脳動脈瘤cerebral aneurysm

河野 能久(かわの よしひさ) (脳神経外科外来:毎週金曜日)

脳動脈瘤とは

脳に酸素や栄養を送る血管は、首の前方に左右2本の内頸動脈、後方に左右2本の椎骨動脈、合計4本の太い血管が頭蓋内に入りネットワークを作って脳の周りを走行しています。この脳の周りの血管が走行している場所をくも膜下腔(くも膜と脳の間の空間)と呼びます。これらの血管の分岐部では、血液が当たることにより動脈壁にストレスがかかり動脈の壁の一部(内弾性板)が裂けて壁が薄くなり、嚢状または紡錘状に膨らんでしまうことがあります。これが脳動脈瘤です。

脳動脈は内膜、中膜、外膜の三層からなっていますが、内膜と中膜の間にある内弾性板という硬い構造が壊れるとその外側の壁は容易に拡張し、風船のように膨らみ脳動脈瘤となります。さらにストレスがかかるとこの外側の壁も破けてしまい、脳動脈瘤が破裂することになります。脳動脈瘤は破裂すると、動脈の周りの空間であるくも膜下腔に出血することとなり、くも膜下出血となります。

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破裂脳動脈瘤(くも膜下出血を起こした場合)

4-5割の患者は、病院に到達する前に心肺停止状態となったり、病院に到達しても脳の障害が強く手の付けられない状態であったり、手術などの治療を行えたとしてもその後の合併症などにより命を落としてしまいます。また2-3割の患者はなんとか命を救えたとしても、意識障害・高次脳機能障害・麻痺などの大きな障害を残してしまいます。社会復帰できるのは全体の2-3割程度と少なく、手術まで到達できた場合でも約半数の患者さんが自立した生活を送ることができず、非常に予後の悪い結果となります。

くも膜下出血後の予後不良の原因の一つに、手術が無事に終了した場合でも未だに克服できていない合併症である急性脳損傷・脳血管攣縮があります。脳血管攣縮とは、脳の血管の周りに出血した血液が存在することにより血管自体が収縮してしまう病態であり、過剰に収縮した場合にはその先に血液を送ることができなくなり脳梗塞を起こしてしまいます。急性脳損傷とは、出血した血液により脳が圧迫され脳全体の圧が上昇することにより血管内皮や神経細胞自体に様々な障害を起こしてしまう状態です。当科ではこの脳血管攣縮・急性脳損傷に関してさまざまな基礎研究を行っており、機序の解明や治療法を研究してきました。現在ではある程度頻度を減らすことはできましたが、未だ完全には解明できておらず、現在さらなる研究を行っているところです。

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未破裂脳動脈瘤

上記のように脳動脈瘤が破裂し、くも膜下出血を起こしてしまった場合は最新の手術・術後管理をもってしても自立した生活に戻ることは非常に困難な状況です。そこで、脳ドックなどでたまたま未破裂の状態で動脈瘤が見つかった場合は破裂を予防することが非常に重要と考えられます。

未破裂脳動脈瘤でも破裂しやすいもの、しにくいものがあると考えられます。日本で行われた研究では、大きさや形状、動脈瘤のある部位により破裂する頻度が異なっています。脳卒中ガイドラインでは5-7mm以上の場合や5mm未満でも症状がある場合や前交通動脈や内頚動脈-後交通動脈部などにある場合、不整形などの特徴を持つ場合に治療等を含めた慎重な検討を勧めています。実際には、絶対に危険、絶対に安全ということはなく、動脈瘤の大きさや形状、部位、患者さんの状態を考慮して、患者さんやそのご家族と相談しながら経過観察や手術を含めた最善の治療を選択していきます。

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診断

頭痛・眩暈精査や脳ドックなどのMRA等で偶然見つかりご紹介いただくことが多いです。稀にまぶたが垂れてしまい目が開かなくなる(眼瞼下垂)、物が二重に見える(複視)、等の症状で内頚動脈に動脈瘤が見つかることもあります。眼瞼下垂や複視で見つかった場合は、増大傾向にある可能性が考えられるため早めの治療を考慮します。治療を検討する場合は、MRA(MRIによる血管評価)、CTAG(CTによる血管評価)、脳血管撮影(カテーテルによる血管評価)などにより、動脈瘤の大きさ、形状、部位を詳細に評価します。

前交通動脈瘤3DCTAG
内頚動脈瘤3DDSA
内頚動脈瘤3DCTAG
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治療

破裂の危険性と治療のリスクを詳細に検討し、経過観察・手術治療を選択します。経過観察は主にMRAによる6-12か月毎の観察を行います。手術治療には①開頭ネッククリッピング術と②血管内コイル塞栓術が行われています。当院では血管内治療科(血管内治療科とリンク)と綿密なディスカッションを行うことによりどちらが有利かを検討し治療方針を決定しています。

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治療の特色

動脈瘤の形状、部位により手術の難易度は変わります。手術前の三次元CT画像を用いシミュレーションを行うことにより、難易度に合わせて頭蓋骨を開ける(開頭)範囲や場所を決めて手術を行っております。中大脳動脈などの比較的浅い場所に動脈瘤があり、安全に手術が可能な場合は小さな開頭で手術を行い、深い場所に動脈瘤がある場合や複雑な形状の動脈瘤の場合は、安全に手術が行える範囲での開頭を行って手術を行っております。

左中大脳動脈未破裂脳動脈瘤 シミュレーション画像

中大脳動脈瘤開頭範囲
脳底動脈等の深部脳動脈瘤の開頭範囲
左中大脳動脈瘤 不整形で一部薄い壁を認める
クリップ2つ使用
術前三次元画像
術後三次元画像 緑:クリップ

手術の際、正常な血管をクリップでつぶしてしまい麻痺などの合併症を来す可能性があります。これを防ぐために、裏側の見えにくい細い動脈等も内視鏡等を用いて確認し温存するようにしています。また、クリップをかけた後にICGという蛍光色素を用いて非常に細い血管の血流も保たれていることを確認しています。さらに、術中に電気刺激を行うことにより実際に手足が動くことを確認しながら(運動誘発電位(MEP)モニタリング)手術を行っており、麻痺などの合併症をなくすべくより安全な手術を行っています。

顕微鏡画面
同時の内視鏡画面
右内頚動脈クリッピング後
細い穿通枝動脈の血流をICG(蛍光色素)を用いて確認
電気刺激による運動誘発電位MEPモニタリング

当院では頭蓋内外、脳の深い場所にできる腫瘍の手術を頭頸部外科と合同で数多く行っており(頭蓋底手術をご覧ください(作成予定))、このような部位の手術経験が豊富です。

脳の深いところにあり比較的手術が難しいといわれている部位の動脈瘤に対しても、このような頭蓋底手術手技を用いることにより安全に治療を行っております。

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当院の診療体制

日本脳神経外科専門医 13人
脳卒中専門医 12人
日本脳卒中の外科技術指導医 2人
血管内治療専門医 5人
血管内治療指導医 2人

血管内治療科

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