1.沿革 

 医動物学講座が文部省から正式に認可されたのは、昭和38年4月である。しかし、実際に医動物学の研究、講義が開始されたのは、それよりも10年以上も前の昭和25年に名古屋大学名誉教授の熊田信夫先生が、微生物学の助手として着任したのが最初である。それより2年遅れて、昭和27年に後に初代教授となった加納六郎先生が東京大学伝染病研究所から衛生学の講師として着任し、熊田先生と2人で医動物学の研究、教育にあたった。その後、昭和29年に農村厚生医学研究施設(現在の難治疾患研究所疫学部門)が開設され、加納先生が助教授として研究施設と医動物学教室を兼務するようになった。そして、昭和32年に公衆衛生学講座の主任教授として、公衆衛生学と医動物学を担当することになった。その後、昭和38年に正規の講座として発足し、熊田先生が助教授に昇任した。当時のスタッフは、教室員8名と大学院学生1名の小所帯であった。

 当時の主な研究テーマは、恙虫病の研究で、媒介するツツガムシの解明、ツツガムシや野鼠からの病原体リケッチアの分離などに貢献した。その頃は、アカツツガムシにより媒介される古典的な恙虫病についてはよく知られていたが、アカツツガムシ以外のツツガムシによって媒介される軽症の恙虫病については、あまり解明されていなかった。当時、伊豆七島で七島熱と呼ばれていた風土病が、恙虫病であることがわかり、東京大学伝染病研究所の佐々学先生の研究班に、加納、熊田、金子らが参加し、多くの業績をあげている。加納は、その頃分類学的にもまったく分かっていなかった衛生上重要なハエ類の研究に着手していた。熊田は、ノミの分類学的研究を行い、金子は、シラミの研究を始めた。恙虫病の研究班は、その後、国立予防衛生研究所の田宮猛雄博士を班長として、昭和40年頃まで継続した。

 昭和36年頃からは、加納が本格的にハエの研究を開始し、この頃より、文部省の科学研究費による海外学術調査が始まった。テーマは、東南アジアおよび南太平洋地域の衛生上重要な衛生害虫の研究で、第1回は、昭和48年に、加納、篠永の他、他大学より栗原毅(帝京大学)倉橋弘(国立予防衛生研究所)、嶌洪(九州大学)が参加して、インドネシアとニューギニアで3カ月にわたり調査を行った。第2回は、昭和50年に東南アジアで3カ月間、第3回は昭和52年に約3カ月間ニューギニア以東の南太平洋地域で調査した。この研究はその後も継続し、平成6年までに、パキスタン、インド、ネパール、台湾、ニューギニア、マダガスカルなどで10数回の海外学術研究を行った。その成果は、「衛生動物」などの学会誌に数十編報告している。

 海外学術調査では、分類、生態学的研究のみでなく防除の基礎研究も行った。昭和49年からは、林晃史が研究班に加わりイエバエの殺虫剤抵抗性の研究を開始した。研究のフィールドは、国内のみでなく、台湾から西サモアまでの東南アジアおよび南太平洋地域全域とパキスタン、ネパール、マダガスカルでも行った。これほど広範囲のイエバエの殺虫剤抵抗性を研究したのは、世界に例を見ないものである。

 昭和55年度には、厚生省科学研究費補助金(委員長:加納六郎教授)により「集団生活の場等におけるシラミ類の薬剤感受性および予防策の確立に関する研究」がなされ、当時急速に蔓延していたアタマジラミの予防対策とシラミ駆除剤の開発に取り組んだ。この結果は、住友製薬から発売されたピレスロイド系殺虫剤「スミスリンパウダー」により解決された。

 その後、昭和60年に加納六郎教授が本学の学長に選ばれ教室を去るまでに、教室員、大学院学生、外国人留学生らにより、多くの衛生害虫に関する研究成果が報告された。

 昭和62年には藤田紘一郎が長崎大学教授より本学に転入した。藤田は過去20年日米寄生虫部会の主任研究員としてフィラリア症と成人T細胞性白血病との関連やフィラリアのワクチン開発のための基礎的研究を続けた。その成果によって、昭和61年、63年、平成4年、6年とほぼ連続して文部省科学研究費を得ている。また平成2年には厚生省熱帯病研究班の班員として、3年間フィラリア感染防止のための基礎的、かつ疫学的な研究に従事した。

 昭和63年には衛生昆虫学を研究していた杉山悦朗講師が辞職し、代わりに免疫学を専攻していた山岡国志を講師に迎えた。山岡は寄生虫感染におけるT細胞の役割、とくにサイトカインとの関連について精力的な研究を行った。

 とくにフィラリア感染がT細胞やB細胞上のCD23を増強するとした仕事は世界的に注目された。この仕事は寄生虫感染ばかりでなく、アレルギー疾患を解明するための貴重なデータとなった。この研究が認められ、山岡はフランス国キューリー研究所に招待され、平成5年には同研究所の正式な研究員として採用された。その間の大学院生は、フィラリア感染におけるHostParasite Relationskipに関する免疫学的な研究を行い、フィラリア感染がT細胞上のIL-2のレセプターを増加していること、フィラリア感染がTh-2反応に宿主の免疫状態を変化させることなどの優れた研究業績を残した。

 平成6年には赤尾信明を金沢大講師より本学に迎え、従来の研究の他にイヌ・ネコ回虫症などの人畜共通寄生虫病の病態や診断に関する研究が加わった。

 平成12年4月1日より,大学院大学への移行に伴う機構改革が実施され,教室名が国際環境寄生虫病学と変更された。

平成14年,篠永哲助教授の定年退官後,赤尾が助教授に就任し,15年1月には林が助手として採用された。

平成17年3月31日をもって藤田教授は定年退職し,大学から名誉教授の称号を授与された。また,6月30日付で月舘助手が退職した。

平成18年1月1日付をもって,太田伸生名古屋市立大学教授が第3代目教授として着任した。

 


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