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研究報告

光で細胞内カルシウムシグナルを自在に操る技術を開発

― カルシウムイオンが制御する多様な生命現象の理解の促進を期待 ―

・細胞内カルシウムシグナルを光で効率良く制御できる人工タンパク質を開発しました。
・この人工タンパク質の遺伝子を導入し、動物個体にも応用できることも示しました。
・細胞内カルシウムシグナルは多様な生命現象を制御しており、本ツールは広く生命科学の研究の発展に貢献することが期待されます。

 当分野の石井智浩助教、中田隆夫教授の研究グループは、岡崎統合バイオサイエンスセンター、東京大学との共同研究で、光を用いて効率よく細胞内カルシウムシグナルを自在に操作する技術を開発しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに武田科学振興財団、岡崎統合バイオサイエンスセンター次世代バイオ共同利用研究の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は国際科学誌Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)に2015年8月18日午前10時(英国時間)にオンライン版で発表されました。
Light generation of intracellular Ca2+ signals by a genetically encoded protein BACCS.
Tomohiro Ishii, Koji Sato, Toshiyuki Kakumoto, Shigenori Miura, Kazushige Touhara, Shoji Takeuchi, Takao Nakata.
Nature Communications. 2015 Aug 18; 6:8021. doi: 10.1038/ncomms9021
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【研究の背景】

 カルシウムイオンはほとんど全ての細胞において重要な役割を果たす細胞内シグナルで、受精、細胞分裂、遺伝子発現、細胞移動、分泌、神経活動、免疫、筋収縮、細胞死など多様な細胞機能を制御しています(図1)。カルシウムシグナルの作用時間は細胞機能によってミリ秒から数時間まで様々であり、また同一細胞内でもシグナルが生じる場所によって効果は異なる例が多数知られています。そのようなカルシウムシグナルの役割を詳細に調べるために、特定の時間、特定の細胞局所においてカルシウムシグナルを効率良く誘導する技術の開発が求められていました。光は細胞へのダメージが少なく、時間的・空間的に自在に操作できることから、光によりカルシウムシグナルを誘導する人工タンパク質がこれまでにも報告されていますが、カルシウムシグナルの誘導効率が高くないことなどを大きく改善する必要がありました。

【研究成果の概要】

 本研究グループでは光により細胞内カルシウムシグナルを効率よく制御する方法を新たに開発することを試みました。植物由来のタンパク質フォトトロピン1は植物の茎などが光の方向に曲がる光屈性を制御していることが知られています。フォトトロピン1の光感受性ドメイン(LOV2)は青色光を照射することで構造変化を起こすことから、光スイッチとして利用することができます。またヒトやショウジョウバエなどに存在するカルシウム選択的イオンチャネル(Orai)のチャネル開閉を制御する分子としてStimタンパク質が知られていました。これらの知見を合わせて本研究グループではLOV2とStimの融合タンパク質を作製することで青色光によりStimタンパク質の機能を制御する光スイッチBACCS(Blue light-activated Calcium Channel Switch、青色光活性化カルシウムチャネルスイッチ)を作製しました(図2)。青色光を照射しない条件では、LOV2ドメインがStimタンパク質の機能を立体障害しOraiチャネルと相互作用できないが、青色光を照射するとLOV2ドメインの構造変化が引き起こされStimタンパク質の立体障害が解消されてOraiチャネルを開口します。様々な改良を重ねた結果、ショウジョウバエ由来のStimタンパク質を用いたBACCSが効率よくショウジョウバエ由来のOraiチャネルを活性化し、細胞内カルシウムシグナルを極めて早く、大きく誘導できることを見出しました。また、制御ドメインを工夫することで反応速度を緩急変化させることも可能でした。

 マウス海馬初代培養細胞にBACCSを発現させ、神経突起の先端に青色光を照射したところ、局所的にカルシウムシグナルを誘導することができました。このことから特定の細胞の中の特定の部位におけるカルシウムシグナルを操作することが可能であることが分かりました。またカルシウムシグナルはNFATという転写因子を介して特定の遺伝子群の発現を誘導することが知られています。BACCS発現細胞に青色光を照射することで実際にNFAT転写因子依存的な遺伝子発現を誘導することができました。またBACCSの遺伝子を導入し嗅神経細胞で発現するトランスジェニックマウスを作製して嗅覚上皮を解析したところ、青色光の照射により神経細胞が応答することを確認することができ、BACCSの動物個体への応用も可能であることを示しました。

 今回の研究では、BACCSは青色光により簡便に早く大きなカルシウムシグナルを誘導できること、そして特定の時間に特定の場所でカルシウムシグナルを誘導できること、さらに培養細胞・動物個体の両方に利用できることが確認できました。

【研究成果の意義】

 今回開発したBACCSは従来のカルシウムシグナル光スイッチと比べて、応答の大きさや速さの点で大きく改善されました。さらに様々な細胞種、そして動物個体での使用も可能であることから広く様々な研究に利用できると考えられます。今回の研究で青色光により細胞内カルシウムシグナルを自在に操作することが可能になり、糖尿病等の内分泌に関わる疾患や高血圧・動脈硬化などの平滑筋収縮に関わる疾患などの研究にも応用できる可能性があります。BACCSが様々な生命科学の研究の発展に貢献することが期待されます。


レーザー光線で神経細胞の動きを操縦する

 テレビやゲームなどでは、怪物をレーザービームで撃つと退治できたりしますが、私たちは神経細胞の突起の先端(成長円錐、Growthcones)をレーザービームで撃つことで、成長円錐の動きを制御することに成功しました。

 これは、PI3K (Phosphatidyl inositol 3-kinase)という癌や糖尿病など様々な病気にも関わる重要な蛋白質(酵素)の機能を調べるために行った実験です。私たちは、植物が太陽光に反応すること(向日葵で有名です)を利用し、PI3Kと植物の蛋白質とのハイブリッドを作製し、この酵素が光によってオンオフできる(光スイッチ)ようにして、神経細胞に導入しました。

 動画画面をご覧ください。神経細胞は、丸い細胞体から何本かの神経突起が出ているタコのような形をしています。その先端には成長円錐という構造があり、活発なものは人の手のような形状になっていて、手のひらに当たる中心部には細胞内小器官が多く、末端は手指のような偽足が生えています。ここにレーザー光線を当てると、その成長円錐のPI3Kの活性が上がり(擬似カラー)、またその運動が活発になりました。さらに別の突起に光を当てると今度はその成長円錐が活性化されたので、良く動き出す突起をマグレで刺激したのではないことが分かります。

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 私たちはこのように顕微鏡下で細胞の部位、時間特異的に光操作可能なPI3Kを用いてPI3Kを介したシグナルの神経突起成長における機能を明らかにしました。さらに詳しくはT. Kakumoto, T. Nakata. Optogenetic Control of PIP3: PIP3 Is Sufficient to Induce the Actin-Based Active Part of Growth Cones and Is Regulated via Endocytosis. PLOS ONE 8(8): e70861. 2013.(別ウィンドウで開きます)

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