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教授挨拶

ERセンター開設10年を振り返り、今後を見据える


東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 救急災害医学分野 教授
東京医科歯科大学医学部附属病院 救命救急センター長 

大友 康裕

大友 康裕

 2006年(平成18年)1月、東京医科歯科大学に救急災害医学分野教授として赴任し、同4月からERセンターとして診療を開始して丸10年が経過しました。当初7名でスタートした教室でありますが、毎年3~7名の新入医局員を迎えることができ、2016年度で医局員数61名となりました。大変有り難いことであります。


これまでの10年間を振り返りたいと思います。

 まず、医学部附属病院救急診療体制の大改革に取りかかりました。当時、院内のあらゆるシステムが「救急医療を行わないことを前提」に整備されている状況であったと思います。具体例を挙げると枚挙に暇がありませんが、私が最も驚いたのは、夜間休日には緊急のCT撮影が実施できないため、「脳神経外科が教室の研究費でCT撮影装置を購入し、それをICU内に設置して、脳外科当直医が自らCT撮影を行っていた」ということでした。その他、「緊急手術の申し込みは、患者管理で手一杯の執刀医が、患者のもとを離れ、手術室前まで出向いてオーダーを入れる」などさまざまあり、理由は「リスク管理」「医療事故防止」とのことでした。このように大きな制約がある環境の中で、各診療科持ち回りで救急診療をしなければならなかった学内の医師の方々の負担は相当のものであったと思います。私が医科歯科大学に赴任すると聞いた多くの医科歯科大学卒業生から「申し訳ありません」と謝られて、最初なんのことかよくわかりませんでしたが、赴任し救急診療体制を確認して、ようやくその意味を理解しました。早速、坂本徹病院長にお願いして、「ERセンター運営委員会」を設置させて頂き、2週間に1回のペースで会議を開催し、救急診療を実施するうえでの障壁・非効率な手順・マンパワー不足・連絡体制の不備などの問題点を抽出し、改善する作業を急ピッチで進めました。2008年2月時点で「既に基本的に対応済み」の事項は41項目に上り、救急診療における無用なストレスは大幅に軽減されました。
 また、「ERセンター運用取り決め」を、各診療科・院内各部門の合意のもとに文章化し、ルールを明確化しました。これによって、医師の出入りが多い大学病院で発生しがちな診療手続きをめぐる無用なトラブルの回避につながっています。この委員会の運営が順調に進んだのは、坂本病院長の全面的なご理解と指導力、看護部・院内各診療部門・診療各科の協力によるものであり、改めて感謝申し上げます。また、施設整備に必要なさまざまな予算措置に寛大なご配慮をくださいました故鈴木章夫学長ならびにマンパワー不足への対処として研修医・レジデントをより多く救急に配置してくださった田中雄二郎教授にも、心から感謝致します。
 お陰様で東京医科歯科大学での救急診療を、順調に立ちあげることができたわけですが、このことを「奇跡を見るよう」に驚いていたのは、前述の医科歯科大学卒業生の皆さんでした。
 2006年7月、ER外来の大改修が終了し、真新しく広い(今は手狭に感じますが)外来で診療を開始したときの感激は今も忘れません。
 2007年7月救命救急センターの認可を頂き、その後、東京消防庁ヘリコプター受け入れ開始(2007年10月1日)、ドクターカー運行開始(2009年3月23日)と救急診療体制の整備が進み、救急車受け入れが年間8,500台を超える実績を達成し、厚生労働省の救命救急センター充実段階評価で、平成23年以来、全国1位の評価を頂いております。
 東京医科歯科大学の救急診療体制は、都内の救命救急センターとしては珍しく、最重症の救急患者だけを診るのではなく、軽症・中等症の救急患者も救急科スタッフが診療する「医科歯科スタイル」をとっております。これは、院内各科の救急診療の負担を軽減するとともに、医学科学生・初期研修医の臨床実習・研修にとって最も重要な“Common problem, Common disease”患者の診療を、きちんとした指導医のもとで実践する機会を提供し、その結果、良質な内科臨床実習および救急診療研修につながっています。
 研究面では、2011年に教室初(その後4人)の学位を発行し、現在12人の大学院生を抱えております。教室の基礎研究や各種データバンクを活用した研究などにより、毎年インパクトファクターの高い学術雑誌に数編ずつの論文を掲載するまでになりました。2013年10月の第5回日本Acute Care Surgery学会を皮切りに、2014年2月に第19回日本集団災害医学会、同年12月に第9回日本病院前救急診療医学会の学術集会を当教室で主催させて頂き成功裡に終わることができました。また、2016年5月には、第30回日本外傷学会学術集会を主催させて頂きます。
 医局員が40名を超える数になった頃から、東京女子医科大学東医療センター(2012年4月)、松戸市立病院(2012年4月)、静岡県立総合病院(2013年4月)などへ、医局員を派遣しております。これは、「有能な救急医を養成するためには、複数の病院での救急診療の経験が必要である」という考え方に基づきます。実際、私自身、多くの病院で勤務させて頂きました。また、救急医としての修練とともに、サブスペシャリティの修練も必須と考えております。医局員には救急科専門医に加えて、外科、内科、麻酔科などの専門医を取得するダブルボードを推奨しております。現在、ダブルボード取得者は19人に上っており、今後急速に増加すると期待しております。
 教室では、2017年度からの新専門医制度の「救急科専門医プログラム」および「外科専門医プログラム」を作成し、大学医局ならではの柔軟な研修システムを提供していきます。私どもの教室の強みは、「辞める医局員がほとんどいない」ことです。入局後、教室が提供する修練環境の中で、「将来、救急医としてやっていこう」と自らの判断で決めてくれることが有り難いと思っております。
 現在、わが国の医療は、慢性的な医師不足に悩まされています。また約10年前に地域での救急医療崩壊が顕在化して、今も続いております。毎年、8,000人を超える数の医師を世に輩出しても、専門・細分化された診療領域を担当する医師だけが増えたのでは、この医師不足・救急医療崩壊は永遠に解消しません。これを解決するためには、1人で広い診療領域をカバーし、重篤症例や患者急変にも適確に対応できる救急科専門医を増やすしかありません。
 2025年に到来する超高齢社会に耐えうる医療提供体制構築に向け、「地域医療構想(ビジョン)」が提示されておりますが、この体制を中心的に担うことのできる能力をもった医師は、「救急医をおいてほかにない」と確信しております。そのためにも、できるだけ多くの救急科専門医を世に輩出していくことを、教室の最も大切な責務として努力して参ります。
これからも、ご支援賜わりますよう、お願い申し上げます。