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研究成果・プレスリリース

肥大型心筋症に見出されたANKRD1変異が与える心筋収縮パラメーターへの影響

Medical Research Institute Tokyo Medical and Dental University

国際研究者派遣プログラム(平成23年度)によって得られた研究成果が論文発表されました。

分子病態分野の有村卓朗准教授は、国際研究者派遣プログラム(派遣期間:H23.5.6~6.7)によって、ドイツのハンブルク-エッペンドルフ大学医学部基礎・臨床薬理・毒性部門(Thomas Eschenhagen教授)に派遣され、Engineered Heart Tissue System (EHTs) のプラットホームを用いた研究を実施しましたが、その研究成果が論文として発表されました。

派遣プログラム報告書は以下に掲載されています。


http://www.tmd.ac.jp/mri/guide/program/h23/01.html

肥大型心筋症に見出されたANKRD1変異が与える心筋収縮パラメーターへの影響

研究成果の概要は以下の通りです。


l 題名:Impact of ANKRD1 mutations associated with hypertrophic cardiomyopathy on contraction parameters of engineered heart tissue(肥大型心筋症に見出されたANKRD1変異が与える心筋収縮パラメーターへの影響)
l 著者:#CrociniC,#ArimuraT,Reischmann S,Eder A,Braren I,Hansen A,Eschenhagen T,*Kimura A,*Carrier L.(#; equal contribution,*;corresponding authors)
l 雑誌:Basic Research in Cardiology 108(3): 349 (doi: 10.1007/s00395-013-0349-x)

肥大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy,HCM)は、特に誘因なく心室筋の肥大と拡張障害を来し、心不全や突然死の原因となる疾患であり、厚生労働省の特定疾患に指定される難病です。患者さんの多くには常染色体性優性遺伝形式に従う家族歴が観察されることから、HCMは家族性心筋症とも呼ばれ、その原因は遺伝子異常にあると考えられていましたが、実際に近年の遺伝学的研究によって、種々の遺伝子異常がもたらす心筋の収縮要素(サルコメア)を構成するタンパクの機能異常が病因であることが明らかになって来ました。難治疾患研究所分子病態分野では、これまでにHCMの原因となる遺伝子異常を多数明らかにして来ました。そのひとつはANKRD1遺伝子異常(CARPタンパク異常)ですが、HCM多発3家系に3種類の変異(P52A,T123M,I280V)を同定し、これらの変異が存在すると、いずれの場合にもCARPタンパクの核内移行亢進とタイチン結合性異常が生じることを報告しました(Arimura T, et al: Cardiac ankyrin repeat protein gene (ANKRD1) mutations in hypertrophic cardiomyopathy. J Am Coll Cardiol 54(4): 334-342, 2009)。しかしながら、これらのANKRD1遺伝子変異が心筋収縮力にいかなる影響を与えるかは不明でした。そこで、試験管内で心筋細胞から心筋組織を再構成するシステム(EHT)を用いて、より生体に近い状況で、ANKRD1変異が心筋収縮パラメーターに及ぼす影響を検討しました。その結果、T123M変異は心筋の収縮力を亢進することが判明しましたが、P52A変異やI280V変異にはそのような効果は観察されませんでした(図1)。一方、EHT心筋細胞内におけるCARPタンパクの分布を調べたところ、T123M変異があっても、正常の場合と同様に、CARPタンパクはサルコメアに取り込まれるのに対し、P52A変異やI280V変異があるとCARPタンパクがサルコメアにほとんど取り込まれていないことが判明しました(図2)。しかしながら、EHTをプロテアゾーム阻害剤(epoxomicin)で処理した場合には、P52A変異やI280V変異があってもCARPタンパクはサルコメアに取り込まれていました(図2)。このことから、P52A変異やI280V変異はCARPタンパクの細胞内分解を亢進させると考えられました。ついで、プロテアゾーム阻害剤(epoxomicin)処理しない場合と、処理した場合でEHTにおける収縮・弛緩パラメーターを検討したところ、I280V変異特異的に弛緩時間が延長することが判明しました(図3)。

これらの結果は、ANKRD1変異による心筋収縮パラメーターへの影響が変異ごとにかなり異なっていることを示しており、同じ優性遺伝形式をとっていても、T123M変異はgain-of-function効果、I280V変異はdominant-negative効果で疾患発症に寄与すると考えられました。

図1.正常もしくは変異ANKRD1を導入したEHTにおける収縮力パラメーターの測定


図2.正常もしくは変異ANKRD1を導入したEHTにおけるCARPタンパクの安定性

図3.正常もしくは変異ANKRD1存在下でのEHTの収縮・弛緩パラメーター