日本ケミカルバイオロジー学会第4回年会は、2009年5月18日、19日の両日、神戸市産業振興センター(神戸市中央区東川崎町1-8-4 神戸ハーバーランド内)にて開催されました。

今回は、「日本ケミカルバイオロジー学会」として新たに出発した新学会の栄えある門出の開催として準備万端整えておりましたが、開催前々日に神戸にて突如、新型インフルエンザ発生の報道がなされ、一時は、拡大状況によっては中止もやむなしとの意見もありましたが、長野学会会長および鈴木年会実行委員長により協議し予定通り開催することを決定、その旨文部科学省担当官に説明し、拡大防止に万全を尽くすことで了解を得て開催することに致しました。

当日は欠席者が多数出ることを懸念しておりましたが、その数は47名にとどまり、279名(昨年、374名)の参加者にお越しいただき、無事に全発表を済ませることができました。開催中、会場内では感染拡大予防対策として参加者全員がマスクを着用するという窮屈かつ物々しい状況下でしたが、その甲斐あってか、閉会後これまで関係者の中から誰一人も感染者が出ず、安堵しているところであります。

本年会には、口頭発表35題とポスター発表103題の研究成果が発表・議論されました。発表比率(138演題/参加者279名)の高さから発表者の並々ならぬ意欲が伝わってまいります。本研究会の特徴として、理・医・薬・工・農の各専門分野から、新しい学際型複合領域としてのケミカルバイオロジー研究に熱い期待をもって若手研究者が多数参加し、とりわけポスター発表会場では、各自の研究領域を超えて熱い議論が交わされていました。

一日目の午前中のセッション終了時には、理化学研究所野依良治理事長にお越しいただき、新学会への昇格についてお祝いと、今後学会として継続してゆくことの責任の重さについてお言葉を頂きました。特別招待講演として、 Bengt Långström 先生(ウプサラ大学)に「Molecular Imaging- PET a tool for in vivo studies of functional system biology-status of today and where to go?」を、招待講演として楠本正一先生(サントリー生物有機科学研究所)に「有機化学が進めた自然免疫系の理解」、船津高志先生(東京大学)に「生体分子機能の1分子イメージング」、谷内一彦先生(東北大学)に「未来からのメッセージ:ポジトロンによる分子イメージング」、という演題でご講演いただきました。Bengt Långström 先生には、これまでPET研究をリードして来られたお立場から、PET分子イメージングの基礎から応用までを展望していただくとともに、日本人研究者と共同で行った代表的研究成果の触り、および日本における本分野に対する今後の期待についてお話し頂きました。楠本先生には、ご自身のご経験をもとに、自然免疫系におけるケミカルバイオロジー研究についてお話しいただきました。特に、ケミカルバイオロジー研究における、臨機応変な有機化学的手法の活用の重要性が熱く語られ、研究者の心を強く刺激する内容でした。船津先生には、1分子蛍光イメージングによる生体内分子のイメージングについて、また谷内先生には、臨床研究の立場からPETによる生体内分子イメージングについて最新の研究成果をご紹介頂きました。また、シンポジウム講演ではPETプローブの新合成法とケミカルバイオロジー研究への展開、ケミカルバイオロジー臨床研究への展開、およびマイクロドーズ臨床試験の活用に関する演題が続きました。

今回の年会では、分子イメージング研究に関連した幅広い演題を多く集め、ケミカルバイオロジー研究に分子イメージングを導入することによって、生体内における分子の挙動や機能をリアルに捉え、有用な分子や方法論をいち早く臨床研究へと進めることができる一気通貫型研究基盤が整いつつあることをご理解頂けるようなプログラムとして、年会長色を出させていただきました。ご参加頂いたケミカルバイオロジー研究者の多くの方に、自らのテーマの基礎から臨床応用までを展望頂けたのではないかと思います。

また、ポスター発表におきましては、発表者全員に、スライド1枚(1分間)で発表内容を説明していただくポスターブリーフィングのセッションを昨年に引き続き設けました。多くの研究成果のエッセンスが短時間で要領よく説明され、研究の要点が瞬時にイメージでき、実際に意図したポスターへと効率よく足が運べる点で参加者に好評だったようです。また、恒例となりましたポスター賞を設けましたが、いずれの発表もレベルが高く、3件に絞り込むことは容易ではありませんでしたが、次の3名の研究者にポスター賞が授与されました。

[ポスター賞受賞者] (敬称略、演題順)
高岡 洋輔 京都大学 大学院工学研究科
「赤血球内在性酵素の19Fラベルによる機能化」
山添 紗有美 京都大学 化学研究所
「細胞接着を促進するダンベル型小分子化合物アドヘサミンの発見と作用機序」
南 香莉 大阪大学 大学院理学研究科
「高速6π‐アザ電子環状反応を用いた細胞表層への化学的標識と糖鎖エンジニアリング:細胞のインビボイメージング」

最後に、多大なるご支援、ご高配を賜りました賛助企業の関係者の方々に厚く御礼申し上げます。

次回、第5回年会は2010年5月18日(火)、19日(水)の両日、慶應義塾大学 上村大輔先生のお世話により慶應義塾大学日吉キャンパス協生館藤原洋記念ホールにて開催されます。本年会以上の活発な発表・討論の行われる年会となりますよう祈念いたします。

理化学研究所
分子イメージング科学研究センター
第4回年会実行委員長 鈴木 正昭