診療科について

これまでの伝統を堅持しさらに新しい糖尿病・内分泌・代謝学の創生に寄与できるよう努力して参ります。

平成30年4月1日付けで分子内分泌代謝学分野教授(医学部附属病院 糖尿病・内分泌・代謝内科 科長)を拝命致しました。就任に際しまして、一言ご挨拶申し上げます。

人体は、約60兆個、270種類以上の細胞によって形成されていると言われています。そして、種々の細胞は多様な組み合わせよって臓器を形成しています。個体の恒常性(体の健康)は、このような様々な臓器が協調して機能すること、すなわち臓器間ネットワークの働きによって維持されている訳ですが、その為には内分泌・代謝系と呼ばれるネットワークの統御機構の働きが不可欠です。
内分泌学は、古典的な「内分泌器官」に由来するホルモンのみならず、心血管組織、脂肪組織あるいは消化管などの全身臓器から産生される多くの生理活性物質が全身の臓器に及ぼす影響を解き明かしてきました。
代謝学も、様々な臓器が協調して機能することで個体の恒常性維持に寄与していることを明らかにする学問とも言えます。 臓器は、構成要素である細胞が糖質、脂質、蛋白質などの栄養素をエネルギー源として活用し機能していますが、閉鎖空間である個体において利用できるエネルギー量は有限であり、個体レベルでエネルギー代謝調節が適切になされることが、個々の臓器ひいては細胞が円滑に機能する為に重要です。
その調節に、臓器間ネットワークが必須の役割を担っていることが示されてきました。古くは、クロード・ベルナール(実験医学序説の著者)が、個体レベルの糖代謝調節が神経支配のもとにあることを示唆しましたが、その後、インスリンやグルカゴンなどホルモンの発見が相次ぎ、臓器間ネットワークの研究は内分泌系において飛躍的に進展しました。
一方、我々の研究成果を含め、近年の研究の進歩により、代謝学においても臓器間ネットワークの役割が再認識され、その重要性は下記に述べるような社会的背景からも益々増してきているものと思われます。

ご承知のように、我が国は未曾有の高齢社会を迎えつつありますが、それに伴い糖尿病患者数も1000万人を超えてきております。また、70歳以上の国民の30%超が糖尿病もしくはその予備群であることも明らかとなっています。さらに、過食や運動不足による肥満症の増加も看過できない社会問題となっています。
これらの疾患は、種々の合併症を引き起こすばかりでなく、罹患率の高いcommon diseaseであることから、他の診療科における様々な疾病の診療においても重大な影響を及ぼしています。
他方、内分泌疾患の罹患率は糖尿病・代謝疾患ほど高くはありませんが、代謝疾患と同様に、全身の諸臓器に様々な影響を及ぼす性格を有しています。このような時代における内科診療を考えますと、様々な臓器の働きを個体レベルで調節している代謝・内分泌系を専門とし、全身を俯瞰するマインドで診療を担っている当分野の役割は益々大きくなってくるものと思われます。本学の基本理念は、「知と癒しの匠を創造し、人々の幸福に貢献する」ですが、この理念を達成できるよう、「全体を捉える幅広い視野」をキーワードに糖尿病・内分泌・代謝内科領域の診療、研究、教育に努力して参りたいと考えております。

東京医科歯科大学分子内分泌代謝学分野は、長年に亘って、糖尿病・内分泌・代謝領域の研究、診療、教育を担ってきた歴史を有しておりますが、これまでの伝統を堅持しさらに新しい糖尿病・内分泌・代謝学の創生に寄与できるよう努力して参る所存です。皆様におかれましては、今後ともご指導、ご支援を賜ります様何卒宜しくお願い申し上げます。