グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ




Ⅲ提言

1. 小児科医師、助産師、保健師および保育士に対する提言
新生児期から乳児期前期の舌小帯短縮症は哺乳障害とは関係がなく、手術の必
要性はない。幼児では舌小帯短縮症で摂食機能障害(食物をこぼす)や構音障害
(発音が曖昧になる)が発生することがあり、状況によっては治療の対象になる
可能性もある。3歳以降に何か問題がある舌小帯短縮症をみたら、機能訓練や手
術が必要になる場合もあるので、小児歯科専門医に紹介する。

2. 歯科医師および歯科衛生士に対する提言
幼児の舌小帯短縮症に遭遇すると直ちに摂食機能障害や構音障害を考え、幼児
期前期でも治療の対象であると保護者に伝え、手術を勧める歯科医師がいる。し
かし、たとえ機能障害が認められても、実際には舌の発育と共に舌小帯は変化し
て機能障害が改善する可能性がある。また、早期の形成術は瘢痕化する危険性が
あり、かえって事態を悪くしてしまう可能性もある。さらに、低年齢の手術は子
どもの身体に大きな負担となる。
以上のことから、舌小帯短縮症による機能障害は、特別な場合を除き、3歳以
降の機能訓練や構音治療による対応で良く、手術の必要性があるか否かを4〜5
歳以降に判断しても問題はない。
コラム:赤ちゃん言葉、幼児語と構音障害
日本語を話し始めた頃の幼児は「お母さん」が「お母たん」になったり、正し
い発音ができないことがある。これを赤ちゃん言葉、幼児語と言う。普通の子ど
もはどのようにして日本語を話すようになるのであろうか。
乳児は生れた直後から微細な音の違いを聞き分けられ、世界中のどの言語にも
適応できる音韻知覚能力がある。ところが、育ってくるうちに、母音は生後6か
月、子音は生後10か月には、母国語の音声のみが聞き分け可能となる。
音声は体外に吐き出す空気が声帯を振動して作られる。これが口腔、舌、唇を
通過するときに、唇や舌の動きで、さまざまな固有の音声が作られる。音声の発
達は、先ず生後2か月頃になると、喉の奥でクーと鳴るようなクーイングが聞か
れる。2~6か月頃の乳児はなんでも口へもって行きしゃぶるが、これには二つ
の意味が考えられる。いろいろの物の硬さや、味、匂いなどの性状の違いを覚え
ることと、食物を食べるのに必要な舌の動きと、種々の音を出すのに必要な舌の
動きを練習しているのではないかとも考えられる。その後、過渡期の喃語が現れ、
生後11か月頃になると「ババババ」「バダ」「バブバブ」の音が反復して表出さ
れるようになる。
言葉の発達は耳が聞こえること、知能や社会性が正常であることが条件である。
お誕生前後より初語を話し始める。言葉が話せるようになると、「さかな」が「た
かな」、「くすり」が「くつり」、「はさみ」が「あさみ」、「さかな」が「たかな」、
「そら」が「とら」、「つくえ」が「ちゅくえ」などの幼児語が出てくる。サ行が
タ行になってしまうとか、カ行が全く発音できなくて「たちつてと」になってし
まうとか、ラ行の発音が一番難しい。これらの幼児語は大人が直さなくても、周
囲が正しい言葉を話していれば、子ども自身が修正し、小学校に入学する頃には
正しい言葉を話すようになる。
これらの幼児語は舌とか、口とか唇の動かし方が未熟であるというだけで原因
が良くわからない。これらを機能性構音障害という。唇顎口蓋裂、難聴、舌小帯
短縮症など原因が明らかなものを器質性構音障害という。脳障害のために舌や唇
や喉の運動がスムーズにいかないものを運動性構音障害という。それぞれの特別
な治療が必要である。わが国では幼児語は舌小帯短縮症、いじめ、欧米への留学
などの特別なことが無い限り問題にされることはあまりない。
機能を獲得する言葉の発達で、どの言語でも発音できる音韻知覚能力を失って
母国語が話せるようになるのは興味あることである。
(前川喜平)