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旧萩原研究室

ここでは、当分野の萩原正敏前教授(-2010年6月)が在籍された当時の研究内容を紹介します.


萩原正敏前教授は2010年7月1日付で京都大学大学院医学研究科形態形成機構学研究室の教授として転出されました.

マウスの中枢神経系におけるプロテオームの多様化創出と部位特異的発現制御メカニズムの解明

哺乳類の臓器の中で特に高度で複雑な構造と機能を持つ神経系では、脳の機能に必須のさまざまな重要な分子が、その選択的スプライシングにより、発現や機能を調節されていることが知られている。また、これらの選択的スプライシングの異常により、神経変性疾患、精神疾患などが起こることも報告されてきており、実際にヒトの中で、選択的スプライシング制御が非常に重要な役目を担っていることが分かって来ている。しかしながら発生時期や臓器や細胞ごとに、個々の遺伝子がどのような内部の状況や外部刺激に反応して、またどのようなスプライシング制御因子の相互作用からなる調節を受けて、細胞や臓器全体としていかに機能発現を調節されているかについては、実際まだほとんど分かっていないのが現状である。

そこで我々は、マウスの生体の中での選択的スプライシングの状態を、発生過程の神経系や成体脳の部位ごとに、単一細胞のレベルでモニターするスプライシング・モニター系を開発し、In Utero electroporation、mouse geneticsと組み合わせることで、選択的スプライシングの制御因子群の機能解析および、それらによる神経発生、神経機能調節、大脳形成の制御機構の解明を目指している(PLos ONE, 2010)

ウイルスRNAのスプライシング制御機構の解明とその治療への応用

ウイルスは、その小さなゲノムDNAから多彩な蛋白質を発現する必要があり、mRNAスプライシングや、プロテアーゼによる切断を行い種々の蛋白質を発現する。特にウイルスRNAのプロセシングでは、感染細胞のRNA結合蛋白質は不可欠な存在である。RNA結合蛋白質であるSR蛋白質は発見当初、選択的スプライシングを制御する因子として同定されたが、その機能は多彩であり、mRNAの輸送や蛋白質の翻訳にも関わる因子であることが証明されている。SR蛋白質ファミリーはSer-Arg反復配列からなるRSドメインを共通に持ち、このRSドメインは細胞内でSRPKs, CLKs等により高度にリン酸化されている。

我々はSR蛋白質の一つであるSRp75とそのリン酸化酵素SRPK2がHIV-1の産生を亢進することを見出している(PNAS, 2006)。このことから、細胞因子であるSR蛋白質とそのリン酸化酵素SRPKsはウイルスの増殖に必須な因子と考えられる。我々はこれらウイルスの増殖メカニズムに注目し、SRPKs特異的阻害剤としてSRPIN340を得ることに成功した。

SRPIN340はヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、シンドビスウイルス、SARSウイルス等に対しても増殖抑制能を有することから、適応範囲 の広い抗ウイルス剤であることが明らかになり抗ウイルス薬として開発を進めている。現在、SRPIN340の誘導体を合成し、C型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、デング熱ウイルス等に対しても有望な低分子化合物を得ている。さらに基盤的な研究として、ヘルペスウイルス由来蛋白質ICP27が、宿主のPML(promyelocytic leukemia protein)遺伝子の選択的スプライシングを変化させ、ウイルス増殖に影響を与えていることを明らかにした(NAR, 2009)。この報告は、ウイルス増殖と宿主遺伝子選択的スプライシングの関係について詳細な機構を明らかにした初めての例である。

"PSYCHIK ファミリー" に属する蛋白質リン酸化酵素に対する新規阻害剤の開発とその臨床応用可能性の検討

ヒトゲノムの解読により、518種類に上る蛋白質リン酸化酵素の存在が予想されている。これらのリン酸化酵素は生命現象の多彩な局面で重要な役割を果たし、また、幾つかのリン酸化酵素に対する特異的阻害剤が、既に臨床の場で主要な治療薬として使用されている。しかし、依然として多くのリン酸化酵素においては、その生理的・病的な機能は解明されていない。また、機能が判明している物においても、臨床的に有用な阻害剤や活性促進剤が得られている物はごくわずかにすぎない。

我々は先に SRPKs、Clksの特異的な阻害剤を世界に先駆けて開発し、これらの化合物が生命現象を解明する上で有用なツールになりうる事を示した。この成功を基に、阻害薬開発の対象とするリン酸化酵素を拡大して、さらなる探索を進めている。SRPKsとClksはそれぞれ近縁のリン酸化酵素ファミリーであるが、他にも PRP4、DYRK、HIPKファミリー が近縁に位置し、全体としてより大きなリン酸化酵素ファミリーを形成している。これらのリン酸化酵素は、中枢神経系の発生および機能維持、アポトーシスの制御、pre-mRNA スプライシング等に関与している。我々はこれらを総称してPSYCHIK ファミリー (PRP4、SRPK、DYRK、Clk、HIPK Family)と呼ぶ事を提唱し、それぞれのファミリーに対する特異的阻害剤を開発している。現在までに、新たに得られた化合物に対して、1)in vitroアッセイ、2)in cell機能アッセイ、3)X線共結晶構造解析、4)whole embryo developmentアッセイによる解析を行った。その結果は、これらの化合物が新たな生物学的解析の有用なツールであることを確認するだけではなく、現在治療法を持たない難治性疾患への治療薬開発の可能性を示している(Nature Communications, 2010)。