38.連合野の機能
 連合野 association areas は大脳皮質運動野と感覚野の間に介在し、高次の精神機能を営む所である。

§1.連合野の定義
 連合野は構造から次のように定義される。大脳皮質のうち、系統発生的に比較的新しい新皮質 neocortex は、発生の途中必ず一度、6層全層に存在する時期があり、構造的には同種皮質 isocortex と呼ばれる(第3章、157頁の表3-3参照)。
 この同種皮質(すなわち新皮質)のうち、運動野は完成時に第4層である顆粒細胞層が薄く、第5層の錐体細胞層が特に発達している。一方、第一次感覚野では、皮質への特殊投射繊維が主として終わる第4層(顆粒細胞層)が、特によく発達している。このように新皮質中、感覚野および運動野は皮質各層間に不平等が存在するところから、構造的に異型皮質 heterotypic cortex と呼ばれる。
 これに反し、1〜6層のどの層も、ほぼ平等に存在する皮質がある。この皮質は構造的に同型皮質 homotypic cortex と呼ぶ。同型皮質は、\幻綫犬犬訛臟照藜粗發料^櫃凌饐箍修、感覚野および運動野に比較して遅い。△海糧藜舛牢恭侈遒髪親位遒隆屬紡減澆掘⊃7-18に示すように動物がイヌ、アカゲザル、チンパンジー、更にヒトと高等になるにつれて広くなる。このように、同型皮質は個体発生的にも系統発生的にも新しく、動物が進化するにしたがって発達してくるところから、高次の脳機能を担っていると考えられる。19世紀の心理物理学では、高次の脳機能は単純な感覚要素が「連合 associate 」することによって生じると考えた。そこで同型皮質が、このような「連合」の場であろうという推定の下に連合野 association area と呼ばれるようになった。

<図39−1>
§2.連合野の区分
 連合野は前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に広く広がっている(図7-19)。このような広範に存在する連合野は表7-2のように中心溝を境として、大きく前頭連合野 frontal association area と後連合野 posterior assciation area に二分できる。機能的には、前者は「外界に向かって行動をする」ことと関連した高次機能をつかさどり、後者は「外界からの情報を処理する」ことに関連した高次機能をつかさどることが多い。
 前頭連合野は前運動野 premotor area より吻側の部分で、視床背内側核の投射を受けている。それは、前頭眼野である8野,9・10野、さらに前頭眼窩面ある11野を含む。さらにヒトの優位半球では、より高次の機能である言語活動をつかさどる前言語皮質 Anterior speech cortex である。44・45野(Broca領野)がある。
 後連合野では、第一次感覚野に近接して、それぞれ視覚(18,19,37,20,21野)、聴覚(42,22野)、および体性感覚(5,7野)の各連合野がある。そして、それぞれ、より高次の機能へと統合されて行くと考えられる。また優位半球では、さらに高次の後言語皮質 posterior speech cortex である22野の尾側部、39・40野が視覚、聴覚、体性感覚の各連合野に接して存在している。

<図39−2>
§3.前頭眼野の機能
 前頭前野 prefrontal area で、前運動野のすぐ前の8野は図7-20のように表面を電気刺激すると、両眼が刺激半球と反対方向に同時に動く。これを共役眼球運動 conjugate eye movement という。 このため、ここを前頭眼野 frontal eye field と呼ぶ。この部位は、後連合野おやび皮質下の諸核から広く入力を受け、上丘、脳幹に出力線維を出している。
 1側の8野が障害されると、’鵬側への視線の偏向、体側半視野の対象物の無視 visual neglect、サッケード運動(急速眼球運動) saccadic eye movement の障害といった症候が現れる。この症状は2〜4週でまた正常に戻る。

<図39−3>

 両側の8野の破壊でも、2〜4週間の一過性の眼球運動の障害が生じる。また両側上丘の破壊でも、急速眼球運動の一過性の障害を引き起こすことが知られている。そこで、8野と上丘の両方を一緒に破壊すると、視覚によって引き起こされる眼球運動が永続的に侵される。動物は、正確に対象物に視線を向けることができない。また眼球運動の範囲も制限される。
 このことから、前頭眼野は上丘と共に眼を目的物に向けて注視すること foveation に関与していると考えられる。

§4.前頭眼野より前の前頭連合野
 この部分は、すでにいろいろ処理された各感覚情報を受け、大脳皮質、皮質下の諸核に広く影響を与える。この部分の両側摘除は、反射、姿勢、個々の運動に影響を与えない。しかし次のような行動障害を起こす。
 仝納 perseveration。 前頭連合野特に主溝腹側部を摘除したサルは刺激物の1つへの扁執が生じ、それがサルにとって無意味なものでも、その刺激に対して同じ行動をくり返して飽くことを知らない。したがって適切な行動を学習できない。
 遅延反応 delayed response の障害。 サルが見ている状態で、サルの前に置いた2個のカップの下に餌をいれてかぶせる。次に、サルとカップの間を不透明なスクリーンでさえぎる。一定の(遅延)時間後、スクリーンを除き、サルに餌の入ったカップを選ばせる。訓練によって、正常なサルは遅延時間90秒まで正しい選択が出来るようになる。前頭連合野、特に主溝中間部を摘除したサルは、5秒の遅延でもでたらめな選び方をするようになる。
 この遅延反応の障害は、サルが注意力を集中できなくなる、短期記憶が障害される、空間的記憶が障害されることによる、などいろいろな説がある。
 3萋芦畭拭 前頭連合野の眼窩面を摘除すると、最初、運動低下が起こるが、やがて動物は紋切り型の単純な行動(ライオンのように休みなく無目的に歩き回る)をくり返すようになる。
 た牲仂匹両端此 動物に困難な弁別課題を課すと激しい情動反応を示し、ちょうどノイローゼのような行動を示す。このとき両側前頭眼野を摘除すると、この情動反応がなくなる。
 以上から、前頭連合野は一連の意図的な行動を起こすための手順とかプランを作る所であると同時に、そのための意欲 intention を作るといわれている。かつて精神病患者の治療の目的で、前頭連合野と他の部位の連絡を絶つ手術が行われた(前頭葉の切断術 frontal lobotomy)。患者の不安と幻覚は消失し、知能はあまり低下しない。しかし性格が変化し、過去の経過に基づいて将来を予測する能力が失われる。

§5.頭頂連合野(5野、7野)の機能
 頭頂連合野体性感覚および視覚の入力を受け、自己周囲の空間 extrapersonal space の定位と注意に重要な役割を演じている所である。
 頭頂連合野は、第一次体性感覚野(1,2,3野)と視覚連合野(19野)から繊維投射を受ける他、視床の背外側核、後外側核、視床枕からも繊維投射を受ける。出力は皮質、皮質下に広く分布する。
 一側の頭頂連合野が障害されると次のような症状が生じる。
 ‐祿欧気譴紳Δ犯紳仟Δ梁里よび空間の無視と注意喪失が生じる。そのため、()反対側半分の着衣をしなかったり、ひげを剃らなかったりする(身体認識不能 asomatognosia)。()物にさわっても、その形、大きさを知ることができない(立体認識不能 asterognosia)。()反対側空間にある対象物の位置を正しく認識できず、正確にそれに手を近づけてつまむこができない。()絵を描かせると半視野分しか描かない。
 ∋に眼球運動の障害を伴う。興味ある対象物への注視が遅くなり、またいったん注視するとなかなかやめない(眼球運動失行 oculomotor apraxia)。
 以上の症候は、右利きの人が右半球にある頭頂連合野を障害されたとき著しく現れる。
 近年、5,7野では、サルが手を積極的に対象物に突き出したとき反応を増大するニュ−ロン projetion neuron、対象物をいじるとき反応するニュ−ロン hand-manipulation neuron、また動物が積極的に対象物を注視するとき反応するニュ−ロン visual fixation neuron が見出されている。これらが、自己周囲の空間の定位と注意に関係しているニュ−ロンと考えられている。

§6.下側頭連合野の機能
 下側頭連合野 inferotemporal cortex は、視覚パターンの弁別 visual fom discrimination の学習と保持に重要な役割を果たす。サルの下側頭皮質を摘除すると、視力が正常にもかかわらず、比較的複雑な視覚パターンの認知ができなくなる。この状態を視覚失認 visual agnosia,または精神盲 psychic blindness という。
 視覚情報は、第一次視覚野(17野)→視覚前野(prestriate area;18,19,37)→下側頭皮質(20,21野)の順に伝達されながら、次第に視覚パターン弁別という高次な処理を受ける(図7-21a)。これら連合野と連絡のある皮質下の核、特に視床枕はこの視覚パターン弁別には重要な役目をしていない。
 17野から21野までの視覚情報処理の方式は、それぞれの領野のニュ−ロン活動を比較することでもわかる。その処理は2つの原則によって行われている。その第一は、「個々のニュ−ロンの担う情報の特殊化」である。換言すれば、「視覚情報の細分化」である。大部分のニュ−ロンは光を単に当てただけでは反応しない。図21b-2のように、直線やエッジ形の光刺激を見せたときだけ反応する。しかも、これら図形の傾きが個々のニュ−ロン固有の一定の向きをしているときだけ反応する。さらにニュ−ロンによっては、刺激図形の傾きが一定だけでは反応せず、その上、図形の長さが一定の時だけ反応する(図21b-3)。このように17野→21野に進むにつれて、ニュ−ロンは、そのニュ−ロン固有な図形パターンを呈示したときだけ応答する傾向が大となる。このことは、図形パターンは境界、直線の傾き、角度、端といった多数の特徴に分解され、多数のニュ−ロンが、それぞれの特徴を担っているということができる。
 第2の原則として、1つのニュ−ロンが視野の広い範囲から入力を受け、視野上の絶対的な位置にあまり関わりなく、刺激のパターンによって反応するかしないか決まるようになる。そして視野の中心 foveal region から入力を受けているものが多くなる。20,21野になると、ニュ−ロンの担う情報の特殊化はさらに進んでいるという。あるニュ−ロンは、図7-21cのような一連の図形を示したとき、手の影に最も似た御日目ターン(右端)に最も強く反応し、それからパターンが離れると次第に反応が弱くなる。
 以上のように、ニュ−ロンのレベルにおいても、下側頭連合野において視覚パターンのカテゴリー化 categorization が生じていることがわかる。このカテゴリー化は、パターン認識の第1歩であるということができる。

<図39−4>
§7.言語野
 成人の言語野speech area は一般に、右・左利きに無関係に左半球にある(図7-22)。しかし一部の左利きの人では、言語野が右半球や両半球にある場合もある。
 言語野を損傷すると失語症 aphasia が生じる。失語症には主として次の2つのものがある。
  ̄親粟失語症 motor or exspressive aphasia:下前頭回の後方44,45やはBroca野 Broca's area と呼ばれる。ここが損傷されると運動性失語症となる。発声の運動機能は正常であるのに、自発的によく話すことができない。あまり話さず、話しても遅く、構音も悪い。一方、人の話とか、書いてある文字の理解は正常である。
 感覚性失語症 sensory or receptive aphasia:上側頭回の後上部の22野の尾側部は Wernicke 野 Wernicke's area と呼ばれる。ここが損傷を受けると感覚性失語症となる。自発的によく話す。しかし文法的誤りがあったり、話がくどくなる。一方、聴覚は正常なのに、話す言葉、書かれた文字の意味がわからなくなる。
 その他、補足運動野にほぼ一致して、上言語野 superior speech center と呼ばれる部位がある。ここを刺激すると刺激期間中失語が生じる。

<図39−5>
§8.連合野間での連合
 39野(角回)、40野(縁上回)が傷害されると、失読 alexia とか書字不能 agraphia が生じる。しかし、この領野に「読む」中枢とか「書く」中枢という特定の機能があるとは考えない。「読む」とか「書く」ということは、これらの領野も含めた複数の連合野が一緒に働いて実現した一連の行為とみなす。それで、22,39,40野を一緒にして後言語皮質 posterior speech cortex という(図7-22)。
 このような考えは次のようなことから生じた。脳梁は右左の大脳半球をつないでいる。この最尾側にある脳梁膨大が切断されると、視野の左側に短時間呈示した文字を音読できない。すなわち一側失読が生じる(視野の右側に呈示した文字は音読できる)。ところが、左視野に呈示した文字は音読はできないが、患者は正しく認知しているのである。このことは、多数のカードから左視野に呈示した文字と同じ文字を選び出すことができることによってわかる。
 このように、正しく認知しているが音読できない「一側性失読」の機序は図7-23のように説明される。視野左に呈示された文字は、右半球の第一次視覚野を経て視覚連合野に行き、ここで認知される。それを音読するには、脳梁膨大部→角回・縁上回→Wernicke野に行き、そこにある語音の聴覚記憶像と対照されなければならない。ところが脳梁膨大が切断されているので、右半球から左半球へ伝わることができない。それで文字は認知されているが音読が不可能なのである。
 このことから、音読という過程は単一のものではなく、文字の視覚的認知と、認知された文字の語音への転換という2つの過程であると考えられる。角回、縁上回傷害による失読、書字不能も同様で、そこに「読む」中枢、「書く」中枢を仮定しなくてもよい。Wernicke 野も含めて、文字の聴覚性記憶および想起の場であるとすれば、全ての現象は理解できる。
 このようにヒトの大脳皮質の営む高次機能は、何もいちいちその機能に対応する単独の中枢を考える必要はない。複数の連合野の連鎖過程によって実現されていると考えられるようになった。連合野間の結合繊維が損傷されることによって引き起こされる高次機能の脱落症状を、離断症候群 desconnection syndrome という。

<図39−6>