25.姿勢(運動)の階層的調節

 中枢神経系の種々な場所が姿勢(運動)の調節にどの様に関与するかは Neuraxis を各レベルで切断した動物の行動を観察することによって、調べられた。姿勢は 個々の筋での緊張の程度と、それの体全体の筋群内での分布できまる。そして、 このような緊張パターンの形成は脳の下位レベルから上位レベルに行くに従って、 より精密化(elaborate)していくことがわかった。以下、それについて述べる。

§1.脊髄動物(spinal animal)

 脊髄を胸髄中央部で切断すると(下位脊髄切断)、下肢は弛緩し、脊髄反射が数日 (動物)から数週(人)にわたって消失する。この状態を脊髄ショック(spinal shock)という。やがて、切断された脊髄は、反射機能を回復する。それで筋緊張も 回復するが、反射性の筋収縮は動物の体重を支えるほどではない。  脊髄ショックは切断そのものによる局所の障害によるものではない。脊髄反射が 回復した後、再び脊髄を切断しても脊髄ショックは生じない。従って、上位中枢から の興奮性の影響(脊髄の抑制回路を抑制する影響か)が来ており、それによって脊髄 反射の background activity を高めていると考えられる。  脊髄ショック時には脊髄の自律性ニュ−ロンの活動もおかされる。排尿が出来ない。 反射が回復すると自律膀胱(autonomic bladder)となる。

§2.反射とは

 受容器で受け止められた刺激が神経系を介して効果器で作をおよぼし、その作用が 意志に無関係であるとき、この現象を反射(reflex)という。このとき神経インパ ルスの伝わる経路を反射弓(reflex arc)という。反射弓は受容器(receptor)、求心 経路(afferent path)、反射中枢(reflex center)、遠心経路(efferent path)および 効果器(effector)から成り立っている。  反射は骨格筋を効果器とする体性反射と自律神経領域におこる自律反射に区別で きる。前者の代表として(体性)脊髄反射がある。後者では効果器は、瞳孔散大筋、 括約筋、肛門括約筋、膀胱、生殖器、血管、汗腺等である。

§3.脊髄反射

 反射の内、脊髄反射が Sherrington によって調べられた。脊髄反射は受容器、 求心線維、後根、中枢、遠心経路、筋という反射弓をもつ。後根を介して脊髄に 入った求心線維はシナプスを介して結局運動ニュ−ロンに達し、その興奮によって 筋が収縮する。それで運動ニュ−ロンを最終共通路(final common path)という。  脊髄反射は1つの脊髄分節内で生じる脊髄節反射(segmental reflex)といくつ かの分節に中枢が広がっている脊髄節間反射(intersegmental reflex)に大別で きる。前者に属すもので重要なものは屈曲反射(flexion reflex; 屈筋反射 flexor reflex)と伸張反射(stretch reflex)である。以下それぞれについて述べる。

§4.屈曲反射(flexion reflex)

 脊髄動物の趾の皮膚に痛みが生じるような刺激を加えると足が屈曲し、その刺激 源から離れようとする。これが屈曲反射である。すなわち、防御的、逃避的な意味 が強い。  侵害刺激によって、生じた神経インパルスはAδ、C線維によって脊髄に伝え られる。これらの線維は、シナプスを多数介した後、同側の屈筋支配の運動ニュ− ロンに達する。そして、運動ニュ−ロンの興奮を引き起こす。  足底に加わる侵害刺激が強いときは、刺激された側の後肢の屈曲反射が生じると 同時に反対側の後肢に伸展が生じている。これを交叉性伸展反射 crossed extension reflex という。このことにより、動物は伸展された一方の後肢で体重を支える。 潜時は40〜100msecもある。  腹壁反射 abdominal reflex D8-D12 挙こう反射 crremasteric reflex L1-L2  足底反射 plantar reflex S1-S2  Babinski反射 錐体路障害 <図26−1>

§5.伸張反射(stretch reflex)

 脊髄動物において、筋、おもに生理的伸張が引き伸ばされると、そののばされた 筋は反射的に収縮し張力をあらわす。この反射を伸張反射(stretch reflex)と いう。筋の伸張の程度をますと、発生する張力も増加する。この反射は、姿勢、 運動の調節に重要な役割を果たしている(後述)。 また、臨床的にも利用される。 この時は腱をたたくことによって、筋に伸展刺激をあたえる。腱を款くことによって 生じる筋伸展の結果生じる伸張反射は腱反射(tendon jerk)と呼ばれる。(図26-2) 二頭筋反射(C5,6)三頭筋反射(C6-8)、膝蓋反射(L2-4)、アキレス腱反射等 (L5−S2)がある。  伸張反射は、筋肉にある受容器である筋紡錘が伸展され一次終末(primary ending)が刺激され神経インパルスを生じる。それが太いAα線維を通じて脊髄後根 を介し、脊髄にはいる。この線維は直接、脊髄前角にある起始筋を支配している 運動ニュ−ロンにシナプスを作る。この経路を介して運動ニュ−ロンが発火し、 引っ張られた筋を収縮する。収縮するその筋に受容器があるので、自己受容器性 反射(properioceptice refles)という。 この反射の機構はLloyd(1943)によって詳しく調べられた。彼は、実際に筋に 急激な伸展を加え、同期したインパルス(斉射)を筋紡錘から発生させ、イン パルスの速度をはかり、筋紡錘からのインパルスはGIa(116m/sec;20μ直径)に よって伝えられることを見いだした。また筋枝を刺激することによってGIa線維 のみを電気刺激し、その電導したインパルスを前根からとる。このとき、Central delay は0.6〜0.9ミリ秒でシナプス1つ介するだけ、即ち、この反射は単なる シナプス性に伝搬する事を見いだした。そのために上述の機構がわかった。     三頭筋反射   C7−8     ニ頭筋反射   c5−6     膝蓋腱反射   L2−4     アキレス腱反射 S1−2  Lloydの筋求心線維(muscle afferent)の分類 毅瓠12〜20(μ) 環ラセン終末   Aα(13〜22μ)  毅癲12〜15   ゴルジ腱器官  供  6〜12   散形終末 Aβ(8〜13)  掘  1〜6    筋膜・血管周囲の圧受容器 Aδ(1〜4)    <1(μ) 血管の痛み C ( < 1) <図26−2a>

§6.脊髄節間反射(intersegmental reflexes)

()引っかき反射(scratch reflex) 脊髄動物の側背部を軽く刺激すると、同側 の後肢に律動的な屈伸が生じ、刺激部位を引っかくような動作が生じる。 ()Schiff-Sherringtonの現象 脊髄動物の後肢を刺激して屈曲反射を起こす。 他側の後肢に交叉伸展反射が見られる。同時に、同側の前肢に屈曲が見ら れることがある。 ()伸筋突伸(extenson thrust) 足底に急に圧を加えると、肢全体の伸筋が 収縮する。その結果、その肢が伸展する。歩行を助ける反射と考えられる。 このように脊髄レベルでは、ある目的にあった動作が反射的に生じる。 <図26−2b>

§7.除脳動物(deccerebrate animal)

 中脳の四丘体の上丘と下丘との間で脳を切断すると除脳固縮(decerebrat rigidity)が生じる。四肢は過度に伸展し、尾と頭がたつ(dorsiflex)、脊髄の 過度の伸展によって背をのけぞる(positotonus)。動物は人がバランスをとれば 四肢で立てるが、少し動かすとすぐたおれる。(図26-3a) <図26−3> <図26−4>  除脳動物は脊髄動物より姿勢調節が進んでいる。脊髄反射に加えるに、次の2つ の機構によって、反射的に筋緊張の分布がかわる。 (I)緊張性頚反射(tonic neck reflex):頭と体幹の相互位置関係によって、生 じる。顎前屈すると前肢屈曲、後肢伸展。頚後屈すると前肢伸展、後肢屈曲。 頚回転すると、あごが向いている肢伸展、うなじが向いている肢屈曲。受容器 は頚椎関節の靭帯ににある(パッシーニ小体)。中枢は頚1−3。 (II)緊張性迷路反射(tonic labyrinthine reflex):空間における頭の位置。頭を 水平面から変化させると、筋緊張の分布が変化する。あおむけ(supine)のとき 最大、うつ伏せのとき最小の緊張が伸筋にあらわれる。これは内耳前庭の平衡 斑からのインパルスによる。

§8.皮質除去動物(decorticate animal)

 大脳皮質のみを除去した動物では、更に精密な姿勢反射が生じる。特に注意 すべきは、頭の位置を正常にする正向反射(righting)が加わることである。頭が 正常位をとれば、Aとは中脳以外に備わっている反射によって、体幹の筋緊張の 分布、大きさが変わり、体幹、四肢、も正常位をとるようになる。  犬猫のレベルでは、筋緊張は正常に分布し正しい姿勢を保つことが出来る。 中脳動物では出来ない。それで中脳より頭側の部分があって始めてこのことが 可能と考える。霊長類ではまだ立てない。両足をのばし、両前腕を半分まげた 姿勢をとる。  正向反射には、主として、 ()迷路性正向反射:横位になると内耳の前庭からのインパルスによって頚筋の 緊張分布が変わり、頭を正向するよう働く。 ()体幹正正向反射(body righting reflex):横向きにねて、体幹の一側が床に 接すると、頭を正向しようとする。 ()視覚性正向反射:視覚的に生じる正向反射。迷路を破壊、頚筋支配を断っても、 正向反射が生じる所から主張されている。   これらの正向反射に、緊張性頚反射、緊張性迷路反射、伸張反射が加わって、 体幹、四肢が正常位をとろうとする。