大腿骨頚部骨折の医療ケア標準化における費用対効果
主任研究者 川渕 孝一 東京医科歯科大学大学院 教授

 

 

研究要旨

 人工骨頭置換術の施設比較により、在院日数と歩行能力に関するクリニカルインディケーターとして@全荷重許可術後日数、A全荷重平行棒歩行開始術後日数、B脱臼、C手術部位感染症、D尿路感染症、E褥瘡が検証された。また、当該インディケーターへの介入により一定の医療費節約効果があることも判明した。

A.研究目的

医療の標準化推進の具体的方法論を確立するために、現在行われている医療ケアとそのアウトカムの実態を把握し、関連する因子をクリニカルインディケーターとして明確にする。また文献上では、治療過程において医療または看護の早期介入が効果的であるとされているが、その臨床的・経済的効果、費用対効果を実証する。

B.研究方法

全国にある4つの急性期病院で、平成124月〜平成1311月の期間に、大腿骨人工骨頭置換術を行なった入院患者のカルテとレセプト(N=117)を収集した。

 患者属性、アウトカム指標(在院日数、歩行能力)及び実施された医療ケアに関するデータ、併せて98項目を収集するとともに、クリニカルパスの使用の有無をレトロスペクティブに調査し、それぞれの関連性を分析した。

(倫理面への配慮)データ管理は研究便宜上、患者番号で管理し、個人名のもれがないよう十分配慮した。

 

C.結果

 分析対象者は114例。アウトカム指標として@在院日数A退院時歩行能力を用い、これらに関連のある因子を回帰分析にて分析したところ、前者は全荷重許可までの術後日数、褥瘡、退院時歩行能力、術後感染症が有意であった。

 

他方、後者においては譫妄の有無、静脈ラインの留置日数、在院日数、術後感染症において有意差が見られた。医療ケアの早期介入による効果としては、退院時に一本杖歩行が可能になった患者では一本杖歩行を開始するまでの術後日数が短いほど在院日数の短縮率が高くなることが明らかになった。また、一本杖歩行開始を1日早く開始すると、0.9日在院日数が短縮し、1日当たりのレセプトは61.3点増加するが、総医療費は1,716点減少することがわかった。術後合併症としては、褥瘡、尿路感染が発生すると在院日数が延長するため、1日あたりのレセプトは、前者では629点、後者では909点低下することがわかった。

D.考察

 人工骨頭置換術のアウトカムに影響するクリニカルインディケーターとして、@全荷重許可術後日数、A全荷重平行棒歩行開始術後日数、B脱臼、C

手術部位感染症、D尿路感染症、E褥瘡が検証された。しかし、これらの項目をクリニカルパスを使用した施設と使用していない施設で比較したが、有意差はなかった。これはクリニカルパスが無効だということではなく、アウトカムに関連する因子ほどパスの標準化が進んでいないことを示唆するものである。なお、クリニカルインディケーターで費用対効果が出たのは、褥瘡と尿路感染症、全荷重許可術後日数であった。今後さらに医療費節約効果をあげるには、医療の標準化を促進する介入が必要である。

E.結論

 リハビリの早期介入は、歩行能力を維持したまま在院日数を短縮する費用対効果が検証された。医療の標準化による費用対効果を測定するには、より明確なアウトカムに影響するリスク調整とクリニカルインディケーターを測るためのインフラ整備が必要である。