コース 感染・血液・検査 学習単位:血液検査実習 水曜 午後3,4限
担当: 臨床検査医学 東田 修二 (連絡先
tohda.mlab@tmd.ac.jp)
【シラバス】
時間: 水曜 午後12:40(厳守)〜15:30
教材: 下記のテキスト。実習に十分な時間がとれるよう、事前にテキストを熟読して、内容を理解しておく。
場所: MDセンターのスキルス・ラボ(3号館2階、D-209)
一般目標:
1) 患者と医師にとって安全に採血できる技能を習得する。
2) 基本的な血液学的検査を実施して解釈する能力を習得する。具体的には、卒後、当直医として、独力で血液検査を実施して判断できることを目標とする。
(採血、標本の解釈とも、この実習だけで完全にマスターすることは不可能であり、必要最低限の基本事項を習得するよう努める。)
行動目標:
1) 確実かつ安全に採血ができる。(テキストとDVDで予習 → 模擬採血 → 実際の採血)
2) 血球数計測の方法を理解し、結果の解釈ができる。血液塗抹標本の作成と解釈ができる。
学習方法:
1) 採血シミュレータ(腕模型)を用いた模擬採血 (3号館2階、D-209、スキルス・ラボ)
2) 学生2人で互いに採血 (同上)
3) 自動血球計測機器による各自の血液の血球数計測
(病院B棟3階、検査部 緊急検査室)
4) 各自の血液の塗抹標本の作成 (3号館3階、D-311、臨床検査医学
実習室)
5) 各自の標本の検鏡、白血球分画の計測、種々の疾患の血液標本の検鏡(3号館2階、D-218、マルチメディア室)
6) 総括: 検査の意義や異常値が誤って生じる可能性についての討論
(同上)
評価: 実習中の理解度と意欲を評価する。コース終了時(金曜午後)の小テストに本実習に関する問題が含まれている。
【テキスト】
【準備】
1) このテキストを熟読して実習の内容を理解する。
2) 採血手技を解説したDVDを実習室に置いておくので、各自で見ておく。(所要時間9分)
3) 30分程度の検鏡実習で、白血球分画を正しく判定できるようになることは困難であるため、組織学実習アトラスの復習と、『血液細胞アトラス』(三輪史朗 渡辺陽之輔 著、文光堂)などを用いた予習をする。アトラスを実習に持参してよい。
【注意】
1)血液を採血管に入れる時、自分の指に注射針を刺さないよう注意する。手が震える時は採血管を机の上に置いて押さえてから、針を突き刺す。
2)使用後の注射針はリキャップ(針にプラスチックのキャップをかぶせること)せずに針専用容器(ハリポイ)に捨てる。ゴミ箱に捨ててはいけない。
3)シリンジ(血液が残っていてもよい)、スライドグラス、毛細管は医療廃棄物専用ゴミ箱に捨てる。
4)机に血液を垂らしてしまったらアルコール綿で拭きとる。針先から血液が垂れそうになったら、ピストンを少し引く。
5) 採血者の要領が悪いと、被採血者(患者)に不安と緊張が生じ、採血の疼痛によって血管迷走神経反射(vaso-vagal reflex)を起こして、気分不良と血圧低下をきたす。採血も難しくなる。これを防ぐには、採血の手順を充分に把握しておき、被採血者におどおどした態度を見せないこと(うまく採血できる自信がなくても、)が重要。血管迷走神経反射を起こしたら、長椅子に(もしくは椅子を並べて)横になって、頭を低くしておくと回復する。
【各手技の解説】
(1)採血
準備:
採血管(2種)
血算用採血管: EDTA入りの紫キャップ 管内は陰圧になっており、約2mlはいるようになっている。
輸血用採血管: EDTA入りのピンクキャップ 約7 mlはいる。 木曜日の実習で用いる。
採血量は計9ml 血液は血算用→輸血用の順に分注
(血算用にはマジックで自分の名前を書き、輸血用には配付したシールに名前を書いて貼りつける)
22G注射針、10ml用シリンジ、駆血帯、アルコール綿、)、採血枕、テープ
手順:
1)シリンジに針を取り付ける。針の切り口の側とシリンジの目盛のある側を一致させる。相手の採血管を手元に置く。
2)(この実習室では机が大きいため)机の角を挟んで採血者と被採血者が座る。被採血者の肘を枕の上に載せ、肘を伸展させる。
3)駆血帯で上腕を締め静脈が浮き出たら、しぼったアルコール綿で穿刺部位を消毒する。穿刺部位を探すのに時間がかかり過ぎて(3分が限度)、腕が変色してきたら、いったん駆血帯をゆるめてやり直す。
4)針の切り口を上にして、皮膚に対して10〜20度の角度で、針穴全部が皮下に隠れるまで素早く刺す。ゆっくり刺すと血管が逃げたり、穿刺部から血液が漏れ出てしまう。血管が逃げる時は、左手拇指で皮膚を手前に引いて血管が動かないようにする(図@)。
5)血管に入ると、針の付け根(図A)に血液が見えてくる。血液が見えなくても、血管に入っていると思われる時はピストンを引いてみる。
6)針先が血管に入ったら、針の角度を浅くして(シリンジをねかせて)、もう2〜3ミリ針を進める。これをしないと、採血中に針が血管から抜けてしまう。ピストンをゆっくり引いて採血。針の皮膚から出ている部分の長さに常に注意を払い、採血中に針が抜けたり、押し込まれたりしないようにする。
7)針が血管から抜けていないはずなのに血液が引かれなくなったら、指の開閉(グーとパー)を繰り返してみる。採血中に針が抜けてしまったら、素早く駆血帯をはずして、アルコール綿で圧迫止血。途中までとれた血液は輸血用採血管に入れてよい。止血後、新しいシリンジと針を用いて、反対側の腕(もしくは同側の遠位)で不足分の採血をやり直す。
8)必要量を採取したら、駆血帯をゆるめ(針を抜くよりも先)、穿刺部位にアルコール綿(あらかじめ手元に置いておく)を軽くあてがい、針をまっすぐに抜き、アルコール綿で圧迫止血する。アルコール綿をテープで固定する。被採血者が3分間圧迫止血。揉んではいけない。
9)採血者は直ちに分注する。注射針で血算用採血管のキャップの中央を突き刺す(自分の指を刺さないように注意)。採血管内は陰圧になっているので指定量(2ml)の血液が採血管に入る。針を抜き、採血管を直ちに数回転倒混和して、抗凝固剤と血液を十分に混ぜる。泡立てないよう注意。採血管内に凝血塊が認められたら、採血からやり直す。採血管をMixerの上に置いて混和する。
10)引き続き、残りの血液を輸血用採血管に分注する。正確に約7 mlでなくてよい。採血管は血算用と同様に転倒混和してMixerの上に置く。
(図は「診療と検査の基本手技」 医学書院 より引用)
(参考)採血管に入っている抗凝固剤について
EDTA-2K:血球への影響が少なく、血算に最も適する。
ヘパリン:白血球や血小板の変形をきたし、血算には不適。生きた白血球を用いる検査用。
クエン酸Na:凝固検査に用いる。血液とクエン酸Naが9:1となるようにはいっている。
(2)自動血球計測機器による血球検査
手順:B棟3階緊急検査室へ行く。血算用採血管を学籍番号順に専用ラックに差し込み、機器にセットする。数分で自動的に計測され、結果がプリントアウトされる。採血管をラックから抜き取り、実習室に持ち帰る。
1)機械はWBCとRBCとは、大きさでは区別できないので、両者を合わせた数をRBC数として計測するが、RBC数≫WBC数であるため実際には問題にならない。血小板は細胞体積が小さいことで区別される。次に機械の中で溶血剤により検体中の赤血球が溶血処理される。再び血球数を計測することにより、WBC数が計測される。
2)臨床上起きうる問題点
@ 時に巨大血小板をRBCとして計測したり、破砕赤血球を血小板として計測してしまい、計測に誤りをもたらす。
(Q : どんな疾患?)これらが疑われるときは塗抹標本を検鏡してこれらの存在を確める。
A 血液中に多数の有核赤芽球が出現している検体(Q : どんな疾患?)ではWBCと赤芽球を合わせた数がWBC数として計測される。そのため、塗抹標本を検鏡して赤芽球の占める比率を調べ、計測されたWBC数を補正する。
3)学生実習でしばしば見られる“異常値”と、その考えられる原因
・血小板数の減少 → 採血に時間がかかり注射器の中で血小板が凝集。分注後の転倒混和が不十分なため、血小板が凝集。
→ 血小板の凝集塊がないか塗抹標本を検鏡して調べる。
・Ht高値 → 駆血帯を絞めたまま時間が経過してから採血した。
・白血球数の増多 → 採血に伴う強い緊張や疼痛によって一過性に増多することがある。
(3)血液塗抹標本(ライト染色) (参考)多くの病院では平日の日中には検査技師が作成するが、夜間・休日には医師が自ら標本を作成して検鏡することが要求される。
1)準備
各自の血算用検体の残り、毛細管1本、引きガラス1枚(使用後は血液をアルコール綿で拭き取り箱に戻す)、スライドグラス3枚(鉛筆で名前を記入しておく)。 塗沫標本を3枚作成し、良いもの2枚を染色し、うち良いもの1枚を検鏡する。実際に血液を載せる前に、塗沫の動作がスムーズにできるよう練習しておく。
2)塗抹標本の作製
採血管のふたを取り、毛細管を採血管の血液に浸け、毛細管現象で血液を吸い上げる。スライドグラスの端よりに、毛細管をコツコツと軽くたたきつけて、ごく少量の血液を載せる。引きガラス(小さいガラスが付いているほうが下)を用いて図のように塗抹する。塗抹が厚いと血球が重なりあって観察不能となるため、できるだけ薄く塗抹する。このためには、少なめに(1滴の1/3〜1/4程度)血液を載せ、ゆっくりと一定の速度で塗抹する。標本は直ちにスライドグラス立てに立て、扇風機の風でよく乾燥させる。
(図は「臨床血液学」医歯薬出版 より引用)
3)ライト染色
流しの染色台に塗抹標本を並べ、駒込ピペットでスライドグラス1枚につき約1mlのライト液を滴下し、約2分間放置。この間に固定される。次いで、約1mlのリン酸緩衝液 (pH 6.4) を分散して滴下し、ライト液とよく混和させる。ライト液と緩衝液がグラス上で分離してしまったら息を吹きかけて混和する。約6分間放置。竹ピンセットでスライドグラスを傾けて染色液を捨て、水道の流水を染色面の裏側に当ててスライドグラスを洗う。裏側の汚れを紙(キムワイプ)で拭き落とす。スライドグラス立てに立て扇風機の風で乾燥。
4)標本観察(検鏡)
注意: 油浸レンズ(白帯の対物レンズ)以外のレンズに油浸油がつかないよう注意する。レンズが曇って見えなくなる。油浸以外のレンズに油がついて曇ったら、脱脂綿の端に“油落とし液”を漬けて油を拭き取る。油浸レンズを使い終わったら、アルコール綿でレンズの油を軽く拭き取る。
まず弱拡(接眼レンズは10倍、対物10倍:黄色帯のレンズ)で標本全体を見て、観察に適した場所(RBCが重なりあわず、かつ、まばらすぎない場所)を探す。塗抹の引き終わりの手前あたりがよい。強拡(対物40倍:青帯)で観察する場所を選ぶ。必要に応じてスライドグラスに油をつけて、100倍油浸レンズ(白帯)で観察する。ステージを図のように動かして、順次視野に現われる白血球を分類して“正”の字を書いて記録する。壊れた細胞(裸核とよぶ)は数えない。通常は白血球を100個数えて百分率を求めるが、ここでは時間の都合上、30個程度でもよい。
実際の患者標本では、白血球百分率のほか、異常細胞の有無、赤血球の大小不同、奇形赤血球、好中球の形態異常、血小板凝集、巨大血小板の有無なども観察する。
5)種々の血液疾患患者の血液塗抹標本の検鏡
染色の待ち時間を用いて、種々の血液疾患患者の血液塗抹標本を弱拡、強拡(対物は青帯40倍、油浸は不要)で検鏡する。その血球形態の所見と、考えられる疾患を下の表に記載する。標本は健常人、鉄欠貧、再不貧、MDS、AML、ALL、CML、CLL、骨髄腫、骨髄線維症、ITP、本態性血小板血症などからなる。
白血球の分類のポイント
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核の形 |
クロマチン |
細胞質の顆粒 |
杆(桿)状核球 |
棒状 |
まだらに濃縮、粗大凝塊状 |
点状の細かい顆粒(淡褐色) |
分葉(節)核球 |
棒がくびれた形、2〜4分節 |
同上 |
同上 |
好酸球 |
同上 |
同上 |
オレンジ色の丸い粒が細胞質に充満 |
好塩基球 |
同上 |
同上 |
濃紺色のゴツゴツした顆粒 |
単球 |
腎臓の形、幅が広く複雑にくびれた形 |
網状、レース状、もやもやとしている |
灰青色の細胞質に微細なアズール顆粒あり |
リンパ球 |
円形〜楕円形に近い |
濃い 一面にべたっとしている |
澄んだ青色の細胞質に紫紅色のアズール顆粒が数個あり。顆粒のないものもある |
・好中球 = 杆状核球 + 分葉核球
・杆状核球 と分葉核球の区別:棒状の核の幅の1/3以下にくびれている部分があれば分葉核球とするという成書と、糸状にくびれているもの分葉核球とするという成書があり、厳密な区別はない。両者は移行するものなので、実際には問題にならない。
各自の血液の白血球百分率
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この欄に正の字を書く |
% |
杆状核球 (St or
Band) |
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分葉核球 (Seg) |
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好酸球 (Eosino) |
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好塩基球 (Baso) |
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単球 (Mono) |
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リンパ球 (Lym) |
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血液疾患患者の血液塗抹標本の観察
標本番号 |
血球形態の所見 |
考えられる疾患 |
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(4)まとめ
1)きょう行なった検査の意義や異常値が誤って生じる可能性について討論する。
2)EDTAによる偽血小板減少
実際には血小板数は正常であるにもかかわらず、採血管内のEDTAによって血小板が凝集してしまい、血小板数の計測値が低値を示す人がいる。こうした人が健康診断で血小板減少を指摘され、ITPを疑われて来院することがある。出血傾向はない。この現象は塗抹標本で血小板の凝集塊が認められることでわかる。こうした人ではクエン酸入り採血管を用いて再検すると、血小板数は正常値を示す。この現象は“病気”ではない。日常診療でしばしば遭遇する。
3)病棟で簡単に行なえる止血検査
出血時間(Duke法):観血的検査や手術の前の出血傾向のチェックや、血小板機能異常症などの診断の基本となる検査
(Q : 血小板数が正常でも出血時間が延長する疾患は?)
手順:
1)耳朶の下縁をしぼったアルコール綿で消毒し乾くのを待つ。
2)指で耳朶をつまんで固定し、ランセットで耳朶の下縁を真下から上に強くすばやく(ランセットの水平部分がめり込むくらいに)穿刺する。同時にストップウォッチ(おおまかな検査なので時計の秒針で可)を始動させる。
3)30秒毎に、しずく状に垂れてきた血液を下から濾紙であてがって吸い取る。濾紙で皮膚をこすってはいけない。初滴が1cm径くらいの出血が望ましいが、かなり強く刺さないと出ない。30秒待っても、十分に出血しない場合は穿刺部位を変えるか反対側の耳朶でやり直す。(健常人ではランセットで強く刺し過ぎて出血が止まらなくなることはない。)
4)血痕の径が約1mm以下になったら止血したと判定し、それまでの時間を記録する。 基準値 1〜5分
(図は「臨床血液検査」世界保健通信社より変更して引用)
(5) 参考図書: 臨床検査ガイド2005-2006 文光堂
これだけは知っておきたい検査のポイント 医学書院