顎関節口腔機能学分野

改定版 AADR によるTMDについての見解201033AADR評議会により承

2010年3月3日付けで,AADR(The American Association for Dental Research )からTMDの診断と治療についての声明が発表されました.

  AADRは、TMDを、顎関節咀嚼筋また関連諸組織含む、筋骨格系・神経筋関連の状態を含包した疾患であると認識している。これらの疾患に関連した兆候と症状は多様であり、咀嚼、会話、その他の顎顔面機能に障害をきたした状態も含まれると考えられる。また、TMDはしばしば急性あるいは持続性の疼痛を伴い、他の疼痛性疾患が併存することも多い(併存疾患)。慢性TMDの疼痛は、仕事への支障や欠勤、社会的活動からの疎遠などをきたし、結果的に患者の生活の質を総体的に低下させる可能性がある。


 臨床研究や実験的、疫学的研究によるエビデンスに基づき:

1)TMDや関連する口腔顔面痛疾患の鑑別診断は、主として患者の既往歴・現病歴、診査、また必要な場合には顎関節のレントゲンや他の画像検査によって得られた情報によりなされるべきである。補助的な診断法を選択する場合は、その診断法の有効性と安全性を示した(論文として発表され、専門家によって検証された)データに基づいて行うべきである。しかしながら、いくつかの画像診断法を除いて、現在使用可能なTMD診断機器の中には、健常者とTMD患者、あるいはTMD予備軍とを鑑別するための十分な感度(sensitivity)と特異度(specificity)を持つものが存在しないというのが、近年の科学的文献のコンセンサスである。現段階においては、整形外科疾患・リウマチ性疾患・神経疾患を評価するのに使用されている標準的な医学的診断検査や臨床検査を、必要であればTMD患者に応用してよいと考えられる。また、様々な標準的かつ有効性が証明された心理テストも、それぞれのTMD患者がかかえる問題の心理社会的側面を評価するために用いることができると思われる。

2)反対に明確かつ正当化できる適応がない限り、TMD患者への初期治療は、保存的・可逆的、かつエビデンスに基づいた治療を行うことが強く推奨される。多くのTMD患者の自然の経過についての研究は、TMDの症状は時間の経過とともに改善あるいは解決する傾向にあることを示唆している。一定の有効性を示すことが証明されている特定の治療法がないとはいえ、保存療法の多くは、少なくともほとんどの侵襲的治療法と同程度に症状を軽減することが証明されている。これらの治療法は、非可逆的な変化を引き起こさないため、害を引き起こすリスクは、よりさらに低い。専門医による治療は、疾患についての説明を受け、症状の管理法を教育された患者によるホームケア・プログラムによって増強(増補)されるべきである。

つまり今回の声明で強調されていることは以下の3項目です。

1)診断は診断機器でなく、問診による病歴聴取と身体的な検査によって行う、画像検査は必要に応じて行う。

2)治療は保存療法によって行う。

3)診断と治療は共に、身体のみでなく心理・社会的要素に対しても行う。