ゲスト講師による医療政策講義7:「製薬企業におけるEBM」
エーザイ株式会社医療ベネフィット部 中島守氏、水巻津花氏
講義のポイント
T.製薬企業の現状(中島氏)
(1)薬とは
○歴史、医療用医薬品と一般用医薬品
・現在用いている薬剤の25%が1950年以前のもの.
・売上7兆円の内訳 〜 医薬用5.5兆円(80%),一般用1.5兆円(20%)
○日本、米国、世界の薬のランキング(1999年)
・上位10位以内の薬剤に共通の特徴
@10年以内に発売
Aメガトライアルによる
・構成比の変遷(疾病構造の変化による)
1989年:1位 抗生剤,2位 循環器官用,3位 消化器官用
現在:1位 循環器官用,2位 消化器官用,3位 抗生剤
(2)薬と情報
○生命関連物質
・光と影
・サリドマイド事件(1961年)
○情報
・有効性,安全性,経済性,品質
(3)薬の開発
○プロセス、PMS、治験の空洞化
・PMS(市販後調査)は原則6年.
・この10年間で開発リードタイムが短縮化していないのは,電力・ガス・原子力と医薬品のみ.(経団連「産業技術力強化のための実態調査」(1998年)より)← 原因:治験の空洞化
○ハイリスク、ハイリターン
・日本における新薬開発の成功率:1/9,663※(承認取得(自社開発の場合))
※資料:日本製薬工業協会 会員17社(1994〜98)の例
(4)製薬企業
○数、市場推移、メーカーシェアランク、新製品
・日本企業:433社(1983年)→463社(1997年)
・欧米ではM&Aにより企業数が減少.
・100億円超規模商品 〜 発売後10ヶ月で達成 :ニューロタン(萬有),セルタ(武田),ブロブレス(武田)
○世界の製薬企業、R&D
・研究開発費(10社平均)の比較(1998年):日本:386億円,米国:1,721億円
・研究開発費は実績とパラレル ← ゲノムの時代
(5)日本の企業の課題
○研究開発
<課題>
@グローバルな商品開発
A増大する開発費
Bゲノムへの対応 等
<対応>
@Critical Massの確保
Aフランチャイズ
B資金・人材の確保 等
○国際展開
@グローバルプロダクトの確保
Aパイプラインの充実
B早期許可取得
C全世界同時開発 等
U.EBMとは(水巻氏)
(1)EBMの定義
現在ある最も信頼できる根拠(エビデンス)に基づいて+個々の患者に最適な診療を行うこと
「信頼できる証拠に基づいて理に適った診療を行うこと(福井次矢)」
(2)EBMの歴史
<英国3人衆>
・David Sakett(カナダ,マクマスター大学)
・Muir Gray(NHS)
・Iain Calmer(コクラン共同ネットワークの英国責任者)
(3)これまでの医療とEBMの情報源のちがい
(4)いまなぜEBMか
○ニーズ
@大規模臨床試験等による新たな根拠の出現
A患者の医療に対する期待
○ツール
・臨床現場の情報収集をITが解決できる
(5)エビデンスのレベル分類
○1993年AHCPR(現AHQR)による分類
○情報源(下へ向かうほど扱いが難しくなる)
・添付文書,インタビューフォーム,教科書,MRからの情報
・Clinical Evidence
・Best Evidence
・Cochrane Library
・Medline
○原著文献のチェックポイント
@研究デザインは?
A患者の背景は?
Bランダムに割り付けられた患者すべてについて解析しているか?
C真のエンドポイントによって評価しているか?
*これからの評価方法には、患者・家族のQOLなどの考慮が必要.
(6)EBMのキーワード
○RCT
・RCTの数の比較 ●米国:1,500(1986年)→5,000弱(1994年)●日本:横ばい 100位?
○メタアナリシス(Meta-analysis)
○コクラン共同計画
@テクノロジーアセスメントのプロジェクト
ARCT
Bインターネット,CD-ROM
CJANCOC
(7)EBMの実践・5つのステップ
(平成11年3月 厚生省医療技術評価推進検討会報告書より)
@目の前の患者に関して臨床上の疑問点を抽出する
A疑問点に関する文献を検索する
B得られた文献の妥当性を自分自身で評価する
C文献の結果を目の前の患者に適用する
D自らの医療を評価する
(8)アルツハイマー型痴呆の治療におけるEBMの実践
Patient:アルツハイマー型痴呆と診断された70歳女性 に対して
Exposure:薬物療法を行う
Outcome:認知機能障害が改善するか(病気が治るか×)
(9)EBMを円滑に実施する全体の流れ
科学的根拠の作成 〜「つくる」
科学的根拠の収集・評価・提供 〜「つたえる」
科学的根拠の医療現場での活用 〜「つかう」
(10)EBMの最近の動向(国内・海外)
○国内
@EBM治療ガイドラインの作成開始〜12疾患(既に3疾患は完成)
「Clinical Evidence」日本語版発刊予定(平成13年)(英語版:平成11年6月より南江堂から発売)
A「EBMジャーナル」の発刊
B医療現場での取り組み 〜聖路加、自治医大等でワークショップ
○英国
・国民へのEBMの理解
・患者向けの「Clinical Evidence」来年発刊予定
○米国
・診療ガイドライン作成中断(19疾患が完成)← 利益団体からの反発,労力・費用がかさむ
(11)「いつでも、どこでも、だれでも、どんな患者さんにも行えるEBM」(国立医療・病院管理研究所 長谷川敏彦)
V.製薬企業のEBMへの取り組み(水巻氏)
(1)エビデンスをつくる
○新薬の研究開発
・新GCP(1997年)に即した試験
・EBMを基本としたプロトコール=解析計画をあらかじめ設定/客観性・定量性評価/真のエンドポイント/有害事象をそのままに記録・保存
○市販後臨床試験
○日本の臨床試験の問題点と取り組み
@治験の空洞化
対応策:CRC(Clinical Research Coordinator)
インターネットによる呼びかけ/患者の利益/ブリッジング(海外のデータを用いる)
ARCTの実施 → プラセボをおくこと等が患者の不利益となる
薬剤性反応性調査:レスポンダーのみを集めて試験
個のデータ,個別性
‘RCTと観察研究’(N Engl J Med,2000.June.22)
(2)エビデンスをつたえる
○多面的な情報提供
・副作用情報
・治療群での改善率
・NNT,ARRなど
*患者に伝えるかどうかは医療者の判断
○安全性情報の提供
・有害事象
・層別発生頻度
・SBA(Summary Basis of Approval) 新薬製造承認申請資料
・インターネット上での情報提供:HON(Health On the Net Foundation)
○さらなる情報公開
W.まとめ〜21世紀に向かって
@ゲノム戦略の進展
Aテーラーメイド医療
B医療の個別性とEBM