20.嗅 覚 (olfaction)

 嗅受容器によって司られている感覚を嗅覚という。人では上鼻甲介及び鼻中隔の 上方の黄褐色をした嗅粘膜(Olfactory epithelium)に嗅受容器がある。面積は 約500mm3である。  嗅ぐ運動をしないときは、吸気は鼻腔の中部以下を通過するので、直接嗅粘膜 に触れない。嗅物質は拡散によって、この粘膜に達する。特に口腔→後鼻孔→嗅粘膜 の順による。従って味と嗅が混然一体となって味覚性嗅覚(gastatory olfaction) を形成している。  人においては嗅覚はもはや生きるためにあまり重要な役目をしない。ただ匂いを たのしみ悪臭から遠ざかるのみである。  下等動物ではしばしば生存、生殖に重要な役目をしている。マスやサケが孵化する と稚魚は1年間水で過ごした後、河を下って海に出る。その後2〜7年間大洋で過ご した後、之の育った川や湖に帰る習性がある。このように幾千キロを帰巣するのは 嗅覚による。魚の鼻孔にワセリンやベンゾカイン軟膏をつめ、嗅覚障害をおこすと 帰巣できなくなる。

§1.嗅覚の測定

 嗅覚の閾値を測るのにツウアルデマーカー(Zwaardemarker)の嗅覚計が使われた。 その原理は次の通り。素焼円筒に匂い物質を浸み込ましておく。この筒の中にガラス管 (臭管)を挿入し、その一端を筒外に伸ばし、その端を鼻孔に挿入して吸入させる。 素焼円筒と嗅管が全く重なり合えば、匂い物質は嗅管に入らない。円筒内面の露出部 の多い程多量の物質が発散通過する。  近年、嗅覚をより簡単に測定する方法が開発された。それは別表のような基準臭 の各段階の濃度の溶液を作っておく。濾紙をその溶液に浸し、被験者の鼻先1〜2cm に近づかせてかがせ、閾値を求めるという簡単な方法である。  このようにして求められた嗅覚の閾値は、メルカプタンで4×10-10[空気1lで] である。これは1mgを200×500×50mの建物に一様に拡散させたに相当する。 別の表現を使えば、空気50兆分子にメルカプタン1分子の割合で含まれた程希薄 でも我々はそのにおいを感じる。  イヌ(サメ$ウナギ)等はもっと鋭敏な嗅覚をもっている。カプリル臭で人より 107倍、酢酸108倍、酪酸で106倍という。 <図21−1>

§2.嗅覚の一般的性質

 嗅覚の敏感さは個人差がある。個人でも、日によって変動する。女性では、月経、 妊娠、更年期等で変動する。  また嗅覚は種々な疾患時に変動する。前頭葉の腫瘍では半数以上の患者で嗅覚閾が 上昇する。副腎障害で嗅覚が敏感となる。また、hypogonadism、ビタミンA不足等で、 嗅覚閾値が上昇する。  さらに、特定の匂いを感じない人がいる。嗅盲、嗅弱という。日本人では青酸臭を 感じない男 18.2%、女 5.5% といわれる。  また、イソバレリン酸に対する嗅盲 2% 、メルカプタンに対しては 0.1% 存在する。

§3.ニオイの種類

 したがって、敢然に原臭がわかっていない今日、ニオイの種類は便宜的にならざる を得ない。以下それを列挙すれば、 (1)バラの花様(floral)   β−フェニル・エチルアルコール(β−pheny ethyl alochohol) (2)焦げた様・刺激臭(pungent)

§5嗅受容細胞の微細構造

 嗅粘膜には2つの種類の細胞がある。 (I)支持細胞(supporting cell)で円柱状でmicrovilli が鼻腔に突出している。 粘液、色素を分泌すると考えられている。 (II)受容細胞で、双極形をしている1μの大きさの細胞。 Olfactry rod の先は鼻腔に突出し6〜12本の Cilia(線毛)がある。受容 細胞の基部はだんだん細くなって軸索に移行する。  軸索は0.2μ直径で、シュワン鞘が多数の軸索をとりかこむ。

§6.嗅粘膜の電気活動

 嗅覚の受容器細胞は小さく、細胞内誘導はできない。嗅上皮表面に電極を置き、 ニオイ物質を吹き付けると4〜6秒持続する陰性変動が誘導できる。これを Electro-olfactogram EOG という。  EOGの振幅はニオイの強さに対数比例する。またEOGは、麻酔薬(Cocaine) に対して強い。Ottoson(1959)はそれを受容器電位と考えた。しかし反対もある。  嗅上皮に微小電極を穿入したときスパイク発射が見られる。パターン色々。 ()あるユニットは自発放電があり、ニオイ刺激で放電頻度が変化する。 ()またあるユニットはニオイ刺激に phasic な応答をするものもある。 ()ユニットはニオイの種類によって多少の特異的な応答をすることもある。

§7.嗅覚伝導路

 嗅神経は嗅球(Olfactry bulb) に入る。嗅球は6層区別することができる。 (図21-2)嗅神経は、僧帽細胞或は房飾細胞の用に樹状突起と一緒になって糸球体 を形成する。1種のシナプスと考えられる。  一方、僧帽細胞のデンドライトには中枢からを介して遠心性の影響を受けて いる。 <図21−2> <図21−3>  僧帽細胞の軸索は(図21−3)  ()大部分外側嗅条となり、海馬傍回前部(梨状葉)、扁桃核、ついでMD、 を介して前頭眼窩野の後外側にある嗅核領へ行く。ここはニオイの弁別、 判断等微細な機能をになっているという。  ()一部は中間嗅条をへて同側の嗅結節に行く。ここから、視床下部に行き、 呼吸、循環に反射的影響をあたえる。  房飾細胞の軸索は内側嗅条となり、前交連(anterior-commissure)で交叉し、 反対側の嗅球の深層にある顆粒細胞にシナプスを作る。これは僧帽細胞に抑制性 の影響をあたえる。

§8.嗅球の電気活動

 嗅覚伝導路の内で比較的電気活動が調べられているのは嗅球のそれである。  嗅球は嗅刺激のないときも70〜100Hzの律動派が見られる。これを固有波 (intrinsic wave)という。ニオイ刺激をあたえると intrinsic wave が消失し 50-60Hzの波があらわれる。これを誘発波(induced wave)という。  更に僧帽或は房飾細胞のユニット活動を記録する試みがなされている。