准教授 久場敬司)等の助成を受けて実施しました。

図1.LMNA遺伝子を導入したラット心筋細胞におけるARの分布
H222PもしくはR225X変異を有するLMNA遺伝子導入はARの核内集積をもたらす。


図2.ヒト心筋細胞におけるAR分布
LMNA-R225X変異を有する患者ではARの核内集積を認める。

図3.マウス心筋細胞におけるAR分布
LMNA-H222P変異を有するマウスではARの核内集積を認める。


図4.LMNA-H222P変異ノックインマウスの生存曲線
雄マウスを去勢すると雌マウスと同程度まで生存予後が改善する。


図5.LMNA-H222P変異ノックインマウスの病理所見
雄マウスの去勢(Cast)は病理所見を改善するが、男性ホルモン投与(Test)で悪化し、
AR阻害剤投与(Flut)で改善する。雌マウスでは男性ホルモン投与(Test)で悪化する。
1;心臓マクロ所見、2;心室筋HE染色所見、3;心室筋シリウス染色所見