疫学的背景に関する調査研究

 

胃アニサキス症の上部消化管内視鏡検査像

各地域での広東住血線虫の分子系統解析

東京都公園内の砂場より採取したイヌ回虫・ネコ回虫卵の遺伝子解析による同定

・関東近郊の病院で検出されたアニサキス科幼虫の分類研究

アニサキスは最も日本人になじみのある寄生虫であり、サバやイカを中心とした多数の海産生物より感染する幼線虫である。アニサキスは胃・腸壁にもぐりこむことで、激しい痛みや、アレルギー反応を起こすことが知られている。が、一方で、全く無症状に経過することもあり、その原因については明らかになっていない。我々は、関東近郊の病院や人間ドックで検出されたアニサキス幼虫を集めて、遺伝子解析による種同定を行い、感染源・症状・分布等を比較することで、アニサキス症の発症機序に迫っていく。

・分子系統解析に基づいた広東住血線虫の世界的分布拡散に関する研究

広東住血線虫は主にネズミの寄生虫であるが、偶発的にその幼虫がヒトに摂取されることで、重篤な好酸球性髄膜炎を引き起こす。中間宿主や媒介生物が、アフリカマイマイやジャンボタニシなどの外来巻貝やナメクジなど多岐に渡っており、現在、世界的に分布を拡大している寄生虫である。日本においても、広東住血線虫は分布しているが、どの時代に、どのような経路で入って来たのかは不明である。そこで我々は、広東住血線虫がどのように世界的に拡散して来たのか、そして、どのような生物がその拡散に関わっているのかについて研究するために、日本での様々な地域と世界の共同研究者より集めた虫体を用いて、それぞれの個体群での分子系統解析を行っている。これにより、少なくとも日本で検出された虫体は起源の異なるいくつかのグループが存在していることがわかった。現在、更なるサンプル調査を行っている。

・日本住血吸虫感染ミヤイリガイのLAMP法による環境モニタリング(中国・浙江省医学研究所・安徽省寄生虫病研究所との共同研究)

日本住血吸虫はすでに日本では絶滅しているが、中国やフィリピンを中心とするアジアの一部で未だ流行が見られる。大規模な対策が取られ、ヒトでの感染率が減少する一方で、感染源となる中間宿主貝であるミヤイリガイの生息地は広大で貝の数は多いにも関わらず感染率は低い。しかし、確実に感染者や感染家畜が維持されている。そのため、地域の安全指標を作製することは非常に難しい。我々は、日本住血吸虫DNAを特異的に検出するLAMP法を開発した。LAMP法は高感度で、かつ、短時間で容易に特異DNAを検出できる新規の方法として数多くの研究レポートが発表されている。日本住血吸虫を標的としたLAMP法では、50分の反応で100fgのDNAを目視にて検出できることがわかった。この方法を応用して、多くの感染貝からまとめてDNAを抽出し、その中に日本住血吸虫が感染しているかどうかを短時間で判定できる。現在、中国のフィールドにて、この方法を用いて、大量の貝を標的に感染率のモニタリングを行い、その有用性を確認しつつ、現場応用を試みている。

・公園内の砂場より検出されるイヌ・ネコ回虫の分布調査

イヌやネコの糞便には、それぞれを宿主とする回虫類が寄生していることがある。これらの回虫類のヒトへの感染は、幼線虫移行症を引き起こし、肝臓や眼球にて症状を呈する。感染源としては、公園等の砂場での糞便汚染や、ニワトリやウシなどの肝臓の生食である。我々は、従来の虫卵を直接顕微鏡下で検出する方法ではなく、新規の遺伝子検出法によるイヌ・ネコ回虫卵鑑別をPCR法とLAMP法を用いて開発を行った。この方法は、回虫卵の種同定ができるだけではなく、非常に高感度に検出できることがわかった。実際に公園内の砂場より虫卵を検出し、この新規の遺伝子検出法を試みた結果、多くの公園の砂場よりネコ回虫卵を検出した。今後、さらなる地域を調査することでイヌ・ネコ回虫の汚染地域マップを作製していく予定である。

 寄生虫の流行・分布域を疫学調査で把握する!

LAMP法による日本住血吸虫DNA検出