コホート研究 「神奈川ひざスタディ」

研究代表者 関矢一郎
研究代表者 関矢一郎

拝啓 神奈川県の皆様におかれましてはますます御清栄のこととお慶び申し上げます。
 日本人変形性ひざ関節症MRI実態調査「神奈川ひざスタディ」の研究代表者を務める関矢と申します。このたび、私たち、国立大学法人 東京医科歯科大学は、県の協力を得て、貴県での調査研究の実施する運びとなりました。つきましては、私たちの再生医療に関する取り組みと「神奈川ひざスタディ」の概略についてご説明申しあげたく存じます。

 私たちは、傷ついたひざの半月板を幹細胞の力で修復させようという再生医療の研究に取り組んでいます。半月板はひざの上下の骨に挟まれた三日月型の軟骨で、ひざにかかる衝撃を吸収するクッションの役割を果たしています。この半月板が傷ついたり切れてしまったりすると、ひざが痛み、動かしにくくなります。半月板の断裂した部分を縫い合わせる手術もありますが、半月板の内側は血流が乏しく、こうした場所を縫い合わせてもくっつかないため、大半は傷ついた部分を切除する手術が行われます。しかし、半月板を広範囲に切除すると、上下の骨の先端を覆う軟骨が直接当たってすり減り、ひざが痛んで歩行などに支障が出る変形性ひざ関節症につながります。全国には、痛みの症状がある変形性ひざ関節症の患者は850万人、潜在的な患者数は2,500万人とも言われています。特に女性では、50歳代で50%、60歳代で60%、70歳代で70%と加齢に伴って罹患率が上昇することから、健康寿命を延ばすためには、変形性ひざ関節症を撲滅することが必要です。そこで、私たちは、従来であれば「くっつきにくい」と判断して切除してしまうような半月板を幹細胞の力を借りて修復を促す治療法を開発し、現在、国に薬としての承認を得るためのデータを集める治験(ちけん)を実施しています。
 また、私たちは、治療法だけでなく、変形性ひざ関節症の病状に大きく関係する軟骨・半月板の評価手法の開発も進めています。従来のレントゲン検査では、骨は映っても骨を覆う軟骨は映らなかったため、軟骨がすり減って骨と骨の隙間が狭くなった状態を確認することで、変形性ひざ関節症の診断をしていました。それに対して、MRI検査では、軟骨を写すことができます。また、レントゲン画像は1枚ですが、MRI画像は対象を薄い輪切りにした数十枚の画像を集めたものになります。しかし、これまでのMRI検査は医師が多くの輪切りの画像を見ながら、ひざの全体像を想像して診断するという高度な技術を必要とするものでした。そこで、私たちが企業の力を得て、輪切りにされた多くの画像をコンピュータ上で3次元の立体像を作るソフトウェアを開発しています。この技術により、これまでのレントゲン検査で調べることのできなかった早期の変形性ひざ関節症、すなわち『未病の見える化』が可能になると考えられます。
 けれども、どのような方が変形性ひざ関節症の『未病』の方であるかを判定するためのデータが不足しています。大学病院に通院される患者さんは既に症状がある方ばかりであるため、全国に何人くらい変形性関節症の症状を示している方がいるかを推定することができません。ひざに負担のかかる重労働についている方に発症率が高いことは推定できても、その他の年齢・性別・生活習慣との関連は全く不明です。そこで、30歳代から70歳までの各年齢、男女50名ずつのデスクワーク(一般事務)就業者500名を対象として、現在と1年後のMRI検査を中心とした調査を行う研究を計画しました。これが「神奈川ひざスタディ」です。
 このように「神奈川ひざスタディ」は、開発中の技術を使って3次元MRI画像を作成し解析する世界最先端の研究です。この目的のためには、3次元MRI画像のための最適な撮影条件を使う必要があり、最新性MRI装置を多く設置し、予約の取りやすい医療機関を確保する必要がありました。東京駅にある日本で最もMRI稼働台数が多い医療機関まで、ご足労をおかけすることになりますが、私たちは「未病の改善」にどこよりも早く取り組んでおられる神奈川県の皆さんとともに、次世代に、健康長寿の希望を伝えて行きたいと考えています。皆様の貴重なお時間を「神奈川ひざスタディ」への参加にいただくことができれば、誠に幸甚でございます。どうぞ、温かいご支援ご協力を賜りますようお願い申しあげます。

敬具

平成30年9月1日

国立大学法人  東京医科歯科大学
再生医療研究センター センター長
関矢一郎

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コホート研究
「神奈川ひざスタディ」
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