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研究紹介

研究テーマ

研究室で行っている研究のテーマは以下のように分類されます。これらは互いに関係しています。

1:細胞死・細胞増殖を制御するシグナル伝達系Hippo pathwayの解析と転写共役因子YAP1/TAZを標的とする薬剤の開発
2:腫瘍抑制分子RASSF蛋白が果たす細胞生理的、病態生理的機能の解析
3:骨格筋組織幹細胞の自己複製・分化制御の解析と、筋委縮治療薬の開発
4:哺乳動物におけるストレス顆粒の研究
5:老化促進モデル動物の作製

研究紹介用資料も参照してください。


研究内容

Hippo pathwayによる転写コアクチベーターYAP1とTAZの制御。YAP1とTAZはHippo pathway以外にも細胞骨格、機械刺激、細胞間結合裏打ち蛋白による制御も受ける。

Hippo pathwayは、二種類のセリン・スレオニンキナーゼ(mammalian Ste20-like (MST)キナーゼとlarge tumor suppressor(LATS)キナーゼ)からなるキナーゼカスケードで、細胞密度が上昇し細胞が飽和状態に達しcontact inhibitionが掛かるとき、あるいは、ROS、紫外線、放射線などにより細胞が傷害されるときに活性化する。Hippo pathwayが活性化すると、LATSキナーゼが転写コアクチベーターYAP1、TAZをリン酸化し、細胞核から細胞質への移行、蛋白分解を引き起こし、YAP1、TAZによる遺伝子転写を抑制する。最近の研究からは、YAP1とTAZはHippo pathway以外に細胞間結合裏打ち蛋白やアクチン細胞骨格による制御も受けることが明らかになっている。

転写コアクチベーターYAP1、TAZは、さまざまな転写医因子と共役して、個体発生における臓器形成や、成体における組織の維持にも重要な役割を果たしている。その一方で、YAP1、TAZの機能が、がんで亢進すると、悪性化を招き、臨床予後を不良にする。

TAZ、YAP1は、細胞周期促進的、細胞死阻害的遺伝子の転写を上昇させるので、Hippo pathwayの活性化は細胞増殖抑制、細胞死誘導を起こす。Hippo pathwayはDNA損傷時の修復に重要で、その機能不全はgenomic instabilityの原因になる。また、oncogenic stressによっても活性化し、癌遺伝子変異をもつ細胞の増殖、生存を阻害する。すなわち、腫瘍抑制シグナルとして機能する。Hippo pathwayの機能不全は、ヒト癌症例で高頻度に認められ、しかも、癌細胞にepithelial-mesenchymal transition(EMT)を起こし、転移・浸潤能を高め、予後の悪化を招く。したがって、癌におけるHippo pathwayの機能回復は、癌治療に重要な意味をもつ。Hippo pathwayによって制御されるTAZ、YAP1は様々な転写因子と共役するので、Hippo pathwayは癌以外のヒト疾病においても注目されている。Hippo pathwayは、ショウジョウバエの臓器サイズを決定するシグナル伝達系として発見されたが、哺乳動物でも圧負荷時の心筋肥大に関わる。TAZ、YAP1は炎症性サイトカイン、細胞間基質の遺伝子転写も促進するので、炎症性疾患や、組織線維症にも関係すると推定される。Hippo pathwayはWnt、Notch、Hedgehog、TGFβシグナルとクロストークして、組織幹細胞の自己複製・分化を制御する。YAP1は腸管や神経の組織幹細胞の維持に必要で、YAP1が正常に機能しないと、組織損傷時の修復が阻害される。TAZは、間葉系組織幹細胞のadipogenesisを抑制し、osteogenesisとmyogenesisを促進するので、肥満、骨粗しょう症、筋萎縮との関連でも注目される。
 すなわち、腫瘍抑制の視点からはHippo pathwayの活性を高く維持することが望ましいが、Hippo pathwayが過剰に機能すれば、臓器損傷時の障害が拡大し、骨形成や筋形成も阻害される可能性があり、細胞・組織文脈依存的に、個々の場面に応じた活性の適正な制御が、個体のホメオスタシスに重要と考えられる。

私たちは、いろいろなアセイ系を使って、YAP1とTAZの活性を直接に、あるいはHippo pathwayを介して間接に抑制ないし亢進する化合物を探索している。得られた候補化合物の標的を同定して、これまで知られていないYAP1、TAZの制御機構を解明しようとすると同時に、各種の疾患(がんのみならず組織線維症、筋萎縮、組織損傷)の治療に有用な薬剤を開発したいと考えている。

(1) 細胞死・細胞増殖を制御するシグナル伝達系Hippo pathwayの解析と転写共役因子YAP1/TAZを標的とする薬剤の開発

Hippo pathwayについての知見は、ノックアウトマウス、ノックダウン実験、野生型・変異型構成分子の過剰発現などを通じて得られているものがほとんどで、内在性の発現レベルを前提とした解析が進んでいない。Hippo pathwayを刺激、あるいは、抑制する試薬は、細胞・組織文脈依存的なHippo pathwayの生理機能の解明に不可欠である。そこで私たちは、細胞レベルのアセイ系を構築して、Hippo pathway、YAP1、TAZの活性に影響を与える化合物の探索を行っている。YAP1、TAZの活性を抑制する化合物からは、癌や組織線維症治療に有用な候補を、YAP1 、TAZの活性を亢進する化合物からは、筋萎縮予防や心筋虚血や皮膚損傷時に組織修復を促進する候補を絞り込み、治療的応用につなげようとしている。また、それぞれの化合物の分子標的を同定することにより、これまでに知られていないHippo pathway、YAP1、TAZの制御機構を解明しようとしている。

(2) 腫瘍抑制分子RASSF蛋白が果たす細胞生理的、病態生理的機能の解析

哺乳動物には全部で10個のRASSFがあり、そのうちRas結合ドメインがC末端寄りに位置する6個RASSF1-RASSF6は、ショウジョウバエのdRASSFの哺乳動物ホモログとみなされている。なかでもRASSF1Aは代表的な腫瘍抑制分子として良く知られている。ショウジョウバエの遺伝学的解析からdRASSFは、Hippo pathwayの構成分子であることが知られているが、哺乳動物でもRASSFは、哺乳動物のHippoホモログであるMSTキナーゼの活性に影響する。これらのRASSFは、ヒトがん症例でプロモーター領域のメチル化により発現が抑制され、発現の低いがんは発現が維持されているがんよりも悪性度が高く、再発しやすく、生命予後が悪い。したがって、RASSFの発現を回復させれば、がん治療成績の向上に貢献すると予測され、DNA脱メチル化剤が開発、研究されているが、それと別のカテゴリーとして、RASSFの発現が低下している状態で、RASSFが果たすべき機能を補填する薬剤も有用と予測される。私たちは、RASSFの中でもRASSF3とRASSF6を研究対象として、細胞にDNA損傷やoncogenic stressがかかる時に起こる細胞周期、細胞死の制御において果たす役割を解析している。これまでに、RASSF3、RASSF6はいずれもMDM2と相互作用し、DNA傷害などチェックポイントが働く場面では、MDM2の自己分解を高めることによってp53の発現量を上げ、G1/Sアレストや細胞死を起こすことを明らかにしているが、RASSF3やRASSF6にはp53非依存的に細胞死を誘導する機能もあり、その詳細は未解明である。私たちはRASSFの機能の全容を解明して、RASSFの発現が低い状態でその機能を補填して、DNA損傷時にDNA修復を促す、あるいは、DNA修復できない細胞を除去する方法を見つけようとしている。


(3)骨格筋組織幹細胞の自己複製分化制御の解析と、それに基づく筋萎縮治療薬の開発
加齢による筋萎縮は高齢者の活動性を奪い、転倒骨折の原因となる他、骨格筋は人体最大の代謝臓器であるため、糖代謝や脂質代謝に大きな影響を与え、様々な病態に関わる。急速な高齢化が進行している日本では、加齢性筋萎縮を大きな医療課題になっている。適切な栄養補充と運動による予防が、まず望まれるが、栄養補充のみでは十分な効果が得られず、一度、筋萎縮が生じて運動が行えない状態になると、廃用による萎縮が進行し悪循環に陥る。そこで筋量を増加させる薬剤が必要とされる。骨格筋のアナボリズムを高める薬剤(IGF-1、Androgen受容体アゴニストなど)やカタボリズムを抑える薬剤(myostatinのようなサイトカインに拮抗する薬剤)が試みられているが、加齢に伴い数が減少し機能が低下する骨格筋組織幹細胞を賦活化する薬剤の開発も望まれる。
 私たちは、上記に記述するTAZの活性化剤に骨格筋組織幹細胞を賦活化作用があることを確認し、生材研の影近教授との共同研究により、TAZ活性化剤から筋萎縮治療薬を開発しようとしている。この過程で、骨格筋幹組織幹細胞の自己複製と分化制御そのものにも関心をもち、筋分化をモニターする新しい細胞アセイ系を構築し、TAZ以外の治療標的を探索し筋萎縮治療薬の開発に役立てようとしている。

(4)哺乳動物細胞におけるストレス顆粒の研究
酵母は低栄養状態におかれると細胞質にRNA結合蛋白から構成されるストレス顆粒を形成し蛋白翻訳を停止する。哺乳動物細胞もストレスに曝露されるとストレス顆粒を形成し、必要不可欠なmRNA以外の不要不急な翻訳を停止する。すなわちストレス顆粒形成は、種を超えて保存されている、ストレスを生き延びるための方策と理解される。しかし、酵母が低栄養という比較的一般的なストレスでストレス顆粒を形成するのに比べ、哺乳動物細胞のストレス顆粒は亜ヒ酸処理など極端な刺激下で、はじめて観察されるため、哺乳動物細胞におけるストレス顆粒形成の生理的意義は不明な点が多い。私たちは、紫外線曝露によって形成される皮膚細胞のストレス顆粒、低酸素曝露によって形成されるがん細胞のストレス顆粒など、比較的、自然な条件で形成されるストレス顆粒を対象として、ストレス顆粒形成の生理的意義を解明しようとしている。また、老化に伴うストレス顆粒形成能の低下、組織幹細胞の維持におけるストレス顆粒形成の役割に関心をもっている。

(5)老化促進モデル動物の作製
老化は生理的現象であるが、著しい個人差がある。早くに老化する人もいれば、90歳を超えても元気に活動する人もいる。老化をいかに遅らせるかは、21世紀の医学研究の大きな課題である。私たちは、筋萎縮治療薬が加齢性筋萎縮治療に有効であるかを検証するため、老化マウスを使う必要に迫られている。通常のマウスでは老化に2年以上を要し、加齢が促進されるSAMマウスでもある程度の時間が必要となる。そこで、ヒト早老症をモデルとして、さらに老化が加速するマウスの作製を試みている。作製されるマウスは、筋萎縮治療薬の解析のみならず、ストレス顆粒形成と老化の関係など、広く老化の研究に使えると期待している。

私たちの研究室で行っている研究に関する和文、英文総説を掲載してあります。