免疫学的アプローチ

 
 寄生虫の引き起こす病態形成、免疫抑制機構を解明する!

宿主免疫細胞

分泌型エクソソーム

日本住血吸虫

虫卵性肉芽腫

小腸に潜り込む旋毛虫成虫

旋毛虫成虫

幼線虫皮膚爬行症

(CLM)

Th2型免疫応答

Th1 or Th2?

・住血吸虫より分泌されるエクソソームによる免疫抑制

住血吸虫はヒトを含む哺乳類に感染する寄生虫であり、水中で皮膚を貫通して感染する。感染後は血管内に寄生し、門脈や腸間静脈で成熟し、産卵を開始する。血管内で長期間の寄生生活をおくるにもかかわらず、住血吸虫成虫は免疫の攻撃を寄せつけない。その機構の一つとして、住血吸虫はT細胞に不応答性を引き起こすことが知られている。これを誘導する因子として、我々は分泌型の小胞の一つであるエクソソームに注目し研究を行っている。すでに、エクソソームはTh1細胞によるIFN-g産生の抑制を行っていることを見出した。現在、その標的細胞とエクソソーム内の担当分子の同定の研究を行っている。

・日本住血吸虫感染でのIL-4/IL-13による虫卵性肉芽腫形成の抑制機構

日本住血吸虫症はアジアで流行が見られ、マンソン住血吸虫やビルハルツ住血吸虫などの他の住血吸虫よりも病態が重篤であることが知られている。これまでの報告では、マンソン住血吸虫の感染マウスモデルにおいて、虫卵によりTh2型の免疫応答が強く誘導され、肝臓内に好酸球主体の肉芽腫が形成される。また、その肉芽腫形成はIL-4/IL-13依存的に促進されることが報告されている。しかし我々は、日本住血吸虫の感染マウスモデルにおいては、肉芽腫形成は好中球主体であり、IL-4/IL-13は肉芽腫形成に抑制的に働くことを見出した。この全く反対の現象を解明するために、どのようなサイトカインやケモカイン、免疫担当細胞がこの機序に働いているのかについて、現在研究を行っている。

・旋毛虫感染での、排虫に関わる免疫細胞の同定

旋毛虫は全世界で見られる寄生線虫であり、食肉摂取により媒介される。成虫は小腸に寄生し、そこで幼虫を産下する。幼虫は小腸から全身の横紋筋へと運ばれ、そこで被嚢を形成し次の感染の機会を待ち続ける。旋毛虫の感染マウスモデルにおいて、小腸での成虫の寄生生着にはTh2型免疫応答が関与していることが、すでに知られている。しかし、成虫(またはその抗原)をどのような細胞が認識し、Th2型の免疫応答を誘導するかについては、よくわかっていない。我々は、旋毛虫感染モデルを用いて、Th2型を誘導するイニシエーターの役割を持つ細胞について検索を行っている。

・皮膚爬行症(CLM)に関係するサイトカイン応答の疫学的研究(ドイツ・シャリテ・ベルリン医科大学との共同研究)

一部の動物由来線虫の幼虫は、ヒトの皮膚より侵入することが知られている。しかし、ヒトが好適宿主ではないため、ヒト体内では成虫になれず、皮下を移動し続ける。これが幼線虫皮膚爬行症(CLM)であり、強い痒みや痛みを伴い、ひどい時には睡眠障害を引き起こす。このような寄生虫疾患の免疫学的な研究は進んでおらず、その発症と免疫応答の関係についての理解は乏しい。現在我々は、CLMの流行地の一つであるブラジル・マナウス地区の住民より血清を採取し、血清中のサイトカイン量を測定することで、その病態の特徴を把握することを試みている。