胸膜炎で発症し,抗肺吸虫抗体が低値を示したウエステルマン肺吸虫症の1例

原町市立病院内科
○樋口利行,谷 富昭
東京医科歯科大学医学部医動物学教室
 月舘説子,須藤 明,赤尾信明,藤田紘一郎
国立公衆衛生院衛生微生物学部
 荒木国興


肺吸虫症の診断は喀痰や糞便あるいは胸水中から虫卵を検出することにより確定診断されるが,寒天ゲル内二重拡散法やELISAなどの免疫血清学的診断法も補助的診断として広く用いられている。今回われわれは,胸膜炎で発症し,胸水中の抗体が低値を示した高齢者のウエステルマン肺吸虫症を経験したので報告する。

【症例】83歳,男性。無職。福島県原町市在住。
【主訴】呼吸困難,
【現病歴】2年ほど前より,咳嗽,喀痰の増加に気づく。近医にて胸膜の肥厚を指摘されるも放置。平成8年5月1日,夜間の呼吸困難を主訴として当科受診。胸水の存在を指摘され,精査のため入院。
【入院時所見】
胸部レントゲン所見上,心肥大,左胸腔に胸水貯留を認めた。血液検査では,CRP 陰性,TTTおよびZTT軽度上昇。好酸球0.6%。胸水の穿刺液中に多数のウエステルマン肺吸虫卵を認めた。
胸水を用いた寒天ゲル内二重拡散法では沈降線は認められなかった。また,ELISAによる検査でも肺吸虫抗原に対する抗体価は低値であった。

肺吸虫感染では末梢血中の好酸球増多や,血清あるいは胸水中の抗体が上昇する例が多いとされる。しかし今回の症例のように,CRP 陰性,好酸球数正常,抗体価の上昇も見られない場合もあり,診断に際しては注意が必要である。