アパタイトをベースにしたスーパーバイオアクティブセラミックスの創製
  ―1999年米国セラミックス学会フルラス記念賞受賞―
  ―第53回(平成10年度)日本セラミックス協会学術賞受賞―

生体材料工学研究所 素材研究部門 教授 山 下 仁 大

 


 本年5月に幸運にも,アパタイトセラミックスを利用した新規なバイオセラミックスと電子セラミックスの創製に関する研究に対して,故リチャードフルラス教授の功績を称えて創設された米国セラミックス学会(会員:米国内外合わせて1万5千人)のフルラス記念賞と,日本セラミックス協会(会員:国内外合わせて7千人)の学術賞を授与されました。

 本学のみな様にはセラミックス(ceramics)は馴染みがないかもしれません。セラミックスとは簡単には固体の無機材料(inorganic materials)のことで,耐火物や陶磁器としては古くから利用されています。最近では電気抵抗がゼロになる酸化物超伝導体やスペースシャトルの断熱タイル,オプティック材料,エコマテリアル,さらには生体親和性の高い材料として注目されている先端材料中の最先端材料であります。セラミックスは通常は無機化合物の粉体を熱処理により粉体間を強固に結合させて調製される(この加熱工程を焼結と呼ぶ)塊(バルク)状の材料であります。薄膜や粉体セラミックスもあります。

 さて,私の研究グループは生体硬組織の主成分であるヒドロキシアパタイト(HAp)の電磁気的性質に関する研究を行っています。目下の所は世界的にも私たちの研究に類するものは皆無です。目的は人工臓器に利用されうるスーパーバイオアクティブセラミックスの開発であります。HApは最も優れた生体活性を有するバイオマテリアルとして知られていますが,電気的にも大変特異な性質を有しています。たとえば1000℃の高温では数少ない,良好なプロトン導電体であり,室温近傍では全く電気を通さない誘電体となります。私たちの研究はこの誘電性のバイオマテリアルへの利用です。

 電気的な処理(ポーリング)をして材料表面近傍に空間電荷層を形成させると,反応活性空間を表面近傍の局所に構築できることを明かにしました。反応活性空間を誘起する力がもたらすものをエレクトロベクトル効果,効果の届く場を巨大化学活性空間と呼んでいます。その研究成果の一つとして,無機成分をヒトの体液にほぼ等しく調製した擬似体液中において,ポーリングアパタイトのエレクトロベクトル効果により表面に骨類似結晶が数倍の成長速度で得られる加速バイオミメティック法を開発しました。

 さらに最近HApのエレクトロベクトル効果は細胞を誘導したり,骨形成能を飛躍的に向上させる可能性を秘めていることを見い出しました。回りくどい言い方ですが,対象が生体組織との反応ゆえであります。この成果は近々に公表する予定にしています。

 本プロジェクトを通してアパタイトが天恵であることを痛感しています。さらに発展させて臨床応用に至ることを願って総勢24名でエレクトロベクトル(スーパーバイオアクティブ)セラミックスの開発に挑んでいます。

  フルラス記念賞授賞式 右側が筆者