日本ケミカルバイオロジー研究会第3回年会は、2008年5月19・20日の両日、学術総合センター(東京都千代田区一ツ橋2丁目1番2号)にて開催されました。年会二日目朝は、春の嵐のために電車の遅れが出たためにスケジュール調整が必要となりましたが、無事に全発表を済ませることができましたことをご報告いたします。

本年会には、374名の参加者にお越しいただき、口頭発表34題とポスター発表94題の研究成果が発表・議論されました。本研究会の特徴として、理・医・薬・工・農の各専門分野から新しい学際複合領域としてのケミカルバイオロジー研究に熱い期待をもって若手研究者が参加し、とりわけポスター発表会場では多くの企業研究者も参加して熱い議論が戦わされていました。2日間という限られた会期の中で一部の口頭発表ご希望者の方のご意向に沿うことができず、ポスター発表への変更を余儀なくされたことをお詫びいたします。

特別招待講演として、別府輝彦先生(日本大学大学院総合科学研究科・教授)に「生物学における化学的手法の意義−個人的な回顧と展望」を、国際シンポジウム招待講演としてMatthew D. Shair先生(Harvard University)と、北野宏明先生(特定非営利活動法人 システム・バイオロジー研究機構)に、それぞれ「Discovery of Two Small Molecules with Powerful Effects on the Function of the Golgi Apparatus」「A robustness-based approach to systems-oriented drug design」という題でご講演いただきました。別府先生には、ユニークな生命現象を化合物レベルで解明しようとする農芸化学の研究はケミカルバイオロジー研究の源流とも言えることを、先生ご自身のご経験を交えてお話しいただきました。特に、独創的な研究とは何かと示唆に富むお話は印象的でした。Shair先生には、天然物合成を出発点として生物機能の機能解明に至るケミカルバイオロジー研究の最新の研究成果をご紹介いただきました。有機合成化学者の立場から、細胞生物学的研究(ゴルジ体)への展開についてもお話しいただき、大変興味深い内容でした。北野先生には、生命システムの持つロバストネス(頑健性)について概説していただきました。特に、システムバイオロジーから見た抗がん剤、特に分子標的薬の問題点と今後の展望に関するお話は、ケミカルバイオロジー研究者の好奇心を刺激する興味深い内容でした。

また、本年会では、ポスター発表者全員に、スライド2枚程度で発表内容を説明していただくポスターブリーフィングのセッションを設けました。「次世代のケミカルバイオロジー研究を担う若手研究者の発表をまとめて聞くことができた」と、参加者に好評だったようです。また、昨年同様にポスター賞を授与しましたが、選考にあたった研究会世話人にとっても、発表者全員の発表を聞いて比較ができたことは良かったとのことです。いずれの発表もレベルが高く、3件に絞り込むことは容易ではありませんでしたが、次の3件にポスター賞が授与されました。加納さんは、昨年に引き続いての受賞となりました。

[ポスター賞受賞者] (敬称略)

リボザイムを用いた特殊骨格含有ペプチドのワンポット翻訳合成
○大内政輝、村上裕、菅裕明
東京大学大学院工学系研究科、東京大学先端科学技術調査センター

2-フェニルキノリン-ステロイドホルモンハイブリッド分子による標的タンパク選択的光分解と抗細胞活性
○津村加奈、鈴木あかね、続木武男、松村秀一、梅澤一夫、戸嶋一敦
慶應義塾大学理工学部応用化学科

セミインタクト細胞を用いた小胞体-ゴルジ体間小胞輸送アッセイの構築とその応用
○加納ふみ、安達淳博、村田昌之
東京大学大学院総合文化研究科 生命環境科学系、さきがけ JST

最後に、多大なるご支援・ご高配を賜りました賛助企業の関係者の方々に厚く御礼申し上げます。

次回、第4回年会は2009年5月18・19日の両日、理化学研究所 分子イメージング研究プログラムの鈴木正昭先生のお世話により神戸市産業振興センターにて開催されます。本年会以上の活発な発表・討論の行われる年会となりますよう祈念いたします。

理化学研究所基幹研究所(第3回年会実行委員長) 長田裕之