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安田研の目指すもの

20世紀後半より急速に発展したDNA解析を中心としたバイオインフォマティクスの流れは、さらにトランスクリプトーム、フィジオームへと精力的に展開が続いています。これらの研究は、生命現象を司る生体分子の機能はすべて先天的に情報として刷り込まれているというセントラル・ドグマを思想の根底に持って進んできました。これは言い換えると、ゲノムの持つアミノ酸配列のDNA情報は、一義的にたんぱく質のアミノ酸配列(一次構造)を決定し、このアミノ酸の一次構造はたんぱく質の機能を一義的に決定するというものです。したがって生命を理解するためには、これらのたんぱく質の存在量、相互作用を理解して、積み木のように得られた情報を組み上げてゆけばよいという考え方です。しかし、多細胞生物や細胞集団などの複雑な構成を持つ系では、全く同じ遺伝子を持ち、同じたんぱく質量を持つものであっても、後天的に環境や他の細胞から受けたヒステリシスによって異なる状態を持ちうることが、最近の再生医療の研究などを通じて明らかになってきました。

われわれは、このような従来のセントラル・ドグマの中にある情報を先天的情報(genetic information)と呼び、後者を細胞がそのシステムのネットワークに後天的に蓄えた情報という意味で後天的情報(epigenetic information:図1)と呼んでいます。そして、この両者が生命の情報において相補的役割を果たすと考えています。


図1 後天的情報

われわれの研究が目指している後天的情報を理解する研究は、たとえば、細胞が安定して機能を発現し、外界の変化に対して柔軟に情報を獲得する機構、あるいは逆に、外界の情報の変化に対して、細胞内部の情報を保持する機構を知ることであり、発生や臓器再生における組織の分化制御、脳組織の学習・記憶のメカニズム、免疫機構の機能安定性などの理解に大きな示唆を与えるものと期待しています。

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微細加工班

微細加工班

細胞が蓄えた後天的情報を解明する手法:オンチップ・セロミクス解析システム

実際に細胞レベルでの後天的情報を解析するために重要なのは、まず、細胞を起点とした研究手法を立ち上げることです。そのために、細胞を起点として、特定の状態の特定の細胞の内部状態を理解するための分子レベルへの理解に向けた上流への理解と、細胞集団の相互作用,環境との相互作用を人為的に(構成的に)制御してその意味を探る、細胞集団+環境レベルの理解に向けた下流への理解を実現するための一連の手法「オンチップ・セロミクス解析技術」を開発しました。ここでは下記3つの要素技術を実現しています。

1.  初代培養の細胞、あるいは正常な細胞周期、細胞間相互作用を持った細胞株を用いる技術

2.  細胞のコミュニティ(集団)サイズや異種細胞の空間配置を自在に制御できる細胞培養技術(組織モデルを実現できる時空間配置を持った細胞培養を行う)

3.  1細胞単位での細胞内状態のスクリーニング技術(1細胞発現解析)。

具体的には、例えば、欲しい細胞を選択的に精製するオンチップセルソーター、細胞集団を構成的に作ることができるオンチップ1細胞培養装置、細胞集団の中の各細胞の状態を時空間分布データとしてモニターできる1細胞発現解析装置等の開発という形で、マイクロ加工技術を用いることで世界に一つしか無いシステムが研究室内で実現しつつあります。たとえば、微細加工技術によってチップ上に作ったマイクロ流路を用いれば、ここに形成された層流中で、透明なチップ内を流れる細胞を顕微画像観察して1個ずつ分離精製することで、培養に用いる精製細胞を1個単位で抽出することができます。同様に、アガロースを微細加工することによって細胞の配置や細胞同士の相互作用を制御できるような3次元構造を持ったチップを作ることで、構成的に1細胞単位で異種細胞を配置して組織モデルを作ることも可能となっています。さらにこれらの培養チップ中に電極などを組み込むことで、培養中に心筋細胞や神経細胞ネットワークを1細胞単位で刺激したり、各細胞の応答を計測することもできるようになっています。


図2 オンチップ・セロミクス解析システム

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多細胞班

多細胞班

心筋培養細胞ネットワークの拍動同期化ダイナミクス解析

細胞ネットワークの構成的培養の一例として、心筋細胞の拍動リズムが集団化することでどのように同期化するのか、そのダイナミクスの解明を目指しています。ここで着目したのは 1.  ネットワークを構成する細胞が、どのように情報を共有化してゆくのか、そのダイナミクスを明らかにすること、2.  情報を共有化した細胞集団のサイズの大きさの違いによって、安定した拍動はどの程度、外界からのノイズに対して自己のリズムを保持できるかという集団内に保持される後天的情報の伝達と安定性の理解を試みています。

われわれは、このような細胞集団の空間配置を自在に制御するマイクロ加工技術としてスライドガラス上に載せた厚さ数十ミクロンのアガロース層を加熱することで微細な立体パターンをその層中に形成する技術を新たに開発し用いました。図3は独立して個別の周期で拍動している2個の心筋培養細胞が同期化するダイナミクスの一 例です。これからもわかるように、2つの細胞の拍動周期の同期化は、安定して拍動し続ける1細胞に、他方の細胞が一旦拍動を停止して、その後に追従してゆくのが観察されます。同様に、細胞のネットワークサイズを大きくしてゆき、この細胞集団の安定性を計測することも可能になりつつあります。


図3 心筋2細胞の拍動同期ダイナミクス

神経細胞ネットワークの空間パターン依存性を持った刺激応答解析

アガロース細胞培養技術を多電極アレイと組み合わせれば、1細胞レベルで神経細胞ネットワークを培養中に段階的にパターン制御したり、さらには電極刺激、計測を確実に特定の細胞で計測し続けることが可能となりつつあります。


図4 神経細胞ネットワークの刺激応答計測

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一細胞班

一細胞班

同一の先天的情報を持つ細胞の変動を理解するため、また、細胞の適応過程を観察するためには、ある細胞の姉妹細胞およびそれらの子孫細胞を直接比較する必要があります(図5)。


図5 1細胞解析の目的

これを実現するために、我々は、オンチップ1細胞培養装置を開発しました。この系では、微細加工で形成したマイクロサイズの部屋(マイクロチャンバ)に、細胞を配置して培養し、分裂により生じた過剰な細胞を、非接触力を発生する光ピンセットを用いて排除し、特定の1細胞を観察し続けることができます(図6)。また、培地を灌流しているので、細胞に対して、常に均一で新鮮な栄養を供給できますし、段階的な栄養条件の変化および生化学的刺激を経験させることができます。つまり、細胞周囲の環境条件を自由に制御することが可能です。


図6 マイクロチャンバ内での1細胞培養

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