細胞死の科学

Science of Cell Death

 

朝 海   怜

 

1 科目の概要

細胞死の研究は,アポトーシスの概念の発明により科学研究の対象となった。アポトーシスとは,細胞もまた自殺するプログラムを持っているということである。細胞は,分裂により自己複製するが,反対にアポトーシスにより自己を抹消する。このバランスのもとに細胞数が一定に保たれる。このホメオスターシスが,分裂に片寄るのはもちろんのこと,反対に,自殺プログラムの異常によっても,細胞が異常に増加し,癌の原因となる。一方,こうした生理的な死とは異なり,病的にも細胞は死ぬが,こうした死はネクローシスと呼ばれる。ネクローシスは,パーキンソン病,アルツハイマー病などの神経変性疾患や脳虚血再還流障害の病因とされている。ネクローシスは,アポトーシスと異なりほとんど解明されていない。しかし,最近,ミトコンドリアに存在するPermeability Transition Pore (PTP)が中心的な役割をはたしていることが明らかとなってきた。細胞死研究の成果は,臨床への応用が可能であり,病気治療法開発の見地からも極めて重要である。

 

2 教育方針・教育目標

基本から臨床応用まで講義する。データの批判能力が少しでも身につくように進めて行きたい。研究の着想,結果の解釈,データの信頼性,苦心といったところに重点を置く。単に,知識を伝える講義にはしない。

 

3 教育内容

回数

日 時

項  目

内   容

担当者

1

4/9(水)

1

細胞死

歴史

朝海 怜

2

4/16(水)

1

生理的な死(1)

アポトーシスの機構

3

4/23(水)

1

生理的な死(2)

アポトーシスの多様性

4

5/7(水)

1

病的な死(1)

PTPとは何か

5

5/14(水)

1

病的な死(2)

PTPのネクローシスにおける役割 

6

5/21(水)

1

病的な死(3)

神経細胞の死

7

5/28(水)

1

死の防御(1)

Bcl−2蛋白ファミリイ

8

6/4(水)

1

死の防御(2)

抗ネクローシス薬の開発

〔単位〕選択1単位

〔場所〕講義室A(3号館4階)ほか

 

4 教科書・参考書

最先端を網羅した本は残念ながらないので,参考文献の一読をすすめる。

Science 282, 1301-1326, 1998; Genes & Development 13, 1899-1911, 1999; Am.J. Physiol. G1-G6, 1999

 

5 他科目との関連

癌の分子生物学や神経病理。

 

6 受講上の注意

ミトコンドリアにおけるエネルギー代謝を復習しておくことが望ましい。

 

7 成績評価方法

レポート提出による。