東京医科歯科大学老年病内科(大学院血流制御内科)

 糖尿病とは?

東京医科歯科大学糖尿病を知って上手に付き合 

東京医科歯科大学老年病内科 川上明夫

 

糖は人間が生きていくうえで欠かせない栄養素です.食事より摂取された炭水化物は消化されて糖となり吸収されます.血液中の糖は必要に応じて体中の臓器に取り込まれ利用されます.余分な糖は筋肉や肝臓で主にグリコーゲンとして貯蔵されます.臓器への取り込みや貯蔵を微妙に調整するのがインスリンというホルモンです.このインスリンの量が不足したり,量は十分あってもうまく働かなかったりすると血糖が上昇し糖尿病になります.

 

発症のメカニズム

発症のメカニズムは様々で,特に日本人に最も多い2型糖尿病の原因はまだ完全には解明されていません.ただ糖尿病になりやすい遺伝素因(体質)のある人が過食・運動不足・肥満になると発症しやすいといわれています.1型糖尿病はインスリンを分泌する膵臓にウイルス感染などを引き金として免疫異常が起き,インスリンを分泌するβ細胞が破壊された結果インスリンが枯渇することにより起きます.そのほか原因のある程度わかっているものとしては悪性腫瘍,感染症,ステロイドなどの薬物,インスリンの作用がうまく伝わらない特殊な遺伝性の疾患などが挙げられます(表1). 

 

2型糖尿病

現在,日本全国で糖尿病患者は約700万人(予備軍も含めれば1200万人)いると言われています.40歳以上では10人に一人が糖尿病という割合です.このうち8割以上占めるのが2型糖尿病です.これは1型糖尿病,その他の糖尿病,妊娠糖尿病と違って明らかな原因は不明ですがインスリンの作用不足・分泌低下が関係していると考えられています.生活習慣の変化によって患者はどんどん増えつつあり,高血圧や肥満症や高脂血症と並んで生活習慣病と呼ばれています.過食・運動不足・肥満になるとインスリンが効きにくくなり(インスリンの作用不足)徐々に血糖が上昇します.最初はβ細胞が反応しインスリンの分泌が増え代償しますがさらに血糖が上がると今度はその高血糖がインスリンの作用をさらに鈍らせたりインスリンの分泌を阻害したりします(インスリンの分泌低下).日本人は欧米人に比べてインスリンの分泌低下が起きやすいといわれています.こうなるとインスリン分泌が代償できなくなり糖尿病が発症します. 

 

症状と合併症

糖尿病は単に患者数が多いだけでなくその合併症の多さ・重篤さでも特筆すべきものがあります.ただ糖尿病あるいはその疑いがあると分かっていても精密検査・治療を受けない方がたくさんいるのも事実です.まず血糖の高い状態はどのようなことを体に引き起こすかを見てみましょう(表2).血糖が上昇すると血漿浸透圧が上昇し,のどの渇きが生じます.また尿に糖が排泄されるようになりその際,水分も排泄されやすくなり尿量が多くなります(尿の回数の増加).それらに伴い大量の水分を摂取するようになります.こういった症状により糖尿病と診断されることが多いわけですが,患者さんによっては症状が軽く健診で初めて発見される例も多く認められます.もともと血糖の高い患者さんが薬の飲み忘れ,インスリンの打ち忘れ,かぜ,下痢などで血糖がさらに急激に上昇するとケトアシドーシス(体に有害なケトンという物質がたまる)や,ひどい脱水を起こしやすくなります.最悪の場合,糖尿病昏睡を起こすこともあります.また糖尿病の患者さんは体の抵抗力が落ち,感染症にかかりやすいことが知られています.肺結核もまれではありません.

 

また慢性的な高血糖が十数年にわたり続くと以下の全身の血管を中心としたさまざまな合併症が起きて来ます.

糖尿病性網膜症

最初は全く症状はありませんが,進行してくると眼底出血や網膜剥離を起こし視力障害を起こします.成人の失明原因のナンバーワンと言われています.また網膜ではありませんが緑内障や白内障を起こしやすいということも知られておりいずれにしても視力が低下する原因になります.

糖尿性腎症

これも最初は全く症状はありません.検尿で蛋白が陽性になる程度です.進行してくると腎不全,ネフローゼ状態となりさらには血液透析が必要な状態になってしまいます.最近では透析の原因疾患の第一位が糖尿病といわれています.

糖尿病性神経障害

これまた最初は無症状であることが多く特別な検査で初めて分かることが多いです.進行してくると主に知覚・痛覚障害,しびれ感,痛みが出現します.自律神経障害(不整脈・便秘・下痢・起立性低血圧・膀胱障害・勃起障害)もしばしば出現し程度によっては日常生活が著しく損なわれてしまいます.

動脈硬化症

糖尿病では動脈硬化症の進行が早く若いうちから(30歳台),脳梗塞・心筋梗塞・閉塞性動脈硬化症が起こることが知られています.脳梗塞はまず多発性に小さな梗塞が起こることが多く最初は気付かれませんがさらに中等度〜高度の脳梗塞が再発すると運動麻痺・痴呆などを来たし寝たきりの原因となります.心筋梗塞を起こしてもしばしば無症状で突然心不全,不整脈(による突然死)で発見されることもあります.

壊疽

神経障害と下肢閉塞性動脈硬化症が加わると足の壊疽が起こりやすくなります.やけど・深爪・靴ずれ・胼胝の切除でも簡単に壊疽になってしまいます.痛覚障害があると傷が出来やすくなり発見が遅れがちです. 

 

最近の話題

糖尿病の原因・病態が徐々に明らかになるにつれ糖尿病が原因・病気の進行具合で分類されるようになりました.また糖尿病の診断基準も改定され,以前より糖尿病状態といえる数値(血糖値)が引き下げられました(表3).これは癌と同じように糖尿病も早期発見が重要で,かつ原因・病態に応じた治療が望ましいからです.治療に使われる経口血糖降下薬も徐々に増え病態に応じた選択ができるようになりました.インスリンについても超即効型インスリンが発売され初期の糖尿病例,食後の血糖上昇が著しい例,小児・高齢者などで食事量が変動しやすい例に効果が期待されています.また注射器・注射針・自己血糖測定の用具も改善され目の不自由な方,手の力の弱い方でもより簡単により痛みが少なく血糖を測ったり,注射をしたりすることができるようになっています.また最近では比較的早期にインスリンを開始し十分な血糖コントロールの後,食事・運動療法や経口血糖降下薬に切り替えるといった治療法が広まりつつあり効果を挙げています.“一生インスリンを打ちたくなければむしろ早めにインスリンを使え”といわれるようになりつつあります.ただどんなに医学が進歩しても食事・運動療法が第一選択なのは今でも変わりありません. 

 

まとめ

このように糖尿病は多種多彩な病気,症状を引き起こします.また一人の患者さんがいくつもの合併症に同時に苦しめられることもまれではありません.糖尿病は万病の元と言っても言い過ぎではありません.糖尿病は糖が高い・低い,尿に糖が出る・出ない,の病気ではありません.合併症が怖い病気なのです.ここで皆さんに知っておいていただきたいことは,糖尿病においては症状がない・軽いことと病気が無い・軽いこととは同じではないということです.なぜなら糖尿病あるいはその合併症ははじめのうちは全く症状が出ないあるいは軽いことが多いからです.従ってこうした合併症が出かかっている時も全く気付かず,あるいは主治医から指摘されても特に辛くないためつい放っておきがちです.逆に症状が出たときは相当進行している可能性があります.一般に合併症は10年20年かかって徐々に進行します.従って若いうちは糖尿病が悪くてもなんにも症状がないため放っておくと,だんだん年をとってこれから第2の人生というときそれが合併症のせいで台無しになってしまうかもしれません.従って糖尿病の患者さんは将来,合併症に苦しまないために症状があってもなくても早いうちから良好な血糖コントロールを目指す必要があります.また合併症がすでに出ている患者さんでもこれ以上その合併症が進行しないために,あるいはほかの合併症に苦しまないためにも血糖コントロールは重要です.

 

1 糖尿病の成因分類

I.1型(β細胞の破壊,通常は絶対的インスリン欠乏に至る)

A.自己免疫性

B.特発性

II.2型(インスリン分泌低下を主体とするものと,インスリン抵抗性が主体で,それにインスリンの相対的不足を伴うものなどがある)

III.その他の特定の機序,疾患によるもの

A.遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの

(1)     β細胞機能にかかわる遺伝子異常

(2)     インスリン作用の伝達機構にかかわる遺伝子異常

B.他の疾患,条件に伴うもの

(1)     膵外分泌疾患

(2)     内分泌疾患

(3)     肝疾患

(4)     薬剤や化学物質によるもの

(5)     感染症

(6)     免疫機序によるまれな病態

(7)     その他の遺伝的症候群で糖尿病を伴うことの多いもの

IV.妊娠糖尿病

2 糖尿病の合併症

糖尿病合併症にはインスリン作用不足が高度になって起こる急性の合併症と、長年にわたる慢性の高血糖の結果起こる慢性合併症がある.

I. 急性合併症

A.糖尿病昏睡

(1) ケトアシドーシス昏睡

(2) 高血糖性高浸透圧性昏睡

B.急性感染症

  肺結核、尿路感染症、皮膚感染症など

II.慢性合併症

A.糖尿病網膜症

B.糖尿病腎症

C.糖尿病神経障害

D.動脈硬化症

(1) 心筋梗塞

(2) 脳梗塞

(3) 下肢動脈閉塞症

E.壊疽

 

3 糖尿病の診断

家族歴、肥満歴、妊娠・出産時の異常(巨大児など)、症状(口渇・多飲・多尿・体重減少など)より糖尿病を疑った際、早朝空腹時血糖測定ないし75g糖負荷試験(OGTT)を行う。

空腹時血糖値および75g糖負荷試験(OGTT)2時間値の判定基準 (数字は静脈血漿値,mg/dl)

 

正常域

糖尿病域

空腹時値
75gOGTT 2時間値

110

140

126

200

75gOGTTの判定

両者をみたすものを正常型とする.

いずれかをみたすものを糖尿病型とする.

正常型にも糖尿病型にも属さないものを 境界型とする.

 

随時血糖値≧200mg/dl(≧11.1mmol/l)の場合も糖尿病型とみなす.

正常型であっても,1時間値が180mg/dl(10.0mmol/l)以上の場合は,

180mg/dl未満のものに比べて糖尿病に悪化する危険が高いので,境界型に

準じた取り扱い(経過観察など)が必要である.

 

持続的に糖尿病型を示すもの(2回以上)を糖尿病と診断する.糖尿病型を示し,かつ次のいずれかの条件がみたされた場合は,1回だけの検査でも糖尿病と診断できる.

(1)     糖尿病の典型的症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)の存在

(2)     HbA1c≧6.5%

(3)     確実な糖尿病網膜症の存在

境界型は糖尿病型に移行する率が高く、糖尿病特有の合併症は少ないが、動脈硬化症の危険は正常型よりも大きい.

 

(日本糖尿病学会糖尿病治療ガイドより改変)

 

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