２７．上位運動調節

§１．上位脳から運動ニュ－ロンに対する影響
　前述したように運動単位であるα0運動ニュ－ロンの活動は(I)α0運動ニュ－
ロンに直接影響をあたえるα系と(II)γ0環を介して関節的に影響をあたえる
γ0系によって調節されていることがわかった。従って、我々の姿勢及び運動は
この２つの系によって、維持されている。(III)原則として、は共に働く
(α0γ linkage)。
　上位脳から脊髄運動ニュ－ロンがどのような調節を受けるかは、特に除脳固
縮の機序を調べることによって、明らかになったことが多い。昔は、除脳固縮
は、下位脳が上位脳からの抑制効果から解放された解放現象とみられていた。
しかし、上位運動調節は、そんな単純なものではなく促進系抑制系のあることが 
Magoun 一派によって明かとなった。

§２．上位脳からの促通
　(2)網様脊髄促通：間脳、中脳、橋、延髄外側にある網様体の大部分から脊髄
運動ニュ－ロンに促通の影響がある。γ0経路を介して生じる。α0経路も一部
関係しているという。

＜図28－1＞

　緊張性頚反射による肢の運動、除脳固縮時における抗重力筋の緊張亢進はこの
経路をたどる。いずれの場合もＩa群インパルスが増強を伴い、後根を切断すれば、
運動または緊張が低減する。
　([)前庭脊髄促通：脊髄のα0ニュ－ロンへは、網様系のみからではなく、α0系
を介して促通作用が下行する。（γ-系も存在する。）その内、前庭神経核（特に 
Deiters 核）から下行性の促通作用が強い。この系を断つと除脳しても、除脳固縮
はおきがたくなる。
　(J)小脳皮質、大脳皮質性促通：小脳から網様促通系を介して促通が来ている。
とりわけ霊長類で著しい。また、大脳皮質から錐体路を介して促通影響が下行する。

§３．上位脳からの抑制
　延髄網様体の復内側部は、α運動ニュ－ロン全体にはん性の多シナプス性抑制を
起こす。この影響は脊髄の anterolatteral を下行する網様脊髄路によって伝えら
れる。
　延髄網様体に各部から入力がある。
　(2)小脳から小脳内側核を介してくる。
　([)線状体（尾状核、被殻）からくる。
　(J)大脳皮質運動野から錐体外路を介してくる。
　大脳、小脳からの延髄網様体への入力がなくなると、この抑制影響がなくなる。
それで延髄の抑制系は自身で自発的な活動が生じないと考えられている。

２８．前庭器官の機能
　内耳は (イ)蝸牛 cochlea, 
 　　　　(ロ)平行嚢(sacs; 球形嚢 saccule; 卵形嚢 utricle)
　 　　　(ハ)半規管(semicircular canals)
にわけられる。（図29-1）。この内、([)$(J)は機械受容機を持っており、頭の空
間における位置、及び加速度を感じる。そして骨格筋の緊張を調節したり、頭の
運動中の眼の動きを調節する。平行感覚は通常意識にのぼらない。

§１．平行嚢
　平行嚢内には平行斑(macula statica)がある。有毛細胞上皮の上を膠様層
(gelatinous layer)が覆ったものである。その中には炭酸石灰でできた平行砂
(statoconia)が含まれる。有毛細胞は神経とシナプスを作る。
　平行すなの比重は2.94で高く、重力、または直線加速度で変位する。従ってその
機能として、
　(2)重力によって有毛細胞が圧迫される。それぞれの有毛細胞は、色々な 
orientation を持つ細胞群に分けられる。それで頭の傾きの方向が異なれば異なっ
た細胞群が刺激される。そのため、頭の位置がわかる。
　([)直進の加速度によって平行砂がおされたり、浮いたり、ずれたりする。この
ことによって、特定の細胞群が刺激され、直進の加速度を検出する。

＜図29－1＞
＜図29－2＞

§２．半規管
　半規管は上、外、後の３つがあり、図29-3のように互いに直角な平面上にある。
頭を３０゜傾けると、外半規管が水平。上、後半規管はそれぞれ正中面から４５゜
傾いている。
　それぞれの管の一端は膨れ、膨大部(ampulla)という。ここに膨大稜(crista 
ampullaris)がある。これも有毛細胞とそれを覆う稜状の膠様質であるクプラ
(cupula)がある。（図29-4）  有毛細胞は前庭神経とつながる。
　半器管は回転の加速度を受容する装置である。頭の回転運動が生じると慣性のた
め、半規管内のリンパが回転方向と逆に動き膨大稜のクプラを曲げる。曲がると 
trailing 側の稜からの神経インパルス頻度は増大し、leading 側の稜からのそれ
はやむ。しかし、リンパ液の摩擦のため適応(adaptation)が生じる。人では半規管
を刺激する最低の加速度は１゜／sec/secである。どんな面の回転運動が生じても
３つの半規管のどれかが刺激されたる。しかし一様な速度の回転運動は刺激とな
らない。

§３．前庭器官と中枢神経系との結合と役割
　前庭からの神経、前庭神経は小脳下脚の前で延髄にはいる。そして大部分は４つの核（内側、下位、上位、外側核）に終わる。一部は、直接小脳の片葉小葉節に行く。
　(1)小脳脚を通って両側の片葉小節葉にゆく。（→ＲＦ）
　(2)橋強中脳網様体にゆく。

　(3)内側縦束→動眼神経核及び外転神経へ行く。
  (4)前庭脊髄路を介して脊髄の前核細胞にゆく。
　(5)視床のＰＯ核に行く。

　①これらのことから、前庭器官の役目は、反射的に頭の位置、体幹の位置、眼の位置をなおし、維持するのに役立っている。
　②さらに、一部は大脳皮質に行き、頭の位置と動きを知覚するのに役立つ。しかし、通常は意識に明瞭に登らない。この系が障害を受けたとき、めまい、悪心等の症状が現れ、前庭機能が表面に現れる。

＜図29－3a＞
＜図29－3b＞
＜図29－4＞

２９．基 底 核 (basal ganglia)

§１．基底核の構造
　中枢神経系の概要の基底核の項を見よ。

＜図30－3＞

§２．基底核の機能
　刺激、破壊、無動化でのニュ－ロン活動の観察等から、基底核の機能はわからない。近年、安静時及び、随意運動時に pallidum からニュ－ロン活動をとると、運動と一定の時間的関係をもって発火することがわかった。
　それで現在、それらの機能は、この構造が病気でおかされたときの病状から、推定されている。この症状からも、これは運動機能に関係している。症状は、(2)無動症(akinesia)、([)筋緊張の異常、(J)不随意運動の発現である。
　無動症：振戦麻痺(paralysis agitans; Parkinso disease)のとき、特にみられる。この原因は黒質の障害による。
　筋緊張異常：大部分の病気で見られる。筋緊張亢進は固縮(rigidity)という。これに反して、筋緊張低下(hypotonia)は、ハンチントン舞踏病(Huntington chorea;尾状核が萎縮)に特有である。
　不随意運動：舞踏病では一側の四肢、身体の一部、または全身に生じる突発的、急速な連続的に生じる運動（バリズム：ルイス体の障害と関係）。アテトーシス(athetosis)は手足の指に出現する緩慢な運動である。捻転、屈曲、伸展などを繰り返し、だんだん全身的となる。(striatum に大理石持続状態がある。）　捻転痙れん症(torsion spasm)は、随意運動時特に歩行時に体幹、四肢または臀部に筋緊張を伴う一種の捻転様運動が現れる。（線状体の障害と関係）。振戦(tremor)は拮亢筋群の不随意運動の交互収縮によるリズミカルな運動。固縮としばしば共存。パーキンソン病のときは黒質の障害と平行する。

§３．基底核の機能のまとめ
　以上の運動障害として考えれば、基底核の機能は(2)随意運動の開始と調節$([)筋の緊張の調節を司っていると考えられる。

３０．小脳

　小脳は高度に組織化した中枢で、筋活動を調節している。それは（前述したように）、筋紡錘、腱器官、関節、皮膚、視覚、前庭器官、聴覚等の受容器からの神経インパルスをうける。これらのインパルスは、運動調節の基本的手がかりとなる。また、大脳からの信号も小脳に入力する。
　これらの情報は、小脳核及び小脳皮質にある Purkinje 細胞に達する。そこで統合された後、小脳核に集められる。そして、視床、赤核、前庭核、脳幹網様体に送られる。その影響は大脳皮質から脊髄ニュ－ロンまでの各レベルの運動中枢に影響を与える。その結果、運動開始から終了までの筋運動を制御する。特に運動の開始、調節、誤りの補正を行っていると言われている。

§１．小脳の構造
　中枢神経の概要の小脳の項を見よ。

§２．小脳の臨床病状と機能
　現在、小脳の機能は臨床症状及び刺激・摘除実験によって推論されている。
　小脳の区分によって、機能も異なり、また前葉、後葉、にある程度の体の再現があり、小脳の障害部位によって、現れる症状部位が異なるという。
　(1)原始小脳：平衡に関係する。この部分を切除すると、失平衡(disequilibrium)、その他前庭性の障害が生じ、歩行起立できない。「めまい」がするということはない。随意運動は可能であり、姿勢反射も正常である。
　(2)古小脳：姿勢の制御、筋の緊張に関係する。ここの障害は姿勢異常をきたす。霊長類では緊張低下(depotonia)が生じる。（猫では前葉→室頂核→Deiters核でα0系を抑制しているという）
　(3)新小脳：運動の制御、誤補正、と関係する。この部分がやられると小脳運動の失調(ataxia)、アヂアドコキネーゼ(adiadochokinese)、推尺異常(dysmetria)、企図振戦(intention tremor)、発音障害(pronounciation impairment)等が生じる。

§３．小脳回路の働き
　前述のように、２つの入力系によって、 Purkinje 細胞は発火し、それぞれの回路によって異なる Spike を発生する。(2)苔状線維－顆粒細胞－平行線維を介しての発火は simple spike である。([)一方、登上線維による発火は大きく長く続く発射である complex spike である。その後にはしばしば silent period がある。
　小脳核も自発性興奮を繰り返している。これは上述の２つの線維系の側枝による。これらの入力は興奮性である。Purkinje 細胞から小脳核の細胞への入力は抑制性である。従って、小脳への入力は初め短い興奮効果を小脳核に与え、後に長く続く抑制効果が皮質を介して生じると考えられる。
　小脳核からの出力は、ＲＦ、赤核、大脳皮質へ行く。それで、小脳への入力によって、これらの細胞の興奮性が調節されていると考えられる。

§４．感覚入力に対する小脳皮質細胞の応答
　大部分の信号は苔状線維で運ばれる。しかしその多くは、感覚入力ではない。　
　感覚入力のあるものは大きな receptive field －側の肢を含む。

  static position of one limb   92% 
  squeezing of distal limbs     35%    group  Ia
  touch of skin                  7%
                                                である。

§５．運動中の小脳ニュ－ロン活動
　小脳核の descharge は手の運動時に増えるものと、経るものがある。中維核のそれは動き開始後、頻度をかえる。これは活動筋、関節からの feed back 信号が関係している。歯状核では運動開始前にも生じるものあり。 Purkinge 細胞でも似ている。

＜図31－1＞

§６．小脳機能のまとめ
　運動の initiation, regulation, error correction を行う。
　1.初めは、感覚器系を含む大きな feed back loop によって運動の intended position と actual positon を補正する。次第にその loop は小さくなり、同時に、その運動プログラムを記憶する。

　2.すると運動時に、(feed forward形式で)小脳内に生じた記憶された intended position と actual position の差を比較して、大脳から脊髄まで、調節出力を出す一種のプログラム計算機であるという。

３１．大脳皮質運動野

§１．大脳皮質運動領と随意運動
　大脳皮質運動領は随意運動と関係があることが色々な事実から明らかにされた。
　刺激実験：1870年Fritsch と Hitzig は犬、サルを使い、大脳皮質の特定の点を電気刺激すると、特定の部位の筋肉の収縮を生じることを見た。その後、このことは多くの人によって確かめられ、人、サルでは、中心前回に拡がり、上方が足、下方は頭部の筋の収縮を引き起こすことがわかった。すなわち、大脳皮質に筋の再現 representation がある。微妙な運動をするところが特に広い。このことから、元々、大脳皮質は最高位の中枢と考えられてきたので、運動野は随意運動の発動する最高位の中枢であろうとされた。
　解剖学的観察：解剖学的にこの部位を調べると５層が特に発達し、Betz 細胞と呼ばれる大きな錐体細胞がある。(Brodmann の４野)。そこで、この大型の細胞こそ、随意運動の根本であろうと推論された。更に Betz 細胞からの線維をたどって行くと、この線維は内包を通り、延髄では錐体を形成する強力な線維束となり、更にそれは脊髄を下行して前角細胞に終わることがわかった。

＜図32－1＞
＜図32－2＞
＜図32－3＞
＜図32－4＞

　臨床的観察：内包が脳出血等で障害されると、随意運動が出来なくなる（半身不随 hemiplegia）このようなことから、錐体路系は随意運動をつかさどると考えられるようになった。
　一方、前角細胞に達するもので、錐体路以外の系を錐体外路系と総称した。この系は随意運動以外の運動、姿勢の調節に関係すると考えた。

§２．随意運動系概念の現状
　しかし、このような構造的分類が機能的分類ときちんと結び付いているとはいいがたい。その理由を次に述べる。
　組織学的観察：錐体路は運動野の Betz 細胞に由来すると考えられてきたが、実際にサルの錐体路の線維数は100万本、運動質の Betz 細胞は25000。従って、Betz細胞に由来するものは2-3%にすぎないい。また運動野と呼ばれる所から錐体路の20～40％の線維しか来ていない。あとの60～80％は前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉からきている。したがって、運動野＝錐体路という所も現在はっきりしたものではない。
　運動野には第一次運動野の他に補足運動野 supplementary motor area があり、第一次運動野に続き medial 側にある。この部分を刺激すると姿勢保持に関係のある下肢、体幹の筋の持続的収縮が両側性に生じるという。さらに、一次運動野の前には前運動野 premotor area があるが、運動野と区別する根拠はない。
　錐体路切断：錐体路切断、或は障害により（運動）麻痺 paralysis が生じ、動物が高等になるほどひどい。しかし比較的高等なサルでも完全な麻痺は生じない。その症状は、
　(2)筋緊張低下(hypotonia)
　([)皮膚反射低下 ←→ Babinski 反射を生じる
　(J)伸張反射低下
　(F)踏み直り反応(placing reaction),跳び直り反応(hopping reaction)がなくなる。
錐体路の影響：錐体路は一部 γ-系にも入力することが明らかになった。従って錐体路＝随意運動ということは直ちに結び付かない。

§３．錐体路系の役割
　結局、運動野－錐体路は随意運動のうち、手指の運動のような微細な熟練を要する運動の発現とコントロールに関与していると考えられている。

§４．

３２．眼球運動の調節
眼球運動には随意運動と、それを助ける反射的調節機構が存在する。

§１．眼球運動の随意的調節
　現象的には、眼の動きは、急速眼球運動(saccadic eye movement)と追跡運動(spursuit eye movement)の２つの系が存在し、異なるという。軽く麻酔をかけると追跡運動の系がやられて、急速眼球運動のみ残るという。また、尾状核caudate nucleus がおかされるとき、まれに追跡運動のみが残る場合もある。外界の像を中心窩にもってくる foveal fixation (foveation) には急速眼球運動が関与している。
　上丘は層構造をしている。表層のニュ－ロンは視覚受容野を持っている。中間層 (intermediate gray)になると、眼が、視覚受容野がある方向へ、動くときに先立ってニュ－ロン活動が現れる。このことは、表層ニュ－ロンと中間層ニュ－ロンがつながるような指令が上位中枢からくれば、その方に saccade が生じ、foveation が生じることとなる。一旦生じた foveation or fixation はもうまくからの feed back によって維持される。

§２．反射的調節
　これには２つある。これが随意的調節を support する。
　１）視覚性固視反射(visual fixation reflex)　対象となる物体が動いているとき、眼球を反射的に動かし、物体の像が網膜上に静止するようにする。求心路は網膜から大脳皮質視覚野への路である。遠心路については色々な意見がある。上丘にゆき、上丘から眼筋核に行くという。
　固視反射は車の中から窓の外の景色を見ている人にも見られる。眼球は物体の見かけ上の動きにつれれ、徐々に動き、急に反対方向に saccade が生じる。これを繰り返す。これを視運動性眼振(optokainetic nystagmus)という。
　２）前庭眼球反射(vestibulo-ocular reflex)　頭を一定方向に回転し、角加速度があるとき、眼は回転方向と反対に反射的に回転し、一定時間、一点を凝視する。この反射を前庭動眼反射という。前述のように前庭に受容器があり、ニュ－ロン反射である。
　連続して回転し加速度が加わるとき、目は回転と反対方向に徐々に動き、急に戻る。この目の周期的運動を回転眼振(rotatory nystagmus)という。。急速な目の動きの方向を眼振の方向という。前庭動眼反射による眼振の方向は回転の方向である。止まった後にも後眼振(after nystagmus)が生じる。これは、正常で２０秒で、方向は逆である。その他、
　３）温熱性眼振 caloric nystagmus　外耳道に温水を入れるとその方向に向かう眼振。冷水を入れると反対側に向かう眼振が生じる。
　４）電流性眼振 galvanic nystagmus　電圧をかけると、陰極に向かう眼振が生じる。前庭核－内側縦束－眼筋核の経路を通る。