当科開発の治療と検査
当科で開発された前立腺癌診断ノモグラム
前立腺癌の診断には、前立腺生検を行い前立腺癌の存在を組織学的に証明することが必須です。生検を行うか否かはPSA値を中心に判断することが多いですが、生検での癌の発見率は30~40%程度で、半数以上は不要な検査となっている可能性があります。これは、生検による癌の見逃しの可能性もありますが、PSA値は癌以外でも異常値となりうることが主な原因と考えられています。前立腺生検は患者さんへの侵襲を伴うことに加え、時間、コスト、医療資源を要するので、より正確に生検の適応を決め、生検対象を絞り込み、不要な生検を回避することが必要です。これまでPSA以外の前立腺癌のリスク因子として年齢、家族歴などのほか、フリーPSA、前立腺体積などの指標が提唱されてきましたが、いずれの因子も単独では生検の適応を判断することはできません。しかし、これら多数の因子を同時に考慮して前立腺癌の有無を予測する手法として、ノモグラムの有用性が報告されてきました。
前立腺癌診断(生検で前立腺癌が検出される確率を算出する)のためのノモグラムはこれまでいくつも報告されてきています[1]。どのノモグラムが最も優れているかを判断するのは難しいですが、優れたノモグラムに求められる条件はいくつかあります。1つはノモグラムを作成する基準となる集団の「質」です。ノモグラムは実際に生検を行った多数例の結果に基づいて作られますが、その集団が大きい(数が多い)ほど望ましいです。また、生検を受けた人の中には、本当は癌があるのに癌を検出できない(見逃してしまう)人が存在します。現在のところ、このような癌の見逃しの無い生検法は存在しませんが、癌の見逃しがより少ない集団に基づくほうが正確なノモグラムを作ることができます。2つめは、作成されたノモグラムを他の症例に適応した場合(外部検証)に再現性があるか、一般性があるか、予測能、予測特性に問題がないかを確認していることです。3つめは使用するノモグラムを選択する場合の条件ですが、これから癌の確率を算出しようとする対象(患者さん)に「近い」集団で作成されたノモグラムを使用することです。具体的には同じ人種に基づくノモグラム、なるべく最近に作られたノモグラム、患者さんの状況(初回か再生検か?など)に合ったノモグラムを選択することです。これまでに作られた前立腺癌診断のノモグラムはほとんどが欧米からのものです。
当科では以前より前立腺多カ所立体生検(26カ所あるいは14カ所)を行うことにより、1回の生検でより精細に前立腺癌の有無を診断しています。そして、当科独自のより精細な生検の結果に基づき、前立腺生検において前立腺癌があるかどうかを予測するノモグラムを開発し発表してきました。初めて前立腺生検を受ける場合のノモグラム[2]は、当科において12カ所以上の多カ所生検を受けた1000例以上の生検結果から作成しました。このノモグラムは高い癌検出率をもつ多カ所生検に基づき、外部検証により高い予測能、再現性を確認しています。また、以前に生検を受けたことのある場合は、過去の生検で得られた情報や、再生検を受けるまでの経過において得られた情報を十分に考慮する必要があります。このため、再生検の適応は初回生検の適応とは異なった基準で決める必要があります。再生検の場合のノモグラムは、2回目以降の生検として当科において14カ所以上の立体生検を受けた症例に基づき、現在作成中です。
実際のノモグラムは下図のようになりますが、図の上でポイントをプロットして予測値を得るのは面倒な作業です。現在、これまでに報告されたノモグラムの一部はインターネット上に公開されており、予測因子を入力するだけで予測値が自動計算されます。当教室で開発したノモグラムに基づく自動計算はこちらからどうぞ。

文献2より
- 年齢(Age)、直腸診所見(DRE)、PSA値、フリーPSA値(fPSA)をそれぞれプロットする。
- 各プロット点からPointsバーへ垂線を引き、交点が各因子のポイントとなる。
- 各ポイントの合計値をTotal pointsとしてプロットする。
- Total pointsのプロット点からProbability of prostate cancerへ垂線を引き、交点が前立腺癌の確率となる。
参考文献
- Shariat SF, Karakiewicz PI, Roehrborn CG, Kattan MW. An updated catalog of prostate cancer predictive tools. Cancer 2008; 113: 3075-99
- * Kawakami S, Numao N, Okubo Y, et al. Development, validation and head-to-head comparison of logistic regression-based nomograms and artificial neural network models predicting prostate cancer on initial extended biopsy. Eur Urol 2008;54:601-11.
*当教室の論文



