顎関節はものを食べたり会話したりといった下顎の運動の蝶番になる関節ですが,本当の蝶番のように回転運動だけをする関節ではありません.関節の軸になっている下顎頭が大きな口を開けるときに前方に移動するという,特殊な機能を持っています.つまり,軸受けになっている下顎頭から下顎頭が前方にはずれることで,大きな口を開けることができるのです.ですから,「あごがはずれた」という表現は本当は正しくないのです.下顎頭が前方に移動した状態から元に戻れなくなった状態を指して,「あごがはずれた」といっているにすぎません.下顎頭が軸受けとなる下顎窩の中に収まったままで回転だけをしたときには口は上下の前歯の間の距離で30o程度しか開口できません.(下顎頭が前方にでれば45〜55o開口)

1. 顎の関節の構造

動き

1.下顎頭は前に移動しながら回転する

2.関節円板はクッションの役割をする

 大きく開口したときは,下顎頭は関節隆起の下まで前方にでてきます.このとき,下顎頭の上に出っ張った面と関節隆起の下に出っ張った面とが上下から押し合う形となって,互いに出っ張っているため両方の骨には強い負担がかかります.このような圧力集中をもっと広い範囲に分散させることができるように,下顎頭には関節円板が帽子のように被さっていて,一緒に前方に出てきて上下の骨の間にはさまることで圧力分散のためのクッションとなっているのです.
 このように関節円板は下顎頭とともに大きく前後に動きます.そのため関節円板は下顎頭以外の部分とは緩やかに連結しています.

3.顎関節は左右にも動く

左の下顎頭
右の下顎頭

 下顎の骨は1つなのに両端に下顎頭が1つずつついているので,一方の下顎頭が前に出ても他方は下顎窩にとどまっていることもできます.このように2つの下顎頭がそれぞれ独自性をもった動きをすることで,下顎を左右に揺らすことが可能になります.ですから,下顎を左に揺らすときには,右の下顎頭だけが前に出ています.この運動によって食べ物を咀嚼する動作を作り出しています.食べ物もを租借するとき,下顎は左右に揺れながらかみしめていま.たとえば,左の奥歯(奥歯)で食べ物をかみつぶすときには,右の下顎頭が少し全内方に出ることで下顎を左に少しずらして上下臼歯の間に食物をはさみます.次に上下臼歯のかみ合わせの面(咬合面)の凸凹が互いにぴったりと収まる方向に食物を押しつぶす動作をします.

 上下の咬合面がぴったりとかみ合ったとき,顎関節では下顎頭が下顎窩内でもっとも安定した位置に戻ります.実際の咀嚼の時には下顎頭が関節隆起の下まで動く必要はなく,関節隆起の後ろの斜面(関節隆起後斜面)を少し前にすべる程度でこの咀嚼運動は可能です.
下顎窩
下顎頭
下顎頭が下顎窩からはずれ,前に移動しながら回転することによって,口を大きく開けることができる.