細胞が蓄えた後天的情報を解明する手法:オンチップ・セロミクス解析システム
実際に細胞レベルでの後天的情報を解析するために重要なのは、まず、細胞を起点とした研究手法を立ち上げることです。そのために、細胞を起点として、特定の状態の特定の細胞の内部状態を理解するための分子レベルへの理解に向けた上流への理解と、細胞集団の相互作用,環境との相互作用を人為的に(構成的に)制御してその意味を探る、細胞集団+環境レベルの理解に向けた下流への理解を実現するための一連の手法「オンチップ・セロミクス解析技術」を開発しました。ここでは下記3つの要素技術を実現しています。
1. 初代培養の細胞、あるいは正常な細胞周期、細胞間相互作用を持った細胞株を用いる技術
2. 細胞のコミュニティ(集団)サイズや異種細胞の空間配置を自在に制御できる細胞培養技術(組織モデルを実現できる時空間配置を持った細胞培養を行う)
3. 1細胞単位での細胞内状態のスクリーニング技術(1細胞発現解析)。
具体的には、例えば、欲しい細胞を選択的に精製するオンチップセルソーター、細胞集団を構成的に作ることができるオンチップ1細胞培養装置、細胞集団の中の各細胞の状態を時空間分布データとしてモニターできる1細胞発現解析装置等の開発という形で、マイクロ加工技術を用いることで世界に一つしか無いシステムが研究室内で実現しつつあります。たとえば、微細加工技術によってチップ上に作ったマイクロ流路を用いれば、ここに形成された層流中で、透明なチップ内を流れる細胞を顕微画像観察して1個ずつ分離精製することで、培養に用いる精製細胞を1個単位で抽出することができます。同様に、アガロースを微細加工することによって細胞の配置や細胞同士の相互作用を制御できるような3次元構造を持ったチップを作ることで、構成的に1細胞単位で異種細胞を配置して組織モデルを作ることも可能となっています。さらにこれらの培養チップ中に電極などを組み込むことで、培養中に心筋細胞や神経細胞ネットワークを1細胞単位で刺激したり、各細胞の応答を計測することもできるようになっています。