神経系特異的選択的スプライシング

神経系特異的選択的スプライシング

PLoS Genetics (2013)
線虫で2組の相互排他的エクソンを持つunc-32遺伝子の神経系特異的な選択的スプライシングの制御機構について紹介します.

線虫unc-32遺伝子

unc-32遺伝子は液胞型H+-ATPaseのV0複合体aサブユニットをコードしており、2組の相互排他的エクソン(4a/4b/4cと7a/7b)を持つことが知られています(図)[1,2].

理論的には合計6とおりの成熟mRNAが産生されることになりますが、実際には、4a/7b型(UNC-32A)、4b/7a型(UNC-32B)および4c/7b(UNC-32C)が主に検出され(図)、何らかの選択的スプライシングの制御があることが示唆されていました[1].

unc-32遺伝子エクソン4の選択的スプライシングレポーター

unc-32エクソン4レポーター線虫
(PLoS Genetics, 2013より)

unc-32遺伝子のエクソン4の3つの相互排他的な選択的スプライシングパターンを生体で可視化するために、図上のように、対称的な3つのレポーターミニ遺伝子を作製しました.

E4a-Venusミニ遺伝子は、エクソン4bと4cに終止コドンが導入してあり、エクソン4aのみが選択された時のみ黄色蛍光タンパク質(Venus)を発現します.

同様に、E4b-mRFPミニ遺伝子はエクソン4bのみが選択された時のみ赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現します.また、E4c-ECFPミニ遺伝子はエクソン4cのみが選択された時のみシアン色蛍光タンパク質(CFP)を発現します.

これら3つのミニ遺伝子を全身で発現する蛍光スプライシングレポーター線虫を作製したところ、図下のように、エクソン4a型(Venus)は腸、4b型(RFP)は神経系、4c型(CFP)は咽頭に主に発現する組織特異性を示しました.

unc-32遺伝子エクソン7の選択的スプライシングレポーター

unc-32エクソン7レポーターミニ遺伝子
(PLoS Genetics, 2013より)

上記と同様に、unc-32遺伝子のエクソン7の2つの相互排他的な選択的スプライシングパターンを生体で可視化するために、図上のように、対称的な2つのレポーターミニ遺伝子を作製しました.

E7a-EGFPミニ遺伝子はエクソン7aが選択された時に緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現します.また、E7b-mRFPミニ遺伝子はエクソン7bが選択された時に赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現します.

これら2つのミニ遺伝子を全身で発現する蛍光スプライシングレポーター線虫を作製したところ、神経系はエクソン7a型(GFP)、その他の組織は7b型(RFP)を主に発現する組織特異性を示しました.

これらの結果から、unc-32遺伝子のエクソン4とエクソン7はそれぞれ独立に、組織特異的に制御されていることが明らかとなりました.

エクソン7aの神経系特異的選択的スプライシングの制御因子の同定

unc-32エクソン7レポーターの神経系における発現
(PLoS Genetics, 2013より)

上記のunc-32エクソン7レポーターを神経系特異的に発現させると、エクソン7a型(GFP)を主に発現し、デュアルバンドパスフィルターでは緑色に見えます(図上段).

当研究室が以前に同定したegl-15遺伝子の相互排他的エクソン5を筋特異的に制御するRBFOXファミリースプライシング制御因子ASD-1とFOX-1[3]の二重変異体背景では、エクソン7b型(RFP)の発現がエクソン7a型(GFP)と逆転し、オレンジ色に変化しました(図左下).

さらに、変異体のスクリーニングにより、神経系でもエクソン7b型(RFP)のみを発現する変異体(図右下)などが単離され、原因遺伝子として神経系特異的なCELFファミリーRNA結合タンパク質をコードするunc-75を同定しました.

asd-1; fox-1二重変異体およびunc-75変異体では、内在性のunc-32遺伝子のエクソン7aの発現も減少していました.

これらの結果は、ASD-1, FOX-1およびUNC-75がunc-32遺伝子のエクソン7aを神経系特異的に選択するために必須の制御因子であることを示しています.

エクソン7aの神経系特異的選択的スプライシングのシスエレメントの同定

シスエレメント変異型
unc-32エクソン7レポーター
(PLoS Genetics, 2013より)

UNC-75はRNA結合モチーフ(RRM)型のRNA結合ドメインを3つ持つタンパク質で、神経系特異的に発現することは知られていましたが、機能はまだ明らかにされていませんでした[4].

エクソン7周辺でUNC-75が特異的に結合する領域をゲルシフト実験により絞り込んでいったところ、イントロン7aのUUGUUGUGUUGU配列を含む約50塩基の領域に3つのRRMドメインすべてを使って結合することが分かりました.

また、ASD-1とFOX-1がイントロン7bにある同属の線虫に保存されたUGCAUG配列に特異的に結合することも分かりました.

そこで、unc-32エクソン7レポーターミニ遺伝子のこれらUUGUUGUGUUGU配列とUGCAUG配列にそれぞれ変異を導入したところ、神経系における発現がエクソン7a型(GFP)優位からエクソン7b型(RFP)優位に逆転しました(図).

これらの結果は、別々のイントロンに存在するUUGUUGUGUUGU配列とUGCAUG配列がそれぞれunc-32遺伝子のエクソン7aの神経系特異的な選択に必須であることを示しています.

エクソン7の制御のモデルと研究成果の意義

UNC-75とRBFOXファミリーによるunc-32遺伝子エクソン7の相互排他的
選択的スプライシングの制御のモデル(PLoS Genetics, 2013より)

上述の遺伝学的解析のほか、両変異体における一部のイントロンのみが除去されたプロセシング中間産物の量を野生型と比較する実験などの結果、各制御因子の役割について次のようなモデルとなりました.

神経系では、イントロン7aの5’寄りに存在するUUGUUGUGUUGU配列にCELFファミリー制御因子UNC-75が結合してエクソン7bのスプライシングを抑制し、イントロン7bのUGCAUG配列に結合したRBFOXファミリー制御因子ASD-1とFOX-1がエクソン7aとエクソン8の間のスプライシングを促進することで、エクソン7a型のmRNAが産生されます(図左).

一方、非神経系組織やunc-75変異体では、ASD-1とFOX-1が存在するもののエクソン7bのスプライシングを抑制できず、エクソン6とエクソン7bの間のスプライシングが優先して起こることで、エクソン7b型のmRNAが産生されます(図右).

この例は、2種類のスプライシング制御因子が離れた場所に結合して、それぞれ異なるスプライス部位を活性化したり抑制したりすることで、複雑な相互排他的選択的スプライシングを巧妙に制御するモデルを呈示しています.

また、広範な組織に発現しUGCAUG配列に特異的に結合するRBFOXファミリー制御因子ASD-1とFOX-1が、組織特異的な制御因子と協働することで、egl-15遺伝子のように筋特異的にも、このunc-32遺伝子のように神経系特異的にも標的遺伝子を制御できる、多能性のある制御因子であることを明らかにしています.

エクソン4の制御のモデル

unc-32遺伝子エクソン4の相互排他的選択的スプライシングの
制御のモデル(PLoS Genetics, 2013より)

エクソン4bもエクソン7aと同様に神経系特異的に制御されていることから、asd-1; fox-1二重変異体およびunc-75変異体における内在性unc-32遺伝子のエクソン4のスプライシングパターンも解析しました.その結果、UNC-75がエクソン4bの神経系特異的な選択にも必要であることが分かりました.

エクソン7の場合と同様に、unc-75変異体における一部のイントロンのみが除去されたプロセシング中間産物の量を野生型と比較した結果、エクソン4に隣接するイントロン除去の順序について次のようなモデルとなりました.

神経系では、UNC-75のはたらきにより、エクソン3と4bおよびエクソン4bと5のスプライシングが促進されてエクソン4bのみが選択されます(図).

その他の組織特異的制御因子はまだ明らかではありませんが、腸ではエクソン3aと5が、咽頭ではエクソン3とエクソン5cが先にスプライシングされることで、複数のエクソンが誤って同時に選択されることなく、組織ごとに相互排他的にエクソン4が選択されていると考えられます(図).

文献

1. Pujol N, Bonnerot C, Ewbank JJ, Kohara Y, Thierry-Mieg D (2001) The Caenorhabditis elegans unc-32 gene encodes alternative forms of a vacuolar ATPase a subunit. J Biol Chem 276: 11913-11921.

2. Oka T, Toyomura T, Honjo K, Wada Y, Futai M (2001) Four subunit a isoforms of Caenorhabditis elegans vacuolar H+-ATPase. Cell-specific expression during development. J Biol Chem 276: 33079-33085.

3. Kuroyanagi H, Kobayashi T, Mitani S, Hagiwara M (2006) Transgenic alternative-splicing reporters reveal tissue-specific expression profiles and regulation mechanisms in vivo. Nat Methods 3: 909-915.

4. Loria PM, Duke A, Rand JB, Hobert O (2003) Two neuronal, nuclear-localized RNA binding proteins involved in synaptic transmission. Curr Biol 13: 1317-1323.