26.運動単位とその活動の脊髄レベルでの調節

§1.運動単位(motor unit)

 運動も含めて、姿勢は()筋緊張(muscle tone)の程度、()その筋群間の分布 できまる。所で、筋緊張は脊髄前角にあるα運動ニューロン(α-motoneuron)に よって形作られる。従って姿勢、運動の調節の基本単位1個のα運動ニューロン とそれが支配している筋線維群ということになる。これを運動単位(motor unit) という。したがって姿勢及び運動は運動単位の活動の程度と分布によって決まる と言い換えられる。  普通1個の前角細胞に支配されている筋線位は数百ぐらいという。しかし、 正確で、速い反応が必要な外眼筋では、運動単位は10-15の筋線位から成り立って いるという人もいる。  また、下腿の筋でも姿勢の調節に約だっているヒラメ筋(赤筋)は 39-491 (平均181)の筋線位が1運動単位を作るが、速い運動に関係ある白筋である 腓腹筋は1000-2000個が1単位であるという。また、前者の収縮速度、それを支配 している神経線維の伝導速度は後者に比して遅い。  これらの運動単位の電気活動は、針状の電極(同心型針電極)を筋肉内に挿入 することにより誘導できる。この活動を陰極管オッシルグラフで記録したものを 筋電図(electromyogram EMG)という。振幅500-2mV、単相または、二相、三相性の 前かむかの法則に従う電位が誘導できる。筋が弛緩しているときは電位はあらわ れない。収縮が強くなると、電位発生の頻度が増加する。

§2.運動単位への入力

 運動単位が活動するには脊髄のα-運動ニュ−ロンが興奮すればよい。これを 興奮させる経路は2つある。(2)後根からの入力、([)上位中枢からの直接の下行路 である。このどちらかの入力が増えれば、運動単位の活動が大となり筋緊張がます。  ここで前者は伸張反射時のGIaからの入力に他ならない。筋内にある筋紡錘が 刺激され一次終末からインパルスが送り出される。それがIa線維群を介して脊髄 後根から脊髄に入る。そして、単シナプス性にα-運動ニュ−ロンを発火させる。  運動単位は、上位から神経系によって制御され、力を出す。このとき、上位中枢 は、個々のユニットをいちいち制御するのではない。入力があると、脊髄レベルで、 運動単位の順序的動員(orderly recruitment)が生じている。その順序は Henneman の大きさの原則(size principle)に従う。すなわち、 (1) 弱い収縮のとき、先ず、形の小さな unit が働く。大きな強い収縮のときだん だん大きな unit が働くようになる。 (2) 反射のときも、随意運動のときもこの原則は成り立つ。 <図27−2> <図27−3a> <図27−3b>

§3.筋紡錘の構造

 伸張反射において、Ia線維群の後根からの入力量は、筋紡錘に行くγ-運動ニュ− ロンによって調節されている。以下、このことについて説明する。  筋紡錘(muscle spindle)は数mmの長さで筋内に多数ある。より細かい運動を始無 ければならない手の筋は1grあたり約百あり、腓腹筋では数個である。筋紡錘は 錘外筋に付着して、並列して存在する。筋紡錘は2-12本の錘内筋からなる。中央は ふくれ水を含み紡錘状の皮膜で覆われている。  哺乳類の筋紡錘は形状によって2つに分ける。1つは核袋線維(nuclear bag fiber)といい、大きく、長く、中間部に核が多数ある。他は核鎖線維(nuclear chain fiber)で、短く、核が1列に並ぶ。前者1個に後者4個がついて、1つの 筋紡錘を作っている。  両線維の中間部に螺旋状に巻き付いた一次終末があり、ここからGIa線維(12-20μ) が発する。  1つの筋紡錘の錘内筋には7-25本のγ-線維(直径1-8μ)が終わる。これにも2種 がある。1つは、1つの終枝として核袋線維に終わる plate endig。他は網のよう に終枝が拡がって、主として核鎖線維に終わる trail ending である。

§4.筋紡錘受容器の感度調節とγ0ニュ−ロンの役割

 筋を軽く伸展すると、一次終末が興奮し、GIa線維に神経インパルスがあらわ れる。このとき、インパルス頻度は急に増加し、筋が一定の長さになるとその頻度 は減少し、一定の値になる。はじめの急激な増加は筋肉の伸張の速度に依存する。 一定となったインパルスの増加分は伸張の度合に依存する。その後、順応はきわ めて小である。  二次終末からのG兇寮維では、筋を伸張したとき、そのインパルス頻度は筋の 長さに比例する。  筋紡錘受容器の感度は、γ-神経線維が興奮振ると上昇する。γ-線維が興奮する と、錘内線維が収縮する。そのため、筋紡錘受容器は、普通でも、少し引っ張られ た状態にある。したがって、それはγ-線維が働いていない状態に比較して、より 少ない伸張に反応しやすくなる。すなわち、感度が上昇する。 γ-ニュ−ロンも、その一次終末に対する影響の種類によって、2分される。 第一は dynamic γ-線維(γ1)といい、これの活動化では受容器の dynamic response が増大し、static response はあまり変化しない。他は staric γ-線維 (γ2)といい、この活動化では static response のみが増大する。  二次終末に対しては、dynamic γも static γも static response のみ増大さ せる。γ0ニュ−ロンは姿勢の保持、及び運動に重要な役割をしている。 <図27−4> <図27−5> <図27−6a>  今錘外筋が収縮すると、それと並列して、存在する筋紡錘は弛緩する。すると、 Iaのインパルスが消失し、筋は弛緩する。これを防止するには、筋が収縮しても、 筋紡錘が弛緩しないで一定の緊張を保っておけばよい。γ0運動ニュ−ロンは、 上述のように錘内筋を収縮させ、伸張反射の感度をたかめ、伸張反射を持続させる のに役だっている。  γ0運動細胞→γ0線維→錘内筋→Ia線維の経路をγ0環(γ-loop)という。 従って、γ0系が活動Oからどれだけへだたって活動しているかをγ0バイアス (γ-bias)という。従って、γ0バイアスがあれば、ある程、筋紡錘の受容機の感度 は大となり、伸張反射が起こり易くなる。

§5.制御系としての姿勢・運動制御

 上述の伸張反射、γ0loop とうによる姿勢の調節は制御系として見ることが 出来る。船の向きを操るとか、温度を一定に操作することを制御(control)という。 自動的にあやつることを自動制御という。制御の内、位置や角度に関するものを サーボ制御(servo control)という。運動や姿勢の調節も、筋を一定の長さに収縮 させることが基本であるから一種のサーボ制御と見ることが出来る。  自動制御系でもっとも普通につかわれる方法は閉回路制御、負帰還方式である。 それは図のようなブロック線図として、示すことが出来る。目標値を設定する。 操作量と一定の関係をもつ制御量を制御対象に加える。このとき制御量と目標値 との差に応じて、操作量の値を加減する。それで、目標値と比較するために、 制御量を返している。すなわち、帰還(feed back)している。しかも、目標値と 制御量は引算するようになっているので負帰還といわれる。  このような系では、目標値がきまれば、伝達要素の利得に無関係に制御量をきめ ることが出来る。例えば、いま電圧を一定値に制御する場合を考える。このとき、 図のように正確な目標とする電圧(v)を設定する。GはG倍の電圧増幅器である。 今、 V=G×a c=V×(+1)      a=v−c であるから、 G 1 V=──── = ─────v≒v 1+G 1 (G ≫ 1) ──+G G となる。従って増幅器Gの利得が変わっても、Vの電圧はvできまる。  運動系も同様な立場で考えることができる。今α系を介してインパルスがα0運動 ニュ−ロンに加えられている。それを筋の収縮に変換するのが変換要素Gである。 また、筋紡錘は筋の長さの検出器である。変換要素が働いたとき筋が短くなり、 筋紡錘のインパルスはへるから、互いの作用は反対で、負帰還と考えることが出来る。 <図27−6b> <図27−7> <図27−8>  γ-系はこの feed back の利得Hをかえている。利得をかえると目標値αが一定 でも、筋の長さを変化することが出来る。 L=a×G b=L×H a=α−b であるから、結局、 α α α L= ────── = ───────── ≒ ── 1 1 H H+─── H(1+────) G H・G となる。従って、筋の収縮高Lはα系の入力がかわるか、また、γ系が働いてfeed back 量がかわれば、変えることができる。  Merton は、我々が筋長を一定長さにちぢめるには、γ0系が働くという follow- up length servo theory を提唱した。Valbo は実際に人をつかって、α系とγ系 が働き、結局両方が働いているということがわかった。すなわち、α系が働くこと によって、筋紡錘が弛緩するが、それは、γ0系が働くことによって、補償し、 円滑な筋運動が生じるわけである。これをα0γ linkage (coactivation) という。  【ま と め】以上要約すると、我々の筋の緊張はα0運動ニュ−ロンがどれだけ 働いているかできまる。α0運動ニュ−ロンは、上位中枢から直説シナプスを受け ていると同時にγ0運動ニュ−ロンを介しγ0環によって、その活動が生じている。 <図27−9>

§6.脊髄レベルにおける調節

 上述のようにして生じた運動単位の活動は、脊髄レベルで、既に種々な抑制機構 によって調節されている。  Ia抑制:相反性神経支配(reciprocal innervation)ともいう。筋紡錘からでた Ia線維はその筋支配のα0運動ニュ−ロンと興奮性シナプスを作り、伸張反射を 引き起こす。同時に脊髄内に分枝を出し、協同筋を支配するα0運動ニュ−ロンに も興奮性シナプスを作る。しかし、これは発火させるほど強力なものではない。 一方、介在ニュ−ロンを1つ介して拮抗筋に抑制シナプスをつくり、拮抗筋の活動 を抑える。そして、伸張反射が円滑に行われるようにする。  Ib抑制:自原抑制(autogenic inhibition )ともいう。伸張反射が余り協力に 行われると筋、腱の離断が生じる。これを防止する機構が存在する。伸張が強く なるとゴルジ腱器官からインパルスが発生しGIb線維を通って脊髄に入り、介在 ニュ−ロン1つをへて、同じ筋を支配しているα0運動ニュ−ロンを抑制する。 この現象が目立つのは除脳固縮(decerebrate regidity)のときである。膝関節を まげ大腿四頭筋を引き伸ばすと伸展反射により抵抗をうける。しかし更に、力を 入れると急に抵抗がなくなり、パッと屈曲が生じる。自原抑制のためである。 ポケットナイフ現象(clasp knife phenomenon)という。 <図27−10>  レンショウ抑制(Renshaw inhibiton):反回抑制(recurrent inhibition)とも いう。α0運動ニュ−ロン線維の側枝は脊髄内で介在ニュ−ロンである Renshaw 細胞を介して側枝を出したα0運動ニュ−ロン及び周囲のそれを抑制する。 その役目はだらだら続く反射効果をへらし、周囲ニュ−ロンへの反射効果を へらすことによって、反射活動をsharp にするといわれる。 <図27−11>