2.顎関節症の症状

 顎関節症は顎の関節を構成する骨,筋肉,靭帯といった構造のバランスが様々な因子によってくずれることで生じます.顎関節症の主な症状には,最初にあげたものの他にもいくつかあります.それぞれどのようなものなのでしょうか? 


口を開けようとすると痛い

 来院する患者さんの訴えで最も多いものです.痛む場所は耳の前の顎関節があるところが多いのですが,痛みが出始めた頃は片側の顔から頭までが痛いように感じることもあります.また頬やこめかみの筋肉に痛みが出ることもあります.こめかみや頭の横が痛むときには頭痛と感じる人もいます.痛みは,口を開く時や食物をかむ時に出ることが多く,また,指で押すと痛いこともあります.しかし,何もしないときに痛みが出ることは比較的少ないようです.


あごを動かすときに音がする

 実はあごを動かすと音がするという人はたくさんいます.自分はあごの病気がないと考えている人達を対象として行った調査では,23〜39%のひとにあごの関節の音があるといわれています.大きく分けると,カクカク,コキコキといったはじけるような音と,ゴリゴリ,ザラザラといったこすれるような音がする場合があります.


あまり大きく口が開かない

 多くの例では,痛みのせいで口が大きく開けられないといったことがあります.他にも関節自体の動きが制限されてしまい,口が開かなくなることもあります.ただ,どんなにひどくても指1本分くらいの開口は可能で,全く口が開かなくなることはありません.また,一般的には放っておいても,何日かするとだんだんと口の開く量が増えてきます.


急にかみ合わせが変化した

 あごの関節や,あごを動かす筋肉に問題が生じるとかみ合わせに微妙な変化が生じることがありますが,多くの人では症状が改善してくると気にならなくなります.また,実際にはかみ合わせの変化はなく,そのように感じるだけということもあります.症状があるうちにかみ合わせの治療を受ける場合は注意が必要です.


あごが閉じない

 急にあごが閉じなくなる病気は顎関節症以外にもあり,多くはあごがはずれた状態です.顎関節症の場合では関節の中の組織のずれなどが生じているケースがあります.


その他

 顎関節症で見られるその他の症状には,頭痛,首や肩の痛みとこり,耳の症状(耳の痛み,耳鳴り,耳が詰まった感じ,難聴,めまい),舌の痛み,味覚の異常,目の疲れ,口の乾燥感などがあります.しかし,これらの症状が顎関節症に関係するものなのか他の病気に原因があるのかを慎重に判断する必要があります.



顎関節症と似た症状の病気

 口を開けると痛い,口が開かないなどの顎関節症の特徴は他のさまざまな病気でもみられます.
 顔面に痛みをおぼえる病気として,口の中や顎の近くの器官の病気(歯,歯周組織,舌,眼,耳,鼻,のど,副鼻腔,唾液腺,神経などの病気),頭蓋内の病気(脳腫瘍,脳内出血,浮腫,感染症など),全身疾患の一部としてみられる病気(シェーグレン症候群,関節リウマチ,全身性紅斑性狼瘡,慢性疲労症候群,線維筋痛症,痛風,甲状腺機能亢進症など),頭痛(緊張性頭痛,片頭痛,群発頭痛など),また心因性障害や神経因性疼痛があります.
 口が開けづらい病気として,顎の関節,顎を動かす筋肉,それをつかさどる神経などに病気が生じると口が開けづらくなります.もちろん顎関節症もこの中に含まれますが,顎関節症以外の顎の関節の病気には骨折,腫瘍,奇形,脱臼,感染症,炎症などが,筋肉の病気には筋の萎縮,外傷,炎症,拘縮などがあります.神経の病気には神経の腫瘍,炎症,神経のウィルス感染などがあります.