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【まえがき】

医療機器の実用化においては,そのリスクとベネフィットを科学的に評価することが重要になります.リスクとベネフィットは安全性と有効性とも言い換えることがありますが,安全という言葉を使いますと,ややもすると安全か危険かのどちらかしかないような議論になってしまいます.しかしこのような考え方で安全性を追求すると,実現不可能な絶対安全すなわち安全神話につながり,かえって安全でない状況に陥りかねません.一方,リスクと言いますと,リスクは小さく出来るが零には出来ない,あるいは大きなリスクをとって目標を達成するというような慣用的な表現があることから,小さいリスクあるいは大きなリスクというように連続的に変化する大きさを持った量として認識し議論できるようになります.したがいまして安全というよりはリスクと言った方が,より科学的な議論が可能になるように思われますので,ここではリスクという言葉を使うことにします.

実を言えば,この後で詳細に議論を進めて行きますが,医療機器の安全あるいはリスクという言葉はISOあるいはその翻訳規格であるJISにおいて明確に定義されている言葉です(用語集をご参照下さい).それによると,リスクとは危害の発生確率とその危害の重大さとの組合せであり,安全とは受容できないリスクがないことと定義されています.したがってこのような用語の体系の中で議論するときには,そもそもリスクが零であったり絶対に安全であるという状況は空想であるとして初めから想定されていないのです.

避けられないリスクをどのように受容可能なレベルに管理するか,それが現実の問題です.リスク管理の概念は,もともとは事故防止のために工学の領域で始まったものが,金融などにも応用され経済の分野でも使われるようになって来ています.ところが医学,歯学の分野ではリスク管理という概念があまり浸透していません.もちろん医療事故防止といった観点では日々の医療現場で使われているし,また医療機器のリスク管理のための標準規格もあるのですが,例えば新規の医療機器や治療方法を開発したときに,そのリスクをどう管理というかということについては議論が少ないようです.しかし,このような未知のリスクを議論する場合にこそリスク管理が重要です.さらに他の医療の局面においてもリスク管理という考え方は役に立つはずです.たとえば治療方法として薬剤だけに頼るか手術を選ぶべきかを選択する局面においては,それぞれの治療方法のリスクとベネフィットについて説明を受けた患者が医師とともに最善の治療方法を選択することになりますが,これは典型的なリスク管理の問題です.このように考えを広げて行きますと日常生活における生活習慣病の予防もリスク管理ですし,病的な加齢を防ごうという抗加齢医学もリスク管理と言えます.

そうしていくとリスクを中心的な概念とする医療および歯科医療としてのリスクベースドメディシン,リスクベースドデンティストリーという考え方が成立するはずです.ここでは特に医療機器の実用化を図る際のリスクをどう管理するかを念頭において,このリスクベースドメディシン,リスクベースドデンティストリーについてご紹介します.