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ミトコンドリア

  1. 一般向け研究紹介: ミトコンドリアの形とそのダイナミクス
  2. 専門家向け研究紹介: ミトコンドリア形態制御の分子機構と生理機能
  3. 最新の研究成果: 個体発生におけるミトコンドリア分裂の意義の解明(Nature Cell Biology)

1.一般向け研究紹介

ミトコンドリアの形とそのダイナミクス

オルガネラ膜のダイナミクス

私たちの細胞の中身はいつもきれいに「整理・整頓」されていて、そのため多くの複雑な反応を同時に処理できるようになっています。細胞内は膜で区画化されていて、これらは「細胞内小器官(オルガネラ)」と呼ばれています(図1)。私達はこの細胞内小器官の膜構造が変化するメカニズムに興味を持って研究を行っています。

図1 オルガネラの模式図

図1 オルガネラの模式図

真核細胞内の細胞内小器官(オルガネラ)を図示している。ミトコンドリアは、小胞輸送でつながれた分泌・エンドサイトシス経路(下)とは独立して形成・維持されている。

ミトコンドリアとは

ミトコンドリアは酸素呼吸を行なうことにより細胞内のエネルギーのほとんどを作り出す細胞内小器官です。さらにミトコンドリアはアポトーシス(細胞死)でも中心的な働きをしており、細胞の生と死の両面の制御に重要な役割を持っています。ミトコンドリアの起源は共生した細菌だったと考えられており、その名残としてミトコンドリアは細胞とは別に自身の遺伝子(DNA)を持っています。しかし現在ではミトコンドリアは宿主の細胞のコントロールの元に増殖しています。

ミトコンドリアは細長い2重膜構造のオルガネラです。生きた細胞の中では、ミトコンドリアは融合と分裂を頻繁に繰り返しながらその形態をダイナミックに変化させています。

図2 ミトコンドリアの融合と分裂

図2 ミトコンドリアの融合と分裂

ミトコンドリアは分裂して小さくなり(左)、融合して細長いネットワークを形成します(右)。

生細胞内で融合と分裂は頻繁に観察され、また細胞の分化・応答時にはこのバランスが変化します。

ミトコンドリアのダイナミクス

これまで、私達の体の中のミトコンドリアがどのように動き、増殖し、形を変えているのかほとんど観察されてきませんでした。最近の研究からミトコンドリアの膜構造形成に関与する遺伝子が同定され、このミトコンドリアの形態変化によってアポトーシスが制御されること、ミトコンドリア形態形成遺伝子の変異が神経変性疾患の原因となることがわかってきました。今後、ミトコンドリアの分裂や融合反応は、ミトコンドリアが関与する多くの疾患・病態の新たな治療ターゲットとなる可能性が考えられます。

現在私達は、ミトコンドリアの分裂と融合が

  • (1)どのように制御されているのか(分子メカニズム)
  • (2)どのような機能を持っているのか(生理的機能)

を明らかにする目的で基礎的な研究を行っています。

図3 ミトコンドリアの融合と分裂のモデル

図3 ミトコンドリアの融合と分裂のモデル

ミトコンドリアが融合・分裂するには複数のGTPase(GTP加水分解酵素)群が必要であることがわかっています。

これから明らかにしていきたいこと

☆融合・分裂反応の分子メカニズムの詳細を理解したい☆

これまでに融合・分裂に関与するGTPase群が同定されてきていますが、その機能の詳細はほとんど理解されていません。私達は新規因子の同定及び解析を進めており、細胞生物学的手法に加えて、単離ミトコンドリア・精製蛋白質を用いた生化学的手法を駆使して、ミトコンドリア膜構造制御の分子基盤を明らかにすることを目指しています。

☆ミトコンドリアはなぜ変化するのか、その生理的意義を理解したい☆

ミトコンドリアは細胞応答・組織分化時にダイナミックに形態を変化させます。ヒト遺伝病、遺伝子欠損マウスの解析から、これらの因子が究めて重要であることがわかりつつあります。しかしなぜミトコンドリアは融合・分裂するのか、その生理的意義はほとんど理解されていません。私達は、細胞培養およびマウス分子遺伝学的手法を用いてミトコンドリアダイナミクスの生理機能の解析を進めています。分子機構解析から得られた情報を応用して、個体でのミトコンドリアダイナミクスの詳細理解を目指しています。

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2.専門家向け研究紹介

ミトコンドリア形態制御の分子機構と生理機能

ミトコンドリアはダイナミックなオルガネラであり、融合が活性化するとより長くつながった構造が、逆に分裂が活性化すると小さな断片化したミトコンドリアが形成される。近年、局在の異なるGTPase群がミトコンドリア融合・分裂に関与することがわかってきた(図1)。私たちはこれらのGTPaseの解析を中心として、ミトコンドリア膜ダイナミクスの分子機構解明を目指して研究を行っている。

図1 ミトコンドリア形態制御に機能するGTPaseたち

図1 ミトコンドリア形態制御に機能するGTPaseたち

Drp1は細胞質・外膜に局在し、分裂に機能する。Mfn1/Mfnは外膜に局在し融合に機能する。

OPAは膜間スペースに局在し、融合及び内膜クリステ構造形成に機能する。

哺乳動物ミトコンドリアの融合反応の可視化

 ミトコンドリアは外膜と内膜の2つの膜から形成されており、ミトコンドリア融合時には外膜融合に引き続いて内膜の融合がおこる。私達はミトコンドリアを蛍光蛋白質で標識し生細胞観察を行うことにより、ミトコンドリアは頻繁に融合し、その内容物を交換できることを明らかにしている(図2)。

図2 ミトコンドリア融合反応の可視化

図2 ミトコンドリア融合反応の可視化

ミトコンドリアを異なる蛍光蛋白質で可視化して細胞融合する(融合前:左)

生細胞観察を行うと2色のミトコンドリアが融合していく過程を観察できる(中央から右へ)

Mitofusin (Mfn)によるミトコンドリアの融合

 ミトコンドリア外膜の融合には外膜のGTPase、 Mitofusin (Mfn)が機能する。私達は哺乳動物 から2つのMfnアイソフォーム(Mfn1, Mfn2)を単離・解析し、2つのMfnアイソフォームは機能分担しており、協調的に機能してミトコンドリア融合を制御していることを示している。

 さらにMfn蛋白質の機能を生化学的に解析を行ったところ、Mfn1はGTP加水分解に依存して2つのミトコンドリアを結合させる機能を持っていることが明らかになった(図3)。一方構造解析から、Mfn1のC末端領域は細胞質で二量体を形成することも報告されている。しかし、この後の膜融合の分子機構、Mfn2の機能など、ミトコンドリア融合反応には明らかにすべき重要な問題が多く残されている。

図3 Mfn1によるミトコンドリアの結合

図3 Mfn1によるミトコンドリアの結合

GTPの加水分解に依存してミトコンドリアを結合する

OPA1の切断とミトコンドリア融合制御

 ミトコンドリア膜間スペースに局在するダイナミン様GTPase、OPA1は神経形成異常となる神経変性疾患 Dominant Optic Atrophy type Iから同定された、ミトコンドリア融合に関与する蛋白質である。

 上記図1のミトコンドリア融合解析の過程で、私たちはミトコンドリア内膜の膜電位がミトコンドリア融合に必須であることに気が付いた。膜電位によるミトコンドリア融合の制御機構を解析した結果、膜電位が消失するとOPA1がミトコンドリア内で切断され、その活性を失うことを見出した(図4)。この切断はアポトシス誘導時にも観察される。つまりOPA1はミトコンドリア呼吸活性のセンサーとして機能し、活性が落ちたミトコンドリアの融合を 押さえていると考えられる。「働きの悪いミトコンドリアは細胞内のミトコンドリアネットワークから排除してしまう」 ことになるため、ミトコンドリアの品質管理にとって都合の良い機構であるといえるだろう。

図4 OPA1の切断によるミトコンドリア形態制御

図4 OPA1の切断によるミトコンドリア形態制御

膜電位の消失に伴いOPA1が切断され、ミトコンドリア融合が抑制される。

ミトコンドリアの分裂、細胞分裂期のミトコンドリア形態変化

 ミトコンドリアは細菌(α-プロテオバクテリア)の共生を起源にしたオルガネラであると考えられている。共生の初期段階には細菌型の分裂を行っていたようだが、酵母や哺乳動物では細菌型の分裂装置は見られず共生後に新たな分裂システムを獲得した。細胞質に局在するダイナミン様GTPase・Drp1とミトコンドリア外膜蛋白質Fis1がミトコンドリア分裂に機能することが明らかになっている(図1)。

 細胞分裂期のミトコンドリアのダイナミクスを観察したところ、細胞分裂期にはミトコンドリアが小さく断片化して、娘細胞に分配されたあとで長いミトコンドリアのネットワーク構造が再び形成されることに気が付いた(図5)。このミトコンドリア分裂はDrp1の機能に依存していた。

さらに私達は、細胞分裂期にはDrp1がMPF (Cdk1/cyclinB)によって1箇所だけ特異的にリン酸化され、活性化することによって、ミトコンドリアが分裂することを明らかにしている。この発見の後に、Drp1はリン酸化のみならずユビキチン化、SUMO化などさまざまな翻訳後修飾を受けて機能が制御されていることが明らかにされてきている。

図5 細胞分裂期のミトコンドリア分裂

図5 細胞分裂期のミトコンドリア分裂

細胞分裂期にはミトコンドリア分裂因子Drp1がリン酸化され、分裂が促進されるためミトコンドリアが小さく断片化する。

一方、Drp1発現抑制細胞では細胞分裂期でも長いミトコンドリアが観察される。

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3、最新の研究成果:

個体発生におけるミトコンドリア分裂の意義を解明し、Nature Cell Biologyに報告しました

「ミトコンドリアの分裂は胎児期発生と神経形成に不可欠である」

N. Ishihara, M. Nomura, A. Jofuku, H. Kato, S. O. Suzuki, K. Masuda, H. Otera, Y. Nakanishi, I. Nonaka, Y-i. Goto, N. Taguchi, H. Morinaga, M. Maeda, R. Takayanagi, S. Yokota, and K. Mihara.

Mitochondrial fission factor Drp1 is essential for embryonic development and synapse formation in mice

Nature Cell Biology, 11: 958-966 (2009)

ミトコンドリアは細胞内のほとんどのエネルギーを生産する細胞内の発電所として必須の機能を持っています。同時に、ミトコンドリアはアポトーシス・細胞内カルシウム制御・酸化ストレスなどの細胞制御経路を介して、代謝・神経変性など多様な高次生命機能や病態に関与していることから現在幅広い分野から注目を集めるようになっています。

ミトコンドリアは酸素呼吸細菌の共生を起源とすると考えられており、細胞の中で融合と分裂を繰り返しながらダイナミックにその形態を変化させています。ほとんどの生物のミトコンドリアは共生前に持っていたと思われる細菌型の分裂装置を失っており、現在はDrp1(ダイナミン様蛋白質)に依存して分裂していることがわかっています。

今回、私達は世界で初めてミトコンドリア分裂因子を欠損したマウスを構築しました。その解析から、ミトコンドリアの分裂は胎児期における発生、特に神経系の発達に必須な機能を持っていることが明らかになりました。

図

今回、私達は世界で初めてミトコンドリア分裂因子を欠損したマウスを構築しました。その解析から、ミトコンドリアの分裂は胎児期における発生、特に神経系の発達に必須な機能を持っていることが明らかになりました。

今回の研究成果の概要(ミトコンドリア分裂の生理機能のモデル)

左図:正常の個体ではミトコンドリアは神経細胞内で分散して分布しており、またシナプスを介した神経ネットワークが形成されます。

右図:ミトコンドリア分裂不全の個体では、個々のミトコンドリアが非常に大きくなっており、神経突起の中に進入したミトコンドリアはあまり見られません。その結果、シナプスが形成されず、神経細胞死が引き起こされると考えられます。

[詳細な解説]

結果1:ミトコンドリアの分裂はマウス初期発生に必須である

Drp1全身欠損マウスは受精後の胎児期発生の過程で致死となります。つまりミトコンドリアの分裂はマウス初期発生に必須であることが明らかになりました。

結果2:ミトコンドリアの分裂はミトコンドリア活性に必須ではない

Drp1を欠損したマウス胎児でも、ミトコンドリア呼吸活性は維持されていました。またDrp1を欠損したマウス胎児繊維芽細胞は、正常細胞と同様の増殖能を持っていました。つまり、ミトコンドリアの分裂は細胞の生存やエネルギー生産には必須でないことが明らかになりました。

結果3:ミトコンドリアの分裂は神経形成に必須である

Drp1を欠損したマウス胎児の脳で神経細胞死が観察されました。神経細胞のみでDrp1を欠損したマウスは生後すぐ死亡しますが、このとき脳の発達障害と神経細胞死が見られます。

 さらに、神経細胞を単離・培養し、また分化させる実験を行いました。ミトコンドリアが分裂できないとミトコンドリアがつながって大きくなり、細長い神経突起の中を運ばれていくことができなくなりました。その結果、神経間のシナプスが形成されず神経細胞死が誘導されることが明らかになりました。

補足解説1:ミトコンドリアの分裂と増殖について

今回、Drp1を欠損したマウス胎児繊維芽細胞の解析を行ったところ、ミトコンドリアの量と活性はほとんど正常細胞と差が見られないことを見いだしました。このことは、「ミトコンドリアの増殖は必ずしも分裂と同期していない」ことを示しています。通常、細胞は細胞分裂により増殖していきますが、ミトコンドリアは分裂しないままでも大きくまた長くなって量的増加を続けることができるのです。

補足解説2:Drp1の細胞死(アポトーシス)への関与について

Drp1はアポトーシス制御に関与することが知られています。今回の私達の解析から、Drp1欠損細胞ではミトコンドリア膜間スペースからのシトクロムcの細胞質への放出が遅延すること、他の因子群(Smac/DiabloやTim8a)の放出には影響が見られないことがわかりました。つまり、Drp1は外膜の膜透過性には影響を与えないにもかかわらず、シトクロムcの放出を促進していることが明らかになりました。

 一方、上記結果3のように、Drp1を欠損した神経細胞では逆に細胞死が誘導されます。これは神経細胞内でのミトコンドリア分裂は、シトクロムc放出制御とは異なる、より重要な生理的意義を持っていることを示しています。

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