(1)教育
学部教育では、講義、少人数セミナー、実習、施設見学を行っている。テーマは、衛生学、分子腫瘍学である。大学院では各学生は教室の研究テーマの中から1つあるいは2つを選んで研究を行う。学生は全員遺伝子工学、生化学実験、細胞培養等の技術を習う。毎週教室セミナーを開き、研究の進行状況を発表して討論するとともに、新着の雑誌から重要な論文を紹介する。
(2)研究
日本人の死亡原因の第一位は1981年以来癌(悪性新生物)である。このため、癌の原因解明・早期診断・根治療法の開発は急務である。癌は遺伝子の異常により起こる事がわかってきており、分子腫瘍医学教室では癌化機構の解明のため、最新のバイオテクノロジー技術を駆使している。
1.消化管の発生・分化、炎症と癌化との関連の解明
・胃癌は減ったとはいえ、日本やアジアに多い重要な癌である。従来、癌遺伝子・癌抑制遺伝子などが
解析されているが、胃癌の癌化機構はまだ解明されていない。従って、日本の研究者が緊急に解明す
べき重要な癌である。
・消化管では、H. pylori菌と胃癌、Barrett食道と食道腺癌など炎症に関連した癌が多い。また、炎症後
に腸上皮化生などの分化異常が多く起こる。
・近年、消化管の発生・分化過程が分子レベルで解明されつつあるので、ホメオボックスタンパク質な
ど消化管の発生・分化に関連した因子を、分化異常や癌で解析することにより全く新しい視点からの
解明が期待できる。
我々はすでにホメオボックスタンパク質の一つCDX2が、腸上皮化生発症と分化型胃癌に関与してい
ることを明らかにしている。
・トランスジェニックマウスの作成や最新の分子生物学的手法を用いて、分化とがん化機構の解明をめざしている。
2.DNAメチル化と発癌・老化との関連の解明
・近年、DNAメチル化を代表とするepigeneticな変化が報告され、癌化に重要なことが明らかになって
きた。患者の生活習慣をアンケート調査して、それとDNAメチル化との関連を解析することにより、
どの生活習慣要因がメチル化に関連しているかを明らかにする。次にその生活習慣を変えることによ
り、メチル化を軽減させ、ひいては癌化予防に応用できる可能性がある。
・胃癌はH. pylori菌感染と関連があるが、メチル化の頻度も高い。そこで、炎症過程においてメチル化
が誘導される機構を明らかにしたい。さらに、炎症とメチル化の関連がわかれば、炎症と癌化の関連
の解明も期待できる。
3.研究手法
1)核酸の解析
(i)組換えDNA実験技術全般
(ii)変異の検出:PCR-SSCP(polymerase chain reaction single strand
conformation polymorphism)法
シークェンシング
2)タンパク質
(i)特異抗体作製とウェスタンブロッティング法・免疫組織染色
(ii)タンパク質リン酸化のアッセイ
3)細胞培養
(i)DNAトランスフェクション法による癌化・レポーターアッセイ
(ii)EBウィルスによるリンパ球細胞株の樹立
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