最近公表した主な研究成果


1:
DOK7型筋無力症(DOK7 myasthenia:参考文献英文−2/和文−1、2)に認められたDok-7蛋白質の構造異常を検討した結果、PHドメインやPTBドメインをもつN末端側ではなく、ドメイン構造の認められないC末端領域に殆どの変異が集中していることが判明した(下図参照)。本研究においては、C末端領域に核外移行シグナル(NES: nuclear export signal)とSH2結合配列(Y)を見出し、Dok-7機能における重要性を明らかにした。PH、PTBドメインは細胞膜、MuSKとの相互作用に各々重要と考えられ、NESはPHドメインに我々が見出した核内移行活性に対抗してDok-7を細胞質に引き戻すために必要と考えられる。また、SH2結合配列はSH2ドメインをもつMuSK活性化の補助因子との会合に必要なのかもしれない(参考文献:英文−1)。



2:
David Beeson教授らの症例についてdok-7遺伝子変異を探索したところ、その両アレル性の異常が神経筋接合部(NMJ)の形成不全を伴う先天性筋無力症候群の発症と一致することが判明した(右パネル)。また、最も多くの症例に認められるC末端欠失変異(1124_1127dupTGCC)がDok-7による後シナプス構造の誘導機能を著しく減弱させることも明らかとなった。これらの知見から、dok-7がNMJ形成不全型CMS(DOK7型筋無力症)の原因遺伝子であると結論された(参考文献:英文−2/和文−1、2)。



3:
我々がDokファミリー分子の新たなメンバーとして単離したDok-7は、骨格筋収縮の運動神経支配に必須のシナプスである神経筋接合部(NMJ: Neuromuscular Junction)の後シナプス部位に局在し、受容体型チロシンキナーゼであるMuSKの活性化に必須の役割を担っている。MuSKの機能が神経筋接合部の後シナプス部位の形成に不可欠であることを考えると、この研究成果は、運動神経由来のAgrinと筋内在のDok-7によるMuSKの強い活性化がNMJの形成に必須であることを意味している。事実、我々が世界に先駆けて樹立したDok-7欠損マウスは神経筋接合部を欠き、呼吸を含めた運動機能の欠損を呈した(参考文献:英文−3/和文−1、2)。



4:
Dok-1/2の抑制機能にはp120 rasGAPとの会合が重要とされるが、Dok-1/2と同じくRas-Erkシグナルを抑制できるDok-3はp120 rasGAPをリクルートしない。そこで、Dok-3を強くチロシンリン酸化する活性化型Src(Src YF)の存在下でのみFLAG標識したDok-3と会合する分子を探索し、Grb2を同定した(参考文献:英文−4)。



5:
アダプター分子Grb2のSH2ドメインの会合配列がDok-3上にあることに着目し、それを欠失した変異体を作成したところ、Grb2との会合能に加え、Ras-Erkシグナルに対する抑制能をも失うことが判明した。さらに、Dok-3は、Rasの活性化因子であるGrb2:Sos複合体の正のシグナル分子への会合を、Grb2との会合に依存する形で阻害した。以上のことから、血球に高発現する抑制性のDokファミリー分子の内、Dok-1/2はp120 rasGAPをリクルートすることで、また、Dok-3はGrb2:Sos複合体をシグナル系から排除することで、共に、Ras-Erkシグナルに抑制的に機能することが明らかになった(参考文献:英文−4)。


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