研究室案内 研究内容

2)関節リウマチの炎症増幅抑制療法の開発

前にご紹介した通り、現在の抗サイトカイン療法は、TNFαやIL-6などの単一のサイトカインをしっかりと抑制する一方で、患者さんの感染に対する免疫力を低下させてしまいます。 そのため、私たちは、Triggering receptor expressed on myeloid cells (TREM)-1と呼ばれる分子に注目しました。

TREM-1(トレム・ワン)とは?

   TREM-1は免疫グロブリンスーパーファミリーに属する受容体で、マクロファージ、好中球などに発現しています。マクロファージは、活性化するとTNFαやIL -1など、関節リウマチ滑膜で炎症にかかわるサイトカインを大量に産生します。 しかし、その際に、TREM-1が刺激されているとその産生が飛躍的に増大するのです。つまり、TREM-1は炎症を増幅する役割を果たします。

膠原病ではありませんが、敗血症という病気があります。これは、重症の細菌感染症とこれに伴う強い炎症反応が患者さんを死に至らしめる病気です。敗血症モデル動物では、TNFαを阻害すると、当然のように感染防御能がなくなってしまい動物は早く死んでしまいます。 しかし、炎症増幅役のTREM-1を阻害すると、強い炎症反応は抑えられ、細菌を排除する程度の炎症性サイトカインの産生は維持されるので、むしろ生存率が向上しました。 患者さんの免疫力を弱らせないで炎症を抑えるというのは今までにない画期的な治療です。 私たちは、TREM-1阻害で、関節リウマチを治療でないかと考えました。

関節リウマチ滑膜でのTREM-1発現

   しかしながら、関節リウマチ患者さんの滑膜マクロファージにTREM-1が発現していなければ治療となりません。 そこで、患者さんから得た滑膜でのTREM-1発現を解析したところ、滑膜マクロファージがTREM-1を発現していました。 この滑膜細胞は少量のTNFαを産生していましたが、滑膜細胞上のTREM-1を刺激するとTNFαの産生が高まりました。 つまり、機能的なTREM-1が発現していることを示します。さらに関節リウマチのモデル動物であるコラーゲン誘発性関節炎の滑膜組織にも、TREM-1陽性細胞がありました(図1)。この結果は、滑膜マクロファージのTREM-1が関節リウマチなどの関節炎を制御している可能性を示していました。 

コラーゲン誘導関節炎の滑膜におけるTREM-1の発現

図1 コラーゲン誘導関節炎の滑膜におけるTREM-1の発現
茶色のマクロファージがTREM-1を発現している。

関節リウマチ動物モデルの炎症増幅抑制療法

   TREM-1発現が関節炎の病態に関与しているかを検討するために、 TREM-1の細胞外ドメインにIgG-Fc部分を融合させた遺伝子を発現するアデノウイルスベクター (AxCA-TREM-1-Ig) を作製しました。 この遺伝子治療用ウイルスは、TREM-1を阻害することができるTREM-1-Igタンパクを産生します。 関節リウマチモデルであるコラーゲン誘導性関節炎を発症させた後、このウイルスで遺伝子治療すると、関節炎スコアが著しく抑制されました(図2)。

コラーゲン誘導関節炎のTREM-1阻害療法の結果

図2 コラーゲン誘導関節炎のTREM-1阻害療法の結果
左:組織学的所見。上の対照群(LacZ)に認められる炎症が、治療群(TREM-1Ig)では抑制されている。
右:組織学的所見をスコア化して対照群と治療群の差をみたもの。統計学的に有意な差がある。

私たちは、TREM-1は感染症のみならず、関節リウマチの病態形成に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。 TREM-1阻害のためのウイルスベクターによる遺伝子治療は動物実験で有効でしたが、そのまま患者さんに応用できるわけでは、ありません。 現在、この発見をもとにして、新たな関節リウマチ治療ができないかを模索しています。

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