ブラジル産薬用植物に含まれる抗Helicobacter Pylori活性物質のフラッシュマイクロアナリシス

−日本化学会第72春季年会「ポスター賞」を受賞して−

 

医用器材研究所化学研究部門 文部技官(教務職員)大 崎 愛 弓

 

 この度,3月末に行われた日本化学会第72春季年会においてポスター賞を受賞することが出来ました。このポスター賞は講演賞とともに春季年会の活性化の一環として表彰されたもので,日本化学会産業委員会・産業懇談会によって選考が行われました。今回受賞したポスター賞は,全部門937件の発表から30名が表彰され,私の発表部門である天然物化学からは1件が表彰されました。選考基準は,A.研究内容はどうか,B.論理的で簡潔にわかりやすく表現されているか,C.視覚的な注目度や説得力はどうか,D.説明者の応対はどうか,の4点でした。

 発表題目は「ブラジル産薬用植物に含まれる抗Helicobacter pylori活性物質のフラッシュマイクロアナリシス」です。研究内容は,ブラジル産の薬用植物,70種類から胃炎,胃および十二指腸潰瘍,胃癌との関連性が注目を浴びているH.pyloriに対する選択的殺菌作用を持つ化合物の探索を,マイクログラムレベルでの植物エキスを用いて,敏速,簡便に行う方法論の開拓を含めて行った研究です。このフラッシュマイクロアナリシスと名づけた方法論は,植物中の活性発現本体の探索を多種類の植物エキスに対して,微量でかつ敏速,簡便に行うことが可能であり,創薬においていかに早く創薬のシーズを見つけ,リード化合物にたどりつけるかということを念頭に開発したものです。今後展開されると思われる天然物中の活性物質の探索の全自動化にも役立つものと考えています。今回の発表ではH.pyloriに対し,極めて高い選択性を持つcabreuvinを単離しており,現在はこれをリードとした医薬への展開を行っています。本研究は数年前からの三菱化学横浜総研との共同研究の一環であり,共同研究者である,高嶋,千葉両氏とのチームワークの結果得たもので,この賞は私達の研究に与えられたものです。

 時々人から,「何故,ブラジルなのか?」と聞かれることがあります。11年前,学位を取得したのを機に,未知の天然資源から人類の医学に貢献できる新薬へ至る化合物を発見したいと強く心に思いました。大河アマゾンを抱くブラジルの熱帯雨林地帯は,地球上で最も植物種が豊富であることから,ブラジルの民間薬に着目しました。そして実際にブラジルへ赴き,生薬250種あまりを持ち帰って来ました。この研究は近畿大学医学部在職中にスタートし,5年前に医歯大へ移ってからも,今は亡き菰田泰夫教授の御好意のもと研究を継続させて頂きました。私の研究は,現在の医療で問題となっている,癌,HIV,アルツハイマー症,糖尿病,H.pylori,耐性マラリアなどに対して生理活性を持つ化合物の探索を行うことにあります。研究者個人の興味にとどまることなく,社会・医療への還元を行うことを常に考え,良好とは言えない研究環境ではありますが,微力ながら,地道で根気強い研究を,今後も続けて行きたいと思います。