お知らせ

慢性腎臓病患者において、高体重は短期予後の予測因子である
― 国内大規模DPCデータベースを用いて ―

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県腎臓疾患地域医療学寄附講座教授の頼建光教授と医療政策情報学分野の伏見清秀特別研究教授、腎臓内科の菊池寛昭大学院生の研究グループは、透析期腎不全患者のみならず、透析導入となっていない時期の慢性腎不全患者においてもBMI高値が予後良好となり得る可能性を示しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌 PLOS ONE に、2018年11月29日にオンライン版で発表されました。

ポイント

  • 血液透析患者において、BMI(肥満度を表すボディマス指数) 高値が生命予後良好と関連する現象、”肥満パラドックス”が近年注目されています。しかし、保存期(透析未導入)の慢性腎臓病(CKD)患者における至適BMIについては未だ画一的な基準は存在しません。
  • 本研究は、国内の大規模データベースであるDPCデータを用いて、緊急入院となった約2万6千人の透析導入となっていないCKD患者を抽出し、感染症合併の有無、糖尿病合併の有無で層別化を行い、各群におけるBMIと院内死亡率の関連を検証しました。DPC (Diagnosis Procedure Combination) とは分析可能な日本全国統一形式の患者臨床情報・診療行為の電子データセットで、全国で1700以上の病院が参加しており、日本の全入院患者数の約50%の患者データをカバーしています。
  • 感染症合併群では糖尿病の有無に関わらずBMI高値になるにつれて予後良好となる傾向が認められましたが、感染症非合併群においては、糖尿病を合併する場合は、超高体重群において予後良好となる関連は認められませんでした。
  • 糖尿病非合併のCKD患者においては、感染症合併の有無に関わらず、高体重が短期予後良好と関連する傾向が認められました。今後、CKD患者において十分なカロリー摂取と体重維持がより重要視される可能性が示唆されました。

研究の背景

慢性腎臓病(CKD)は世界的に有病率が極めて高い、進行性の疾患です。CKDは進行すると、末期腎不全となり透析療法を必要とするだけでなく、心疾患やサルコペニアなどの重大な合併症を引き起こし予後不良となることが知られています。
CKD患者は塩分制限や蛋白摂取制限などで、摂取カロリーが制限される傾向にあり、それが生命予後に与える影響は明らかにされてきておりませんでした。また、血液透析患者においては、BMI高値が生命予後良好と関連する現象、肥満パラドックスが報告されていますが、透析導入となっていない時期(保存期)のCKD患者における至適BMI管理については、CKDの病態の複雑さ、多様さから研究が困難であり、未だ画一的な基準は存在しませんでした。

研究成果の概要

日本国内大規模診療データベースであるDPCデータを用いて、過去3年分の日本全国の入院患者情報、処方内容、診療内容などを収集し、緊急入院(非計画入院)となった約26000人の透析未導入のCKD患者におけるBMIと入院時死亡の関係について検証しました。
著者らは、まず、抽出症例のBMIを四分位数を用いて4群 (Q1-Q4)に分割し、さらに感染症の合併の有無で分け、全てで8群に分割しました。主要評価項目は入院後100日以内の院内死亡とし、Cox比例ハザード解析を用いて検証しました。結果、炎症性疾患合併の有無に関わらず、痩身(Q1)は死亡リスクを増大させる事が分かりました。(HR: 1.82; 95% CI 1.51-2.19, HR 1.39; 95% CI 1.16-1.67) また、BMIが高ければ高いほど、入院中の予後が良好となる傾向がありました(図1)。

患者群を糖尿病の合併の有無によって層別化しますと、痩身(Q1)は変わらず予後不良でしたが、糖尿病を合併する感染症非合併群では、肥満による生命予後に対するメリットは減弱しました(図2)。

糖尿病非合併患者群(左図)では、炎症の有無に関わらず、超高体重群(Q4)が生命予後良好ですが、糖尿病合併群(右図)では感染症非合併群において、超高体重群(Q4)のメリットが高体重群(Q3)と比べて目立ちません。

研究成果の意義

本研究は国内の大規模診療データベースを用いることで、保存期腎不全患者において、感染症の有無、糖尿病合併の有無による細かい層別化を可能とした点、また、それぞれの群においてBMIと生命予後との関連を明らかにした点、また、高体重が保存期CKDにおいて、生命予後の観点では有利となる可能性を示唆した点において臨床的な意義があると考えられました。本研究の結果は、CKD患者におけるより適切な栄養管理の進歩へと寄与する可能性があります。

論文情報

掲載誌: PLoS ONE
論文タイトル: Short-term prognosis of emergently hospitalized dialysis-independent chronic kidney disease patients: a nationwide retrospective cohort study in Japan

問い合わせ先

研究に関すること

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
茨城県腎臓疾患地域医療学寄附講座教授 頼 建光(ライ タテミツ)
TEL:03-5803-5214 FAX:03-5803-5215
E-mail:trai.kid@tmd.ac.jp

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