10.筋の収縮

§1.骨格筋の構造

 筋は興奮膜によって覆われている上に、細胞質内に収縮のためのタンパク質を 持っている。筋は組織的に、横紋筋(striate muscle)と平滑筋(smooth muscle)に わけられる。前者に骨格筋・心筋、後者に内臓筋が属す。この章では主として、 骨格筋について述べる。  骨格筋は多数の筋線維(muscle fiber; muscle cell)から成り立つ。筋線維は 直径10〜100μ、長さは数μ(昆虫の飛翔筋)から1m(キリンの筋)に わたる。筋線維は形質膜である筋鞘(scrcolemma)、筋形質(sarcoplasma)、及び 数百〜数千ある筋原線維(myofibrils)から成立つ。(図10−1) <図10−1>  骨格筋線維を位相差顕微鏡下に見ると横紋がみられ、光を強く複屈折するA帯 と光を弱く複屈折するI帯に分けられる。A帯の中央部には比較的明るく見える H帯、I帯の中央には細い暗い縞として見えるZ帯がある。Z帯間の長さは2μ で筋節と呼ばれる。  これらの横紋構造は、電子顕微鏡及びX線解析で調べた結果、太さの異なる 2種類の筋フィラメントが規則正しく配列することによって生じることが わかった。すなわち、A帯のうち、H帯では太いフィラメントのみ、H帯以外 では太いフィラメントと細いフィラメントが存在する。I帯は細いフィラメント のみが存在する。このことから、太、細2種のフラメントは、図10−1の ように配列していると考えられている。  太いフィラメント(直径100Å、長さ2μ)は、一端がふくれ、オタマジャクシ 状のミオシン分子が約200重合したものである。その頭は400Åごとに細い フィラメントに向かって突出している。その先端にはATPが存在する。細い フィラメントは(直径60〜70Å、長さ1.6μ)、球状のアクチン分子が トロポミオシン骨格の上に鎖状につながり、それがさらに2本からみあって 、2重らせん構造となったものである。さらに所々に球状のトロポニンがある。 (これが、アクチン、ミオシンの相互作用を調節している)このフィラメントの 中央部がZ帯に付着している。  更に筋には小胞体(endoplalsmic reticulum)が発達している。(図10−2) Z帯の所で、形質膜から横行小管(transverse tubules)が、筋の長軸に垂直に 線維内部にはいる。一方、筋小胞体は、筋フィラメントに沿って筋の長軸方向に 走り、後槽(terminal cisterm)となって、横行小管と接している。両者は つながってはいない。この接触部を三連構造(triad)という。 <図10−2>

§2.筋の興奮と収縮

 音血動物の筋線維が、終板を介して、或は、直接に興奮したとき、その興奮は 約5m/秒の速度で電導し、筋線維全体に広がる。約3ミリ秒遅れて収縮が生じ る。1回の興奮によって生じた収縮を単収縮(twitch)という。  単収縮には、筋の一端を固定し、他端に荷重をつけ、自由に動くようにした 状態で収縮させる等張性単収縮(isotonic twitch)と、筋の両端を一定の長さに 固定して収縮させる等尺性単収縮(isometric twitch) がある。後者の最大張力 発生までの時間は、前者の最大単縮発生までの時間より早い(図10−3)。  等尺性収縮で最大張力に達する時間は、0筋によって異なる。速く動かなければ ならない筋は速い。逆は逆。眼筋は10msec、腓腹筋は30msec、ヒラメ筋は 100msecである。 <図10−3>

§3.興奮−収縮連関

 形質膜に生じた活動電位が収縮を引き起こ0すとき、収縮の開始は、活動電位 発生より数ミリ秒きり遅れない。この時間はある物質が形質膜から筋原線維まで 拡散していくには小さすぎるという。そこで上述の構造を基にして、形質膜の 興奮発生から、筋原線維の収縮までの過程は、次のように考えられている。  a)筋の形質膜に興奮が生じる。  b)その興奮は横行小管を介して筋線維の深部に伝えられる。  c)その結果、筋小胞体内のCa++が細胞質内へ遊離する。  d)細胞質内のCa++濃度が10-8Mまで高められると、Mg2+の存在下で ミオシンの頭にあるATPが活性化される。  静止時、.肇蹈櫂縫鵑魯▲チンと結合、また、▲肇蹈櫂潺シンは アクチンとミオシンの頭が結合する位置を覆っている。 Ca++によって,侶觜腓緩み、それによって△諒いいなくなる。  e)そのエネルギーによって、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントが 相互に滑走(slide)し、その結果収縮が生じる。 <図10−4>  f)脱分極が終了すると、Ca++が筋小胞体内に能動的にくみ取られ、筋形質内の Ca++が10-8Mまで下がる。この過程は、ATPの存在下に於て初めて可能 となる。(ATPの弛緩作用)そのため、ミオシンの頭は、アクチンから離れ、 相互位置をもとにもどす。(図10−5,6)   ミオシン分子の2つの頭の機能 医学のあゆみ 165(8)7317321978 <図10−5> <図10−6>

§4.興奮−収縮連関過程の実験的証拠

 イ)横行小管を介しての興奮の波及は、次のことからいわれる。  a)微小電極を使って、筋表面を電気刺激する(図10-7)。いま、電極尖端が z膜近傍にある時は、刺激の強さに応じて次第に内部に広がる局所興奮が 生じる。刺激部がz帯から離れると何の効果もあらわれない。この ことにより、z帯に開口部を持つ横行小管が興奮の深部波及に役立って いる、と推論される。   b)グリセリン等で小管系を破壊すると、興奮は生じるが収縮は生じなくなる。  ロ)収縮と弛緩が、Ca++の筋形質内の増加と現象とに密接な関連を持っている ことは、次のことからわかる。ferritin(Acquorin)は、Ca++の濃度が 増加するに従って、その傾向が増加する性質を持っている。筋にFerritinを 与えた後、脱分極させると、蛍光が急増する。このことから、Ca++が 筋形質に増大していることがわかる。また、弛緩した筋の終槽から高濃度の Ca++が検出されている。  ハ)ATP、Mg++がなければアクチンとミオシンの結合が生じない (グリセリン筋の実験)。  ニ)アクチン、ミオシンフィラメントの滑走;等張性収縮をさせながら、 位相差顕微鏡で筋線維の横紋構造を見ると、次のようになる。A帯は収縮、 弛緩時でもその長さ一定。Hたいのみ収縮時にその長さが小となり、それと 同じ長さだけI帯が狭くなる。このことは、フィラメントの長さは変化せず、 互いの位置が滑走したことによってずれた証拠となる。  ホ)ATPの弛緩作用;エネルギーの供給が不足して、筋のATP濃度が 減少すると、筋は弛緩しなくなり、硬直(rigor)におちいる。 <図10−7>

§5.緊張と張力

 筋収縮のパターンは種々条件で変わる。以下数節にわたりこれについて述べる。 静止している横紋節に負荷を与えると、始めの長さの1.8〜2.0倍まで伸ばすことが できる。この時伸展の程度に応じて張力が発生する。これを静止張力(Passive tension)という。伸展−張力の関係は、伸展のごく狭い範囲を除いて、Hookの 法則に従わない。すなわち、ヒステリシスをもっている。これは筋に男性と共に 粘性があるためである。  筋が収縮する際に発生する張力を、活動張力(active tension)という。 活動張力は筋長が極端に小のときも、極端に大のときも小さい。その中間の長さで 最大の張力を発生する(図10−8)。 <図10−8>  このことは、筋フィラメントの構造から次のように説明できる(図10−9)。 筋長の長いときは、アクチンとミオシンフィラメントが重なっている部分が ほとんどない。従って、両者間に生じる橋の数が小となり、力の発生が少ない。 また、筋長が極端に短いときは、アクチンとミオシンフィラメントが中央に入り すぎて互いに干渉するか、ミオシンフィラメントがZ帯にぶつかるため、 力の発生が少ないと考えられている。 <図10−9>

§6.筋の短縮速度と張力

 筋収縮の速度と発生する張力は、反比例する(図10−10)。筋がごくわずかに 短縮するときは、発生する張力大であり、負荷が僅かなときは、短縮が速い。 これは、滑走速度が速いときは、ミオシン、アクチンフィラメント間に単位時間内に 形成される橋の数が少ないためであると考えられている。 <図10−10>

§7.収縮の加重・強縮(tetanus)

 筋の張力発生は、筋のくりかえし興奮によって大きく変化する(図10−11)。 単収縮では、約5-10msecで張力が最大に達し、その後もとにもどる。もどる前に もう1つの刺激を加えると、単収縮より大きな収縮が得られる。この現象を 単収縮の加重(summation)という。  刺激の数を増し、5〜10回/秒の刺激を与えると、加重が次々に生じ連続的な 大きな収縮が生じる。これが強縮である。一見変動のない一様な収縮(図10ー11、 125回/秒)を完全強縮(complete tetanus)、単収縮が融合せず、動揺するのを 不完全強縮(incomplete tetanus)という。完全強縮時には、張力発生は単収縮時の 2〜5倍に達し、収縮量は全長の50-80%に達する。このような強縮が、生体内で生じて いる筋収縮のパターンである。  強縮時の張力発生が大きくなることは、弛緩する前に、また短絡が生じるので、 筋フィラメント相互の移動がないためであると説明されている。 <図10−11>

§8.反復刺激と筋疲労

 1秒1回程度の頻度で筋を直接刺激すると、収縮高は初めの2〜3回、次第に 増大する。これを階段現象という。筋形質内のCa++の増加による興奮-収縮連関の 促進による。  更に、筋の繰り返し刺激を続けると、短縮高は次第に減少し、同時に収縮弛緩過程の 遅延が生じる。この現象を筋の疲労という。このような現象は、筋への酸素供給が 悪いとき早く起こり、又元に復帰するには酸素の供給が絶対に必要である。 疲労した筋では、 (a)膜の興奮性低下、 (b)興奮-収縮連関の能率低下、 (c) 化学エネルギーを機械的エネルギーに変換する効率の低下、 (d)エネルギー源の枯渇、 (e)乳酸発生により代謝全体の遅延 がみられる。   J gen Phyusiol. 72:593-606,1978.

§9.異常収縮

(イ)律動性収縮(rhythmic contraction):Ca++を除いた等張性食塩水に筋を 入れると、Ca++ induced K+ permeability が消失し、形質膜のNa+に対する 相対的透過性が増大し、反復興奮が生じる。その結果、収縮が律動的に現れる。 これを律動性収縮という。  上皮小体機能が低下すると、血中のCa++濃度が低下する。従って、 筋は反復興奮し持続的な興奮が生じる。これをテタニー(tetany)という。 歯をくいしばり、咽頭筋、呼吸筋の持続的収縮のため窒息する。手はテタニー 特有な助産姿勢(Trousseau's sign)をとる。 (ロ)拘縮(contracture):活動電位なしで生じる持続性、非伝播性の可逆的収縮を 言う。KClの等張液につけると形質膜の持続的脱分極により拘縮が生じる。 これは2〜3分で消失する。また、カフェインは筋小胞体に直接作用して、 Ca++を筋形質内に遊離させ拘縮が生じる。そのほか、アセチルコリン、 キニン、ニコチン、ヴェラトリン、酸、アルカリ等によって生じる。 (ハ)硬直(rigor):筋実質の崩壊により筋が硬くなり、興奮性を失った状態を 硬直という。硬直には次にものがある。  i) 熱硬直(heat rigor) 40〜60Cの加温によって生じる。  ii) 水硬直(water rigor) 筋を水にひたすと、水が筋内に入って硬直を起こす。  iii)死後硬直(rigor mortis)死後通常2〜3時間後に生じる。グリコーゲンの 分解による乳酸の生成、及びATPが加水分解されなくなるために、アクチン とミオシンが、結合したままになることによるという。その後、24〜48時間 たつと、蛋白の変性により緩解が生じる。 (ニ)その他の筋疾患。不動作性萎縮(disuse atrophy)のときは、筋張力が低下する。 反対に、活動性肥大(functional hypertrophy)がある。筋線維の数は一定で、 一本一本の筋が太くなる。

§10.筋収縮のエネルギー

 筋収縮のエネルギーは、すべての生体のエネルギーがそうであるように、リン酸 結合としてたくわえられる。すなわち、解糖酸化の結果生じた高エネルギーの リン酸結合は、ATPとなり、さらにクレアチンリン酸として貯蔵されている。 このリン酸結合に蓄えられたエネルギーはエネルギー伝達体を介して筋肉の収縮を 起こす。化学的エネルギーから機械的エネルギーの効率は20〜25%であり、あとは 熱となり体温の維持に役立っている。(図10−12) <図10−12>

§11.平滑筋

 平滑筋細胞は、横紋筋より一般に小さい。直径4-8μ、長さ20〜100μ (妊娠子宮15μ*500μ、血管2μ*80μ)。また、筋フィラメントは規則正しく 配列せず、横紋構造を欠く。  平滑筋は、内臓平滑筋(visceral smooth muscle; 単一平滑筋 unitary smooth muscle)と多単位平滑筋(multi-unit smooth muscle)とその中間のもの(精管vas deferens)に分別される。

§12.単一平滑筋

 胃、腸管、子宮、尿管などの平滑筋。筋細胞管に電気抵抗の低い接合部(gap junaction or nexus)が存在し、シンシチウム(syncytium;合胞体)として働く。  常に活動しているので、真の静止膜電位不明。比較的非活動時で-50〜-60mV である。活動電位は大きさ90mVに達することもあり、また1〜3mVのように小さな こともある。0.05〜0.5secのplateauが見られることもある。活動電位はCa++ スパイクである。一個の細胞に発生した活動電位は gap junction を介して全 細胞に波及する。この種の平滑筋においては種々因子が膜電位に影響をあたえて いる。  1)伸展すると筋は脱分極する。  2)ある程度の神経支配がある。アセチルコリンで脱分極、アドレナリン又は ノルアドレナリンでは脱分極(α型)、あるいは抑制(β型)。  3)ホルモンの影響を受ける。例えば子宮筋は、エストロゲンで膜電位は減少し、 プロゲステロンで膜電位は増大する。  4)自動性をもつ。歩調とり細胞があり、それが引金となって興奮が生じると 考えられるが、特定の歩調と利細胞の分化は見られない。  収縮はCa++を介して生じるが、小胞体を欠いているので、活動電位が発生 してからCa++が細胞内に流入するため、活動電位発生から収縮開始までに約 200msecかかる。  平滑筋は一定の強さの短縮状態を示している。これを緊張という。緊張は 多くの場合は、繰り返し生じる活動電位による収縮の加重によって生じる。 興奮の繰り返し頻度が低ければ周期的収縮を引き起こす。

§13.多単位平滑筋

 立毛筋、毛様体筋、瞬膜、動脈の筋。  1)筋細胞管の接合部がない。興奮非拡散   2)一本の交感神経線維は多数の筋細胞を支配。しかも他の交感神経線維からの 支配も受ける(close contact)。自動性がなく、交感神経の指令によって興奮 する。

§14.平滑筋の収縮

 一般に収縮の時間経過が遅い。アクチン、ミオシン、トロポミオシンは存在 する(トロポニンはない)。アクチン・フィラメントは見られる。ミオシンは、 フィラメントは見られず、軽鎖(light chain) として存在する。収縮・弛緩は、 次のようにして生じると言われている。 a)ミオシンは脱リン酸化して存在(これでF−アクチンと反応しない)。 b)いま、Ca流入。カルモジュリン(Calmodulin)と結合。すると、 c)ミオシン軽鎖リン酸化酵素(myosin light chain kinase)を活性化。それで、 d)ミオシンをリン酸化(ATPと結合)。 e)リン酸化したミオシンは、F−アクチンと結合。−>収縮。 f)Ca濃度が、10-7 M 以下。カルモジュリンからCa離れる。不活性化。弛緩。