4. 医薬品・医療機器におけるハザード

4. 医薬品・医療機器におけるハザード

4.0 イントロダクション

医薬品・医療機器のハザードは様々あり,いろいろな分類が可能です.一つの分類方法は,危害が生じた場合にその危害がどのように広がる可能性を持つかに応じて分ける方法です.この分類ではハザードは次の4種類に分けられます.1つは危害が無制限に拡大する可能性があるもので感染が該当しており,ここでは無制限拡大性ハザードと呼ぶことにします.2つめは危害が患者以外にも拡大する可能性があるがその拡大は限定されているもので,化学物質や放射性物質による汚染などが該当します.これは限定拡大性ハザードと呼びましょう.3つめは危害が治療を受けた患者に限定されるが全身に関わるもので,全身性ハザード呼ぶことにします.最後は,危害が患者の体の中でも治療を受けた局所に限定されるもので,これを局所性ハザードとしましょう.

4.1 無制限拡大性ハザード

医薬品・医療機器において最も重大な健康被害を引き起こす可能性があるハザードは感染です.生命に関わるような重篤な感染症もありますから,感染は治療を受けた患者本人にとって重大なリスクとなります.これまで大きな社会問題となった薬害事件には医薬品・医療機器が感染源となったものも幾つかあり,例えばライオデュラによるクロイツフェルト・ヤコブ病,血液製剤によるエイズやC型肝炎など,いずれも深刻な健康被害を引き起こしています.感染のハザードを深刻なものとしているのは,未知のウイルスなど現在は知られていない病原体が存在するかもしれないことです.現在の処理方法では除去あるいは不活性化することが出来ず,また検出することが出来ない可能性は零ではありません.実際に,上にあげた例では,生物由来の材料を使用していて当時は知られていなかった病原体が原因となっています.

このように生物由来の材料を使用した医薬品・医療機器においては,感染のリスクを厳重に管理する必要があります.日本では,次のような制限が課せられています.

【生物由来材料の制限】

まず,人その他の生物(植物を除く)に由来するものを原材料として製造される医薬品・医療機器等のうち,保健衛生上特別の注意を要するものが「生物由来製品」として指定されています.さらにこれらの生物由来製品のうち,市販後において当該製品による保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するための措置を講ずることが必要なものが「特定生物由来製品」として指定されています.生物由来材料を利用した製品のリスクを評価して,その結果に応じてリスクのごく小さいもの,一定のリスクがあるもの,リスクの高いものの3種類に分類しているわけです.

どのような考え方なのかを,「生物由来製品の指定の考え方について(案)」 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/12/h1218-2a.html をそのまま引用して紹介しましょう.

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改正薬事法上の定義に沿った指定分類の基本的な考え方について

 特定生物由来製品及び生物由来製品の指定に関しては、概ね、製品の感染症のリスクに着目し、次の考え方に基づき行うものである。ただし、これらの考え方は現在想定される感染症を基とした対応であり、新しい型の感染症等感染症に対する新たな知見が得られた場合、見直しを行う必要があるものである。

(1)特定生物由来製品については、製品における感染症の発生リスクが理論的にも、かつ、経験的にもより高いものであり、その原料に関して次のような特徴を持つものを想定したものである。
(1) 人・動物から得られた原料を使用する製品であって、不活化処理等の感染症に関する処置に対して限界があるもの(例:輸血用血液製剤)
*注:将来、人・動物から得られた原料由来の培養皮膚等の細胞組織医療機器・医薬品も想定している。
(2) 不特定多数の人から採取された原料を使用する製品であって一定の病原体の不活化・除去等が行われているが、感染因子を内在するリスクがあるもの(例:人血漿分画製剤、人臓器抽出医薬品)

(2)生物由来製品については、製品における感染症の発生リスクがあり、次のような特徴を持つものである。
(1) 病原性の細菌、ウイルスを原料とし、一定の不活化、弱毒化等の措置が講じられているもの(例: ワクチン、抗毒素等)
(2) 人又は動物の管理された細胞株又は管理された動物個体(遺伝子組換えを含む)により生産されるタンパク等を用い、かつ一定のウイルス等病原体の存在の否定についての確認、不活化除去が行われているもの(遺伝子組換えタンパク、培養細胞由来のタンパク等)
(3) 健康の確認された不特定多数の動物から得られた原料を用いたものであり、一定の病原体の不活化・除去等が行われているもの(ヘパリン等の動物抽出成分)

(3)生物由来の原材料を用いているものであっても、指定の対象とならないものは、現在の科学的知見において、感染症のリスクの蓋然性が極めて低いものであり、次のようなものである。
(1) (2)の(3)においても、製造工程による管理の内容(強アルカリ、高温等の過激な処理条件)、又は投与経路(経口・経皮等)からみて、明らかに感染症についてのリスクの蓋然性が低いもの(例: ゼラチン)
(2) 病原菌を使用せず、人・動物の血清等を製造工程で使用していないものであり、明らかに感染症についてのリスクの蓋然性が低いもの(例: 乳酸菌、インスリン等の大腸菌由来の遺伝子組換え製剤、抗生物質)
(3) 人獣共通感染症の蓋然性の低い動物種を原料としたもの(例: カイコの糸を使用した医療用具、魚類由来の原料から抽出されるコンドロイチン硫酸)
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さてリスク評価が出来ますと,それに応じたリスク低減の対応策の構築が必要になります.感染というハザードで重視すべきことに,感染して周囲の人たちに危害が拡大する可能性があります.ですので感染のハザードは次の2つに分けられます.

ハザード 1: 医薬品・医療機器が感染源となり,これらによる治療を受けた患者が発症する
ハザード 2: 2次的な感染による感染被害が拡大する

既知の感染症については検査により検出できるかもしれませんが,これまでの経験から,未知の病原体が存在することを想定しなくてはなりません.したがって被害の発生を未然に防止することは不可能であるとして,発生した被害の拡大を抑えるように対策を講じることになります.しかもクロイツフェルト・ヤコブ病のように潜伏期間が10年を越える可能性も考慮しなくてはなりません.

対策1: 感染の発生を常時モニタリングして異常があれば即時に対応する
対策1a: 治療記録の保管
対策2: 感染の拡大防止のための社会的ルール

【輸血における献血者の制限】

血液を臓器のひとつとしてみれば,輸血は最も頻繁に行われている臓器移植と言えます.この輸血では「献血をご遠慮いただく場合」として日本赤十字社の基準が次のように定められていいます.

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4.2 限定拡大性ハザード

化学物質や放射性物質による汚染などが該当します.

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4.3 全身性ハザード

局所に適用される多くの外用薬を除くすべての医薬品,およびごく一部の医療機器が該当します.

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4.4 局所性ハザード

局所に適用される多くの外用薬などごく一部の医薬品,および大部分の医療機器が該当します.

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