(4)染色体検査学
Human Cytogenetics
池 内 達 郎
1 科目の概要
染色体は遺伝子の担荷体であるから,染色体の行動や構造そして機能を知ることは多様な遺伝現象の機構をより深く理解するのに重要である。このような学問領域を細胞遺伝学(cytogenetics)という。近年は,分子遺伝学的技法が導入されて、分子細胞遺伝学(molecular cytogenetics)という新しい研究領域が展開されている。染色体の異常は,個体の発生異常や細胞癌化の原因となる。したがって,染色体の解析は,先天異常や発癌の機構を探求するための道標となるばかりでなく,疾患の確定診断に直結する臨床上重要な役割を担うものである。
2 教育方針・教育目標
近年の臨床分野では,先天異常や造血系疾患での染色体検査が広く普及し,検査例数も飛躍的に増大している。したがって平成15年版の臨床検査技師国家試験出題基準には,染色体検査関連の内容が大幅に盛り込まれることになった。本講義では,こうした出題基準内容の全体をカバーしながら,ヒトの染色体異常に関する基礎知識と最近の新しい研究成果を学習し,臨床分野における染色体解析の意義と原理ならびにその方法論についての理解を深めることを目的とする。
3 教育内容
上記の国試出題基準の内容に準拠し,染色体を中心としたヒトの遺伝学について,基礎と臨床の両分野で得られたこれまでの知識を紹介する。併せて現在展開中の新しい基礎研究の成果ならびに新技術とその臨床応用にも言及する。
回数 |
日 時 |
項 目 |
内 容 |
担当者 |
1 |
4/6(木) 1 |
染色体の遺伝学的基礎I |
染色体の形態と高次構造(DNA分子の凝縮機構),体細胞の細胞周期における染色体の動態。 |
池内達郎 |
2 |
4/13(木) 1 |
染色体の遺伝学的基礎II |
減数分裂における染色体の形態と行動(配偶子形成,メンデルの法則との関連,遺伝的多様性の産生),およびX染色体の不活性化現象。 |
〃 |
3 |
4/20(木) 1 |
ヒト染色体の解析技術 |
染色体の分類の基本,細胞培養法,分染法やFISH法などによる染色体解析技術,染色体の正常変異。 |
〃 |
4 |
4/27(木) 1 |
染色体異常の種類とその生成機構 |
数的異常と構造異常の生成要因と機構,安定型と非安定型の染色体異常。 |
〃 |
5 |
5/11(木) 1 |
常染色体異常症候群 |
常染色体異常症候群(ダウン症などのトリソミー症候群,部分的トリソミー/モノソミー症候群)。 |
〃 |
6 |
5/18(木) 1 |
性染色体異常症候群と性の決定機構 |
性染色体異常症候群(クラインフェルター症候群,ターナー症候群など),性の決定機構(SRY遺伝子)。 |
〃 |
7 |
5/25(木) 1 |
染色体異常の伝わり方 |
染色体異常(転座,逆位など)の世代間の伝わり方と各種の染色体異常症の発生機構。 |
〃 |
8 |
6/1(木) 1 |
染色体異常の遺伝的荷重 |
ヒトの集団およびライフサイクルでの染色体異常の普遍性と動態,疾患と社会との関わり方への理解。 |
〃 |
9 |
6/8(木) 1 |
造血系疾患と染色体突然変異
|
白血病やリンパ腫の病態特有な染色体異常,がん関連遺伝子との関わりと発症機構。染色体検査の役割(病態の確定診断や予後の判定,治療法の選択)。 |
吉田光明 |
10 |
6/15(木) 1 |
固形腫瘍と染色体突然変異 |
固形腫瘍における染色体突然変異(とくに染色体欠失)とがん抑制遺伝子との関わり,2段階突然変異,高発がん性遺伝疾患。 |
〃 |
11 |
6/22(木) 1 |
発がんの多段階機構 |
発がんの多段階機構,がん遺伝子,がん抑制遺伝子,腫瘍における遺伝学的変化の分子遺伝学的/細胞遺伝学的解析法 |
〃 |
12 |
6/29(木) 1 |
ヒトの染色体 (遺伝子)地図 |
ヒト染色体(遺伝子)地図の作成法(細胞雑種法,家系分析による連鎖解析,FISH法など)と現状,その臨床への応用。 |
池内達郎 |
13 |
7/6(木) 1 |
ヒトゲノムの成り立ち |
ヒトゲノムプロジェクトの成果と,それに基づくヒトゲノムの成り立ちへの理解。 |
〃 |
14 |
7/13(木) 1 |
核型進化 |
染色体の解析および遺伝子の比較マッピングによる核型進化,染色体突然変異の普遍性と核型進化への役割,生物の遺伝的多様性,21世紀の生命観/社会感。 |
〃 |
〔単位〕選択2単位
〔場所〕保健衛生学講義室3(医歯学総合研究棟8階)
4 教科書・参考書
教科書として,
・奈良信雄,池内達郎,吉田光明,小原深美子,東田修二(著):臨床検査学講座 遺伝子・染色体検査学,医歯薬出版,東京
を使用する。他に有用な参考書(講義時にも紹介)は:
・池内達郎:ヒトの染色体.「細胞の増え方−岩波講座・分子生物科学4」,岡田善雄(編), pp.153-185,岩波書店,1989
・古庄敏行,外村 晶,清水信義,北川照男 (編):「臨床遺伝医学〔U〕染色体症候群」,診断と治療社,1992
・今泉洋子(編):「人間の遺伝学入門」,培風館,1994
・香川靖雄,笹月健彦(編):「遺伝と疾患」,岩波講座・現代医学の基礎9,岩波書店,2000
5 他科目との関連
「遺伝学」を受講し,染色体を中心とした遺伝学の他に,人類遺伝学全般に亘る幅広い知識を習得することが望ましい。また最近では,“染色体”を理解するには分子生物学的な知識も必要である。関連科目を受講することで,理解をより深めることができよう。
6 受講上の注意
講義時には多数のスライドを供覧し,その都度プリント資料も配布する。実際の「モノ」を目で知覚し,資料を参考とすることで知識を整理し,問題提起を各自常に心掛けたい。検査の技法や遺伝学の基礎知識のみでなく,ヒト集団における染色体突然変異の普遍性と多様性を認識し,症例や家族に対する社会からの適切な対応が求められていることについても理解を深めて欲しい。
7 成績評価方法
講義出席点とレポート(課題は学期末に提示)に基づいて総合的に評価する。